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デート・ア・ラタトスク

作者:エミル
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再会&不思議な出来事

「――神無月、状況は?」

真紅の軍服をシャツの上から肩掛けにした少女は、艦橋に入るなりそう言った

「司令。精霊出現と同時に攻撃が開始されました」

「AST?」

「そのようですね」

―――AST。対精霊部隊(アンチ・スピリット・チーム)

精霊を狩り精霊を捕らえ精霊を殺すために機械の鎧を纏った、人間以上怪物未満の現代の魔術師(ウィザード)たち
だが、超人のレベルでは、精霊に太刀打ちできないのが実状だ。それくらい、精霊の力は桁が違う

「え~確認されてるのは10名。現在4名が追撃、交戦しております」

「映像出して」

司令がそう言うと、艦橋の大モニタに、映像がリアルタイムで映し出される
繁華街から通りを二つくらい隔てた広めの道路の上で、二人の少女が巨大な武器を振り回しながら交戦してるのが確認できた

「中々やるわね。でも、精霊相手じゃどうしようもないでしょ」

「確かにそのとおりですが、我々が何もできないのもまた事実です」

「……神無月、股開いて」

「はい。こうですか?」

男は股を開くと、司令は思いっきりブーツで男の急所に蹴りをいれる

「おふぅ!!」

男が、この上なく幸せそうな顔を作るを無視し、また映像を見る。すると、指令は疑問な顔をする

「……ちょっと、神無月。今日、精霊が出現するのは一体だけじゃなかったの?」

「そうですが……なぜそんなことを?」

男も疑問な顔をすると、指令が男にも映像を見せる
映像に映し出されていたのは、二人の少女から戦っている所から少し離れた所に少年がASTと戦っているのが映し出される。歳は16ぐらいで大きいアホっ毛があり、首にマフラーを巻いている

「これはどういうことなの?」

「さぁ…私にもさっぱり分かりませんが……」

「もしかしたら、うちの艦にぶつかった少女が探してる人物かもしれないわ。すぐに呼んでちょうだい」

男は敬礼するとすぐにその場を去った


「さて…円卓会議(ラウンズ)からも許可が下りたし、作戦を始めるか」

司令の言葉に、艦橋にいたクルー達が息を呑むのが聞こえる

「司令。連れてきました」

「ん、ご苦労。神無月」

男が連れてきたのは、一人の少女だった。なめらかなブロンドの髪に特徴的な花飾りを二つ着けており、額には赤い宝石が少し埋まっていた

「エミル……エミルはどこにいるの?」

少女は探している人物の名前を言う

「あなたの探している人物はこの人?」

司令は映像に映っている少年に指を指すと、少女は目を大きく開く

「エミル!!やっと見つけた!!」

「そ、見つかって良かったわ。神無月、例の秘密兵器は?ちゃんと避難してるわよね」

「調べてみますね。え~と……おや?」

「どしたの?神無月」

「いや……あそこにいるんですが」

男がモニターに指を指した場所に例の秘密兵器とやらが気絶していた。そしてさっきまで戦っていた少年も気を失っていた

「ちょうどいいわ。あの二人を回収して」

「はい。かしこまりました」

男は指令に礼儀正しく礼をして立ち去っていった


















「う…………う〜ん………ここは?」

エミルは少し寝ぼけながら体を起こす

「確か僕は機械の鎧を着た人達に会って……そこからラタトスクが戦って……そこから覚えてないな」

ラタトスクがあの機械の鎧を着た人間と戦ったのは覚えているが、その後は何があったかは分からなかった。少しだけ考えていると

「うわっ!!」

誰かが驚いた声が聞こえた。隣の方から声がしたので見てみると

「………ん?二人共、目覚めたね」

妙に眠たげな顔をした女性と士道がいた。女性はの顔とは違わぬぼうっとした声で言う

「「だ、だだだだダレデスカ」」

「……ん、ああ」

女性はぼうっとした様子のまま体を起こすと、垂れていた前髪を鬱陶しげにかき上げ、女性の全貌が見取れるようになる。軍服らしき服を纏った、二十歳ぐらいの女性である。無造作に纏められた髪に、分厚い隈に飾られた目、後は何故か軍服のポケットから顔を覗かせている傷だらけのクマのぬいぐるみが特徴的だった

「………ここで解析官をやっている、村雨令音だ。あいにく、医務官が席を外していてね。……まぁ安心してくれ。免許こそ持ってないが、簡単な看護はできる」

「「……………………」」

二人はまるで安心できなかった。だって明らかに、士道やエミルよりもこの令音という女性の方が不健康そうに見えたからだ
それにさっきから、頭で小さく円を描くように身体をふらふらさせている
と、エミルは令音の言った言葉に引っかかりを覚えた

「ここって……どこなんですか?」

エミルが言うと、士道と一緒に周囲を見回す。部屋はまるで学校の保健室のような空間だった。だが、少し異なるのは天井だった。何やら無骨な配管や配線が剥き出しになっていた

