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深き者

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第三十章


第三十章

「いいな。それで」
「まあ覚悟っていうかわかっていましたしね」 
 本郷は言いながら刀を構えた。それと共に手裏剣も持つ。それは苦無型の手裏剣であった。その二つをそれぞれ出した上でまた言うのであった。
「じゃあ」
「やるか」
「やるっきゃないですね」
 言うその顔は楽しそうな笑顔でのものだった。
「今更逃げ帰ってちゃ仕事にもなりませんし」
「それもある。仕事をしないと生きていけない世界だからな」
「まあ世知辛い理由もついてますし」
「逃げるわけにはいかない」
「そういうことですね。じゃあ」
「来たな」
 十匹程度一斉に襲い掛かってきた。その半数以上が身体の何処かに傷を受けなくなってさえいる者もいた。しかし彼等はそれを意に介することなく二人に向かって来たのであった。
 来たのは正面からだけではない。後ろからも上からも下からも来る。本郷は上からまっ逆様に来た一匹に左手に持つその刀を突き出した。それだけでその額を貫いたのだった。
「まずは一匹ですね」
「油断するな」
「ええ、わかってますよ」
 応えながらその刀を前に払う。すると深き者の頭まで断ち切りそのうえで前から来たもう一匹を唐竹割にした。これで二匹目であった。
 その刀は続いて円に斬った。それで横と後ろから来た三匹を斬り捨てた。首を半分まで斬られた者や胴を裂かれた者がそれで沈んでいく。
 続いて一匹下から来たがそれには蹴りを入れた。目と目の間に爪先で蹴りを入れたのである。
 それは人ならば急所となる場所だ。だが深き者に対してはどうか。本郷は蹴りを繰り出しながらそんなことを考えていた。果たしてどうなるか彼にはわからなかったのだ。
「これで効果がなければな」
 刀で斬るつもりだった。しかしそれには及ばなかった。
 そこを蹴られた深き者はゆっくりと崩れ落ちていく。そうして彼もまた海の底に沈んでいく。人の急所は彼等にとっても急所なのであった。 
 こうして瞬く間に六匹の深き者達を倒した本郷だった。そして役もその間に四匹の彼等をその手に持っている銃で何なく倒していたのであった。
「結界を張って正解でしたね」
「海も中でも満足に動き攻撃できる」
「それに呼吸もできますし」
 それも実に大きなことであった。
「幾らでも戦えますよ」
「そういうことだ。敵地に入るにはそれに相応しい備えをしておく」
「ええ」
 役の言葉に頷くのだった。
「その通りですね」
「おかげで充分に戦える」 
 第一波を倒してそのうえで構えを取り直しながらの言葉だった。
「こうしてな」
「そういうことですね。さて、次は」
「また来るな」 
 言った側からであった。すぐに第二波が来た。今度は二十はいた。
 二人が容易ならざる相手と見てのことだった。しかし本郷はその彼等に対して己の分身達をすぐに向かわせて斬り込ませたのであった。
「数で来たらこっちも数ってね」
 彼自身も斬り込む。彼は真下から来る深き者達に踊り込んだ。そうして忽ちのうちに彼等を斬り捨ててしまった。空からの攻撃によりダメージを受けている彼等では満足に動ける本郷とその分身達の相手ではなかった。
 だがすぐに第三波が来た。今度も二十程度であった。
 本郷は再び分身達を向かわせようとする。しかしここで役が言うのだった。
「次は私だ」
「役さんがですか」
「そうだ。行かせてもらう」
 言いながらすぐに札を出した。それは数枚の赤い札であった。
 札達を投げるとすぐに赤い龍になった。それぞれ数メートル程度であるがその龍達が海の中でうねり狂いながら深き者達に向かい。その身体にまとわりついたのであった。
「!!」
「!?」
 するとだった。まとわりつかれた彼等は海中で燃え出したのだった。有り得ない光景が海の中で起こっていた。
「これも結界の結果ですか」
「そうだ」
 まさにそれだと答える役だった。
「こうしたことも海中でできるようになった」
「何か俺達にとってかなり有利じゃないですか?」
「少なくともそれ位でないとこれだけの数の相手はできない」
 役の言葉は至って冷静なものであった。
 
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