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深き者

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第二十三章


第二十三章

「完全に。そうはいきませんか」
「滅んだ神がまた蘇る」
 役の返答はこうしたものだった。
「それは常のことだ」
「常ですか」
「信仰は忘れ去られることもあれば思い出されもするものだ」
 そしてこうも言うのであった。
「だからだ。あの神もそれで蘇ったということだ」
「別に蘇らなくてもよかったんですがね」
 シニカルに口の左端を歪めさせての言葉であった。
「おかげで面倒なことになってますよ」
「しかしこれが仕事だからな」
「ええ。カナダ政府もわかってたんでしょうね」
 本郷はこうも察したのだった。
「ある程度はでしょうけれど」
「そうでなければ我々が呼ばれることはないしな」
「そうですね。何しろ俺達はこうした事件の解決が専門の探偵ですから」
「普通そうした探偵はいない」
 役はまた言った。
「私達だけだ」
「全くです。それで」
 ここで、であった。先頭を行く式神の視界が変わった。一気に明るくなったのである。
 そしてそこに姿を現わしたのは。赤く不気味な世界であった。
「・・・・・・何ですかね、これは」
「海の中なのは間違いないがな」
「しかし。海に赤ですか」
 視界を覆うその色に対して本郷は不快感を隠さなかった。
「こんなのははじめてですよ、俺」
「私もだ」
 それは役とて同じことであった。実際にその目を顰めさせていた。
「何なのだ、これは」
「ああ、海草ですね」
 ここでようやく何故赤いのかわかった本郷であった。
「これは海草ですよ」
「海草か」
「それにしてもやけに細くて多い」
 その海草を見ながらの言葉であった。
「妙な海草ですね」
「そうだな。どうもだ」
 ここで役はその奇怪な海草を見ていぶかしみながら述べるのだった。
「この海草はこの世のものとは思えないのだがな」
「この世のですか」
「少なくとも人間の世界にあるものではないな」
 こう見ているのであった。彼は。
「この海草はな」
「そういえばそうですね」
 そして彼の今の言葉に頷く本郷だった。彼もそう判断したのである。
「こんな海草は見たことがありませんね、今まで」
「血にも見える」
 これはその色から想像されることであった。
「そして触手にも見える」
「イソギンチャクのあれみたいな」
「その極めて長いものか。そういう類だな」
「どちらにしてもまともなものじゃありませんね」
「そうだな。どうするかだが」
 役はここでまた考える目になるのだった。
「さらに先に行くか」
「それしかないですけれどね」 
 今の本郷の言葉の通りであった。その為に式神を使いここまで見てきたのである。そうでなければ来なかったしそれに先を見なければこれまた意味のない話であった。
「ですからやっぱり」
「よし。それではだ」
「行かせましょう」
 こうして式神をさらに行かせることになった。しかしであった。ここでその式神の視界が消えた。それまで出ていた映像が消えてしまったのである。
「これは!?」
「やられたか」
 役はその四角い立体テレビを思わせる映像が消えたところで察したのだった。
「どうやらな」
「やられたっていうと奴等にですか」
「そうだ。勘付かれたか?それとも」
「それとも?」
「知られたか」
 役はこうも言った。ここで。
「どちらかか」
「どっちでもかなりまずいみたいですね」
「その通りだ。ここで偵察は打ち切るとしよう」
 役はその映像が消えたところで他の式神達も消した。右手を人差し指と中指だけの印にしてそれを右から左、そこから左に一閃させるとそれで全ての映像が消えてしまったのだった。
 
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