「………ああ、〈フラクシナス〉の医務室だ。気絶していたので勝手に運ばせてもらったよ」

「〈フラクシナス〉………?ていうか気絶って………、あ──」

「僕は何があったか分からないけどね………」

士道は理解していたがエミルは途中から記憶がなかったので分らなかった

「……ついてきたまえ。君達二人に紹介したい人がいる。……気になることは色々あるだろうが、どうも私は説明下手でね。詳しい話はその人から聞くといい」

令音は部屋の出入り口と思しき方向に向かって、ふらふらと歩みを進めると足がもつれて、ガン! と音を立てて頭を壁に打ちつけた

「だ、大丈夫ですか!」

「……むう」

一応、無事なようだ。令音が壁にもたれかかるようにしながらうめく

「……ああ、すまんね。最近少し寝不足なんだ」

「ど、どれくらい寝ていないんですか」

士道が問うと、令音は考えを巡らせる仕草を見せてから、指を三本立てる

「三日。そりゃ眠いですよ」

「……三十年、かな?」

「ケタがちげぇ!!」

「どれだけ寝てないんですか!?」

三週間くらいまでなら覚悟していたが、予想外の答えだった。というか明らかに、彼女の外見年齢を超えていた

「……まあ、最後に睡眠をとった日が思い出せないのは本当だ。どうも不眠症気味でね」

「「そ、そうですか」」

「……と。ああ、失礼、薬の時間だ」

令音は突然懐を探ると、錠剤の入ったビンを取り出した。そしてビンのフタを開けると、錠剤をラッパ飲みをしながら一気に口の中に放り込む

「っておいッ!」

「何してるんですか!?」

躊躇いもなく、おびただしい量の錠剤をバリバリグシャグシャバキバキゴックンする令音に思わず驚く

「……なんだね、騒々しい」

「どんだけ飲んでるんですか!ていうか何の薬ですか!?」

「……全部睡眠導入剤だが」

「それ死ぬから!!洒落になりませんよ!」

「……でもいまひとつ効きが悪くてね」

「どんな体してるんですか!」

「……まあでも甘くて美味しいからいいんだがね」

「それラムネじゃねぇの!?」

二人はひとしきり叫んでから、はぁと溜め息をついた

「……とにかく、こっちだ。ついてきたまえ」

空っぽになったビンを令音は懐に戻してから、また危なっかしい足取りで歩みを進め、医務室の扉を開ける。部屋の外は狭い廊下のような作りになっていた。淡色で構成された機械的な壁に床。エミルはアルタミラのホテルの地下部屋を思い出していた

「……さ、何をしているんだ?」

自分達の世界との文明が違うことに驚きながら、エミルはゆっくりと足を動かし始めた。ふらふらと足元のおぼつかない令音の背だけを頼りについていく。
そして、どれくらい歩いた頃だろうか

「……ここだ」

通路の突き当たり、横に小さな電子パネルが付いた扉の前で足を止め、次の瞬間、電子パネルが軽快な音を鳴らし、滑らかに扉がスライドする

「……さ、入りたまえ」

令音が中に入っていく。士道とエミルもその後に続く

「……っ、こりゃあ……」

「………何これ、凄い」

二人は扉の向こうに広がっていた光景に、目を開く。一言で言うと、船の艦橋のような場所だった。二人がくぐった扉から、半楕円の形に床が広がり、その中心に艦長席と思わしき椅子が設けられている
さらに左右両側になだらかな階段が延びており、そこから下りた階段には、複雑そうな機械を操作するクルー達が見受けられた。全体的に薄暗く、あちこちにモニタの光が、いやに存在感を主張している

「……連れてきたよ」

令音が、ふらふらと頭を揺らしながら言う

「ご苦労様です」

艦長席の横に立った長身の男が、執事のような調子で軽く礼をする。エミル的に言えばその人はテネブラエみたいな人だった

「初めまして。私はここの副司令、神無月恭平と申します。以後お見知り置きを」

「は、はあ……」

「あ、これはどうもご丁寧に」

やはり喋り方もテネブラエに似ているなぁとエミルは内心で少し笑った

士道とエミルは一瞬、令音がこの男に話しかけたのだと思った

───だが、違う

「司令、村雨解析官が戻りました」

神無月が声をかけると、こちらに背を向けていた艦長席が、低いうなりを上げながらゆっくりと回転する

「──歓迎するわ。ようこそ、〈ラタトスク〉へ」

『司令』なんて呼ばれるには少々可愛らしすぎる声を響かせながら、真紅の軍服を肩掛けにした少女の姿が明らかになる
大きな黒いリボンで二つに括られた髪に小柄な体躯。どんぐりみたいな丸っこい目にそして口に何か棒付きのアメをくわえている
士道は眉をひそめていていた。だってどこからどう見ても───士道の妹、五河琴里だった

