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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第五八幕 「ミサイルハッピー」

 
前書き
今日凄い事に気付いた。
風花の待機形態書くのを完全に忘れてた・・・待機形態はベルトです。ライダー的なものではなく実用性のある奴。 

 
前回のあらすじ:護る為の戦い、開幕

鈴の振りかぶった双天牙月がラファール・リヴァイブ C(カスタム)Ⅱの装甲を軽く切り裂く。が、あくまでやられたのは表面だけでシールドエネルギーを削るには至らない。しかもシャルは斬撃に合わせて衝撃が最小限になるよう回避行動を行ったため体勢を崩すにも至らなかった

双天牙月の斬撃の速度や角度を一瞬で見切ったその技量は代表候補生に相応しい。それだけに、鈴にはシャルが許せない。

「それだけの実力を持ってるのに・・・何で正々堂々と戦わなかったぁ!!」
「僕はいつだって真面目で全力だよ!」
「違う!!簪を無理やり引き込まなくたってアンタには他の道があったでしょうが!!」

そう、そこが鈴とユウにとって最も不可解な所だった。彼女は1年生の専用機持ちの中でも技量は上の方であり、態々簪に拘らずに鈴やユウと組んでも上位を狙えたはずである。なのに彼女は簪を無理やりパートナーに引き入れたばかりか洗脳などと言う真似までしてこの戦いに臨んでいる。
一体何があの温厚なシャルを突き動かしてるのか、それが二人にはどうしてもわからなかった。

「僕には僕の思惑があるんだ!例えばぁ・・・こーんな新兵器のお披露目とかさぁ!!」

いっそ不気味なほどに爽やかな、そしてどこか素直に美しいと思えない歪な笑顔が哂う。瞬間、リヴァイブCⅡのバックパック、丁度肩の後ろにある白いパーツが突如ばくんと開く。本来ただのスラスターウイングのジョイントに過ぎないはずのそこは、前にシャルがユウや簪と一緒にラファールを改造した際に付けられた新装備の一つ。
中から姿を現したのはIS用ミサイルにしては大きすぎる弾頭の姿。鈴はユウからこのギミックの事は聞いていたものの、流石に中身が何かは判断がつかない。

「さあ、デュノア社自慢の新兵器ぃ!!マイクロミサイルの誘導技術を惜しげなく導入した・・・半誘導式クラスターAP弾『グレール・タンペット』のお披露目だぁ!!!」
「AP(アーマーピアシング)弾!?マズッ・・・間に合えぇぇぇ!!」

その危険性を瞬時に予測した鈴は顔色を変えて弾頭の射線上から退避する。瞬間、発射されたクラスターAP弾の表面が弾け、中から夥しい数の弾丸が封を解き放たれた。何とか初動が間に合った鈴だったが全ては避け切れず、脚部を中心に凄まじい衝撃が襲い、悲鳴が出ない代わりに肺の中身がすべて吐き出された。
ISがダメージコントロールを行うと同時に被害を報告。それを見た鈴は苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。脚部の表面装甲がごっそり持って行かれ、内部も徹甲弾で滅茶苦茶。何とか動かす分には問題ないもののオートバランサーが完全にイカれたため機体そのもののバランスが取りにくくなってしまった。

「っつぅ~・・・洒落にならないわ、これ」
「アレアレ?誘導が甘かったかなー?弾速が速すぎると細かい誘導(コントロール)が効きにくくて大変なんだよねー」

AP弾とは日本語で言えば徹甲弾。しかもクラスターという事はあの大型弾頭の中にぎっしりとそれが詰まっていることを意味する。そして半誘導式という言葉からして完全ではないにしろ誘導機能がある程度備わっているのだろう。そしてその情報をぺらぺらと喋るシャルロットに鈴は歯噛みする。

―――ばれた所で鈴に僕は追い越せない。シャルはそう言いたいのだ。代表候補生としての格が違うと言わんばかりの態度と、実際にそれ相手に痛手を負ったという現実が重く圧し掛かった。そして被害はそれだけに留まらない。

ズガガガガガガガガガガンッ!!

『かはっ・・・!?』
「な、ユウ!?しまった・・・!!」

鈴が回避したAP弾は鈴だけを狙ったものではなかった。むしろ鈴はついで、本命が簪を追い詰めつつあったジョウと風花だったのだ。ここにきて鈴は自分のうかつさを呪った。ハイパーセンサーで確認した限りでも風花は明らかに背部のバーナーやバーニアに甚大な被害を負っている。かといって今シャルに後ろを見せれば致命的な隙を晒してしまう。―――こういう状況になると分かってて、シャルは狙ってこれをやったのだ。

