深き者
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第三十九章
第三十九章
「行くか」
「このままですか?」
行く前に一応役に対して尋ねた。
「このままであの嵐の中にですか」
「勿論このままではない」
役はそれは否定したのだった。
「このままではな」
「じゃあどうするんですか?」
「飛び込む」
そうするというのである。
「あの中にな」
「っていうとあいつの懐にですか」
中というのはこの場合はそこであった。邪神の懐という意味である。その中に一気に飛び込むというのである。
「あの嵐を通らずにだ」
「また無茶なことを言いますね」
本郷は今の役の言葉を聞いて思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「嵐を通らずにあの中をっていうのは」
「方法はある」
だがそれでもだった。ここでも彼の冷静さは全く変わらない。何一つとしてだ。
「私にな」
「どういう方法ですか?それは」
「これだ」
言いながらだった。不意に懐から何かを出してきたのだった。
それは薬だった。それを一気に二人の周りに撒く。するとだった。
「えっ、この薬は!?」
「身体を一旦原子レベルにまで分解する薬だ」
それだというのである。見れば彼等の姿は完全に雲散霧消してしまっていた。海中の何処にも姿を見せることはない。
「これを使えばだ」
「あの嵐の中も通り抜けられるってことですか」
「そういうことだ」
まさにそれだというのである。
「これでわかったな」
「ええ、これならよく」
「しかしだ」
薬を使ってみせたうえでまた言う役であった。やはり二人の姿は完全に消えてしまっている。
「この薬の効き目は僅かな時間しかない」
「つまりその間にってことですね」
「そういうことだ。いいな」
「ええ、よくわかりました」
話を聞けばだった。もうそれで充分であった。役としてもだ。
「それじゃあ」
「一気に進む」
「はい」
二人はそのまま一気に駆け抜けた。そして邪神の目の前に来たその時にだった。ここでその姿が浮き出て来たのである。まるで煙から出て来る様に。
「ぎりぎりってところですね」
「しかし中に入ることはできた」
「ええ、それは間違いなく」
役の今の言葉に頷く。確かに今二人は鱗の嵐を越えてそのうえで邪神の懐に辿り着いていた。これは否定できない事実である。
「ここにいますからね」
「さて、後はだが」
「今のうちに倒すだけですか」
「急所を攻撃すればいいのだがな」
役は考える目で述べた。
「それだけだがな」
「急所はもうはっきりしてますよ」
本郷がこのことを役に話した。
「それはね。さっきの絵の具で」
「それはわかっている」
「じゃあすぐにでも」
「それはわかっているのだがな」
役の返答は今一つはっきりしないものだった。それが何故かというとだ。
「弱点を衝いてもだ。一つで倒れるだろうか」
「一つでは、ですか」
「これだけの巨体だ」
そのとてつもない巨体は幾ら見ても小さく感じることはなかった。まさに山の如き巨体である。
「一つの急所だけでそういけるかというとだ」
「疑問ってわけですね」
「その通りだ。無理かも知れない」
こう言うのである。
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