そしてエミルも同じく眉をひそめる。琴里の後ろからエミルと一緒にこの世界に来たマルタ・ルアルディがここにいたのだ























陸上自衛隊・天宮駐屯地

「──五河、士道」

小さな声で誰にも聞こえないくらいの声を発し、折紙は頭の中に彼の顔を思い浮かべる。間違いなく、あれは士道だった。折紙の記憶が間違えるはずがない。それに彼は、間違いなく目にしていたの特殊兵装を纏った折紙と精霊を───

そしてもう一つ折紙は気になる事があった

「あれは人間なはず……でも、精霊並の力を持っている」

それは士道と一緒にいた少年が驚く程に強かったのだ。折紙はその少年とは戦っていなかったが、うちのAST隊員、四名が重傷を負ったが、幸い死にはしなかったのでそれはそれで良かったと思っている

「ちょっと退いて!担架通るよ!」

右方から怒鳴るような声が響く。ちらりと視線だけを動かして見やると、隊員が担架に乗せられていることが分かった

「……くそッ、くそッ、あの男……!絶対にぶっ殺してやる……!」

担架に乗せられた隊員が血の滲む額の包帯を押さえて、忌々しそうにうめきながら運ばれる

「……………」

そんな言葉を言えるくらいの元気があるのなら大丈夫だろうと折紙は興味なさげに視線を戻した。少し視線を上にやった

──世界を殺す災厄・精霊

超人たる折紙達が例え、何十人──いや、何百人がかかっても傷一つすらつけることが叶わない怪物。どこからともなく現れ、気まぐれに破壊をしていく──まさに天災と言えるほどだ

「……………」

結局今回の戦闘でも、精霊の消失(ロスト)により幕引きになった。消失と言っても精霊は死んではいない。要は空間を超えて逃げられただけだ

「……………」

精霊を仕留めるのがASTの任務だが書類上ではASTの働きによって精霊を撃退した、ということになるのだろうが折紙と他の現場で直接戦っている隊員達は理解していた。
精霊はこちらのことを何の脅威とは思っておらず。消失するのも、精霊の気まぐれに過ぎないのだ

「……………っ」

折紙は表情を一つも動かさず、奥歯を強く噛み締めた

「折紙。今日もご苦労さん」

と、そこに格納庫から響いてきた声に折紙は思考を中断された。声をかけてきた人物は折紙と同じワイヤリングスーツを着込んだ、二十代半ばくらいの女が腰に手を当てながら立っていた

日下部燎子一尉。折紙の所属するASTの隊長だ

「よく一人で精霊を撃破してくれたわね。他の隊員達にはきつく言っておくわ。あんた一人に精霊を二体任せて離脱するなんて」

「撃退なんてしてない」

折紙が言うと、燎子は肩をすくめる

「上への報告はそうしとかなきゃなんないのよ。ちゃんと成果出てますってことにしとかなきゃ予算が下りないの。それに今日は戦闘狂な精霊も出現したしね」

「その精霊の危険度ランクは?」

「今のところ、ランクAAAの〈プリンセス〉を凌ぐほどの戦闘力があると判定してお偉いさんがランクSに認定したら
しいわ。識別名は〈バーサーカー〉よ」

「……………」

折紙は無表情でいたが内心では少し驚いていた。今までの精霊の危険度ランクは最大でAAAランクだがそれを超える強さを持つ精霊は今までにいなかったのだ

「後、あんたは少し無茶しすぎ。──そんなに死にたいの?」

「……………」

燎子は折紙に鋭い視線を向けたまま言葉を続けた

「あんた、自分がどんな怪物相手にしてるか本当に分かって戦っているの?あれは化物よ。知能を持った災厄よ。いい?できるだけ被害を最小限に抑えて、できるだけ早く消失させる。それが私達ASTの仕事よ。無駄な危険は冒さないようにしなさいよ」
「─────違う。精霊を倒すのが、ASTの役目」
「………………」

折紙は燎子の目を真っ直ぐ見つめ返すと燎子は眉根をよせる
それはそうだろう。彼女はAST隊長。対精霊部隊の名の意味あ折紙よりもずっと深く重く理解しているはずだ
彼女は理解した上で、言っているのだ

────自分達は被害を抑えることしかできないと

けど折紙もそれを承知した上でもう一度言った

「───私は、精霊を倒す」
「…………」

燎子は溜め息を吐くと、折紙に言う

「……別に、個人の考えに口出すつもりはないわ。好きに思っていなさい。でも、戦場で命令に背くようなら、部隊から外すわよ」
「了解」
「あ、そうそう。うちの部隊にDEM社からの派遣魔術師(ウィザード)が二人来るわ。さすがにSランク級の精霊がいたら私達だけじゃ抑えられないからね」
「その二人の名前は?」
「えーと……確か」

DEM社から来るのだから折紙より強い奴もいるのだ。確認しておかなければならない

「アリスとデクスって言ってたわ。DEM社の中じゃその二人は№3の強さを誇るわ。言動には気をつけなさいよ」
「分かった」

短い返事と共に折紙は身体を起こし、歩いていった 
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