踊らされた。この中国代表候補生である凰鈴音が。同年代、同級生、同格であるはずの少女に。

だがそれを悔しがる時間すら鈴にはない。既にその手に試作連射式ミサイルガン“ムーランナヴァン”を握ったシャルが追撃を仕掛けていたからだ。

「駄目だよ鈴?パートナーのフォローはしっかりしておかないとねぇ?じゃないと・・・こうして隙を晒すことになるからね!!」
「きゃぁぁぁ!!くぅ・・・負けるかぁぁぁ!」
「強がりはいいんだよ!欲しいのは結果!ミサイルで倒したという結果!!」
「そんなものが欲しくて、アタシ達から簪を奪ったのか!!」
「大事なものだよ!!僕とデュノア社にとってはねぇ!!!」

回避行動が間に合わず数発のミサイルが至近距離で爆発する。甲龍の頑丈な装甲はどうにか衝撃に耐えたが、シールドエネルギーは着々と削られている。脚部バランサーをやられたことが響いているのは明白。そしてミサイルと言う使い時を選ぶ兵器を隙も晒さず使い続けるシャルの並はずれた技量。衝撃砲で牽制して何とか距離を離しつつも、鈴は敗色が濃厚であることを肌で感じていた。

だが、逆転の目はまだ残されている。甲龍と風花に残された最後の切り札・・・それを切るタイミングは決して間違えてはならない。

(問題はユウの援護なしに“あれ”を成功させられるかどうか・・・見極めるのよ、凰鈴音。チャンスは必ず訪れる・・・!)




時間は少し遡る。

シャルのクラスターAP弾によりバックパックに甚大な損傷を受けたユウは絶体絶命の苦境に立たされていた。眼に前に迫る打鉄弐式の凶刃。避けるすべは既になく、AP弾直撃の影響で脳を揺らしたのか呼吸が乱れる。

(・・・どうする!どうすれば・・・兄さんならこんな時、上手く考えるんだろうか・・・?)

ジョウならばこの状況でどうするか。答えは簡単、あの人の事だからそもそも敵の攻撃に当たらないだろう。参考にならない。
一夏ならどうだろう。恐らく雪片で上手く受け流すなどして一撃位は凌げるだろう。だが今から剣を展開するのでは物理的に間に合わない。
鈴なら衝撃砲がある。この距離ならたとえ敵が目の前でも彼女はきっちり命中させるに違いない。だが、風花にそんな便利な武装はないし、鳴動もチャージが間に合わない。

なら箒ちゃんなら・・・シャルなら・・・簪ちゃんなら・・・セシリアさんなら・・・・・・セシリアさん?


かちり、と歯車が回った。


そうか、セシリアさんなら・・・少々博打を打つことになるが・・・いけるか?
コンディションチェック。2番バーナーだけではバランスが取れないが、パイロット保護に回しているPICを機体に部分的に作用させれば辛うじてバランスは取れる。問題は時間だが・・・いや、やってやる!


ユウはその歯車に合うもう一つの歯車を連結させた。


夢現の刃が風花のボディを容赦なく切り飛ばそうと振るわれ、風花のパーツが宙を舞う。しかしそれを見た簪は驚愕に目を見開く。宙に舞ったそれは、IS操縦者の頭部保護とレーダーを兼ねたヘッドギアのみだった。

風花が、沈んだ。明らかに機体の機動と関係なくその自重によって横凪ぎの刃から逃れていた。何故、どうやって―――その疑問の答えは今よりもずっと前、ユウがクラス代表決定戦で戦った日に遡る。

「PICを切って落下速度を速める・・・セシリアさんが一夏との戦いでやった技術(テクニック)だ!!」

それは見る人から見れば無謀以外の何物でもない、危険極まりない禁断のテクニックだった。

「馬鹿を・・・!スラスターがいかれた風花で、そんなことをしたら・・・地表に落下する!そうなれば―――」
「どうなるか、今から教えてあげるよ!!」

これで立て直しに失敗したら今度こそ簪の山嵐の餌食となって試合が終了することとなる。だが、それでもあきらめないのが残間結章と言う人間だという事を思い知らせてやる。僕が世界一諦めが悪くて往生際が悪くてしつこいか、この光景を見ている全員に見せつけてやる。

(AMBACによる機体の角度調整。PIC再稼働による落下速度減退速度を最小限に設定、ブースト後にバランスを取る最小限を除いて全カット。加速射角調整、それでも取れないバランスはフィンスラスターで強引に修正する!!)

普段ならば絶対に間に合わないほどの細やかな機体コントロールを恐るべきスピードで消化する。今まで出来なかったことが出来るようになる、新たなステージの扉を開く快感。僕はまた少し前へ進めたようだ。
この短期間でやるべきことを全て出来た。賭けには勝った。まだ僕は―――

「前へ・・・進めるッ!!」

地表激突寸前に2番バーナーが激しく噴射し、体が押し潰される錯覚さえ覚えるGが機体を軋ませる。やはりバランスが取りきれなかったためにフィンスラスターが火を噴き、その強引な修正がさらに体に負荷をかける。簪が一瞬遅れて山嵐を斉射した時には、既に風花は落下から反転し急上昇を開始していた。
まるで一つ一つが生物の様に有機的に動くミサイルだが、ユウの急激な速度変化に追跡が遅れる。本来ならそれでも絶対に間に合わない速度ではなかったし、途中でミサイルを自壊させればダメージを与えることが出来た。しかし、簪の「立て直せるわけがない」という先入観が一瞬・・・ほんの一瞬思考を鈍らせた。

