深き者
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第六章
第六章
しかしやはり何もなかった。図書館もなければ村役場もだ。そういったものも何一つとしてなかった。そして二人が何とか見つけたものは。
「これだけですね」
「そうだな。これだけだ」
二人は今教会の前にいた。小さくやけに古ぼけた教会だ。黒い今にも崩れ落ちてしまいそうな屋根の上にこれまたたった今折れてしまいそうな白い十字架が掲げられている。その古ぼけた教会の前に車を停めてそのうえで二人並んで立っているのであった。
「教会はありましたね」
「流石にな」
こう本郷に返す役だった。その古ぼけた扉を見ながら。
「教会はあったか」
「けれどかなり古いですね」
「この村ではこれも当然か」
役は今もその扉を見ながら言うのだった。
「古いのはな」
「中に神父さんか牧師さんいますかね」
「普通はいるがな」
「まあそうなんですけれどね」
教会に神父か牧師がいるのは当然のことだった。しかし今の二人はそのことすら疑っていたのであった。それだけこの村が寂れているからだ。
「とりあえず中に入りますか」
「そうだな」
本郷の言葉に頷くとだった。そのまま前に出る。そうして扉を開けるとだった。
中もまた実に酷いものだった。席も全て古ぼけていて触っただけで崩れてしまいそうだった。礼拝堂もまた掃除こそされているがそこも今まさに崩れてしまいそうだった。十字架もそこにある主もそこにあるのが奇跡なまでに朽ちている有様であった。
教会の中には誰もいない。本郷はその朽ち果てようとしている中を見たうえで役に顔を向けてそのうえで彼に対して問うた。
「どう思います?これは」
「誰もいないか」
こう述べた役だった。
「やはりここは」
「帰りますか?やっぱり」
「そうだな。それで今回はだ」
「もう車を拠点にして調べていきますか」
「そうするしかないようだな」
そんな話をした。だがここで。その教会の奥から一人の小柄な黒い服の男が出て来たのであった。
「おや、これは珍しい」
「あれ、いましたね」
「神父さんですか?」
「いえ、私は牧師です」
こう答えるその黒い服の男だった。見ればその黒い服は法衣であり首には十字架がかけられている。髪は白く丁寧に後ろに撫で付けている。顔は穏やかであり深い皺こそあるが全体として気品を感じさせる落ち着いた顔であった。黒い目の光も優しいものである。
「この教会の」
「そうでしたか。牧師さんでしたか」
「それはまた」
「ふむ。東洋人の方ですか」
その牧師は二人の姿を見て今度はこう述べた。ゆっくりとした足取りであるがもう二人の前に出て来ていたのだった。
「見たところ」
「はい、日本から来ました」
「海の向かい側の国からです」
「そうですか。日本からですか」
牧師は彼の言葉を聞いて何度も頷くのだった。
「それは遠いところからよく」
「はい。一旦オタワに着きまして」
「そこからここまで」
「オタワからとは」
今の二人の言葉にこれまで以上に驚いた顔になった牧師だった。小柄なので二人の顔を見上げている。そのうえでの言葉であった。
「また遠かったでしょう」
「何日もかかりましたよ」
「車で来ました」
「車でしたら教会の側に止めておいて下さい」
車のことはこれで終わった。
「脇の方にスペースがありまして」
「そうですか。それでは」
「後でそちらに移しておきます」
「はい。それでです」
牧師は二人にさらに問うのだった。
「貴方達はどうして日本からこちらに」
「はい。ちょっと旅行で」
「それでこちらまで」
こう言って誤魔化すのだった。とりあえずそういうことにしたのである。
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