「・・・ミサイルのトレースが、間に合わない・・・!」

撤退の判断そのものは早かった。後退してパートナーと連携すれば手負いのユウを撃破するのは難しくない。鈴も既にシャルに追い詰められている以上ここで不要なリスクを負うのは割に合わない。
―――そう考えた簪だったが、間に合わなかった。

「捕まえ・・・たぁ!!!」
「しまっ・・・!」

現行ISの中に、直線距離で風花から逃げられるISなど存在しない。バーナーによる噴射加速は1つでも十二分な推進力を生み出し、その腕が確りと打鉄弐式のスカートに手をかけていた。

「噴射加速最大!!おぉぉぉぉぉ・・・りゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「滅茶苦茶な・・・きゃああっ!!」

バーナーの噴射と同時に体を捻り、ISのパワーアシストを全開にする。抵抗する簪だが打鉄弐式にはゼロ距離で使用できる兵装が存在しない。強烈なGと遠心力をその身に乗せて、ユウは彼女を全力で投げ飛ばした。
投げ飛ばされた先は・・・シャルと鈴音の丁度直線状。今まさに鈴への止めを刺さんとシャルが“ジョークポット”を発射した瞬間だった。

それは事故でも嫌がらせでもなく・・・敢えて言うならば意趣返し。鈴に大量のミサイルを放った直後のシャルが舌打ちをする。

「簪を強引に巻き込む気!?それとも彼女を盾に鈴を助ける気かな!?どっちにしろ残念でした!僕と簪のミサイルは全部ぜーんぶフレンドリーファイア対策を完璧にしてあるんだよ!!」

その言葉が示す通り、投げ出された簪に命中しないように発射されたミサイルたちが次々に弾道を変化させ、全て別角度から鈴を追跡し始める。だが、そうなることは知っていた。知っていたうえで敢えて言おう、予想通りだと。

「残念、正解は今から始まる大博打のコイントスだよ」
「は?何言って―――」
「戦いの場で相手に質問なんて余裕じゃない?」

その瞬間、今まで一撃も攻撃を受けていなかったシャルの喉元に首の骨が砕けそうなほど巨大な青竜刀が直撃した。絶対防御発動と同時に喉を襲いくる不快感とビリビリと震えるような痛み。ややあって、シャルはその青竜刀――双天牙月が鈴から投擲されたものであることに気付いた。
簪が射線上を通ったことでミサイルに出来た切れ目、そして方向転換によるラグ。ユウの行動はシャルのパーフェクトゲームを妨害するには十分すぎるほどの隙を生み出していたのだ。
せき込みながらもシャルは恨めし気な視線で鈴を睨みつける。

「うぐっ・・・げほっ、げほっ!!う゛ぅ・・・この、くたばり損ないが・・・!!」
「窮鼠猫を噛む。うちの国の故事成語よ・・・意味は身を持って知りなさい!!」
「舐めるなぁ!!こっちは越えてきた場数が違うって事、嫌と言うほど教えてあげるよぉ!!!」

正面にシャル。そこから十数メートル先に体勢を立て直した簪。鈴に寄り添うように隣まで移動してきたユウがふん、と鼻を鳴らす。
シールドエネルギーは風花・甲龍共にイエローゾーンを通り過ぎようとしている。しかも風花はブースター類に、甲龍は脚部のバランサーに大きなダメージ。対する相手側は今までにつかったミサイル以外に目立った損傷はなし、エネルギーもいましがたシャルから少し削った程度しか目立った物は与えていない。

「ズタボロね。もう少し身なりに気を遣ったら?」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ。ダメージジーンズのつもりかい?」
「まさか。柄じゃないわ、そういうファッション」

絶望的とも言える状況にもかかわらず二人の目には諦めの2文字は無い。
友達のために。
友達を助けるために。
友達を諌めるために。
そしてなにより、己の誇りのために。

さて、さてさて皆様寄ってらっしゃい見てらっしゃい。これから開演しますは二人の若者が魔王に攫われた姫を救い出す、一世一代の大逆転劇で御座います。途中退席もお喋りも、今だけはご遠慮くださいませ。
 
 

 
後書き
グレール・タンペット(雹嵐)
PICコントロールによって発射後の0,2秒だけ方向転換が可能な弾頭。徹甲弾のため弾速はミサイルと比べ物にならない上に一発一発の貫通力が高い。が、とっても高価。一発で打鉄のブレード20本分はするというトンデモお値段を誇る為買い手は限られる。

ムーランナヴァン(風車)
試作連射式ミサイルガン。給弾機構が風車を連想させる形状をしているような気がする。オーガスのミサイルガンをインスパイアした。装弾数16発。
 
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