生還者†無双
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山下り
前書き
休みがない…
背筋に走る悪寒、経験から分かる【死】の気配
咄嗟の出来事だが身体が無意識に反応し腕を振り上げた
ガキャンッ!
金属が硬い何かに叩きつけた様な音が直後に響く
暁は見えていた、縦一文字に叩きつけられる様をスローモーションで
いつもの調子ならばこのような不覚なんてとらないだろう
まして只の雑兵の切りつける攻撃など逆にカウンターで返り討ちだ
しかし達人級の全体重を乗せた一撃を片腕だけで防げるはずもなく
刀の切っ先が右額の古傷の上から切り裂く
鮮血と火花が飛び散り朝日に反射する
何故こんな不覚をとったのか……
それは油断である
何処かにあった心の弛み、疲労、ストレス等原因は様々あるが
何事にも共通して言える事は油断や慢心は失敗の元であり
こと戦場において油断は死に繋がる事を改めて痛感した
久しぶりに感じる確かな痛み…血が垂れる感覚
そして……忘れかけていた生か死かの瀬戸際のゲーム
全身の血が沸き立つこの感覚……ゾクゾクするぜ
口元に垂れてきた血を舌でペロリと舐める
頭の中で撃鉄がガチンと弾けた瞬間、身体はもう跳んでいた
「どぅりゃあ!!」
バッと一息で間合いを詰める跳躍から気合い一発の跳び回し蹴り
小細工駆け引き無しの強烈な一撃を初手で繰り出す
立ち塞がる物全てを粉砕しそうな剛脚の暴風は目標に迫る
お礼の一発だ……食らいやがれっ
突進力と力に物言わせた一撃は襲撃者の眼前に迫ったが
黒い影が寸での所で姿勢を低くし蹴りをかわした
後ろにあった古い大木に蹴りは命中し中程から砕け大きな音を立て倒れる
紙一重で避れた!この男を早く排除して蓮華様を救わねば……!
「くっ!?」
度重なる戦闘で身体を酷使していたせいか脚に力が入らない
やはり最初の一撃で仕留められなかったのがいけなかったっ!
直後の攻城鎚の様な蹴りの威力は馬鹿げている……!
木が蹴りだけで倒れるなんて……化け物か!?
それだけではない、一見力任せに蹴ったようだが隙がない
そして倒した木を目眩ましにして即座に避けて間合いをとるとは……
やはり手練れかっ
ギリっと奥歯を噛みしめ己の非力を呪う
おのれ……こんな所で私は死ぬのか……
視線を上げると目の前の男が笑っている
こんな隙だらけの敵を見逃すはずはない……か
覚悟を決めて目を瞑った
申し訳ありません蓮華様っ……
回し蹴りを外した暁は体格からは考えられない程身軽な動作で距離をとった
あの蹴りを避けるとは敵さんも中々やるぜ
強敵との出会いに嬉しさのあまり顔が狂的にほころぶ
ふと黒い影の動きが急に止まったのが目に入った
バカめ
戦闘中に動きを止めるなんてな……
その隙を見逃す程俺は甘くねぇ!!
フゥ~と長く息を吐き呼吸を整え拳を握り絞め構えた
敵を殺す準備は出来ているといわんばかりにバキバキとスーツが反応する
無慈悲に拳を振り上げ距離を詰めとどめの一撃を指すべく駆け出した
目覚めの一発ありがとよ、そんでもってサヨナラだなっ
心の中で感謝をし肉弾戦車と化した身体は一息で間合いを縮める
戦鎚の如く振り上げられた鉄拳が身動きしない目標に迫った……
正にその瞬間
「おぅらぁっ「思春っ!?」あ?」
急に何かが前に飛び出してきやがった!
何だぁ!蓮華かっ!?クソがっ!
振り上げ突き出そうとした拳を無理やり制動する暁
だが助走をつけて飛び上がった勢いを完全に止める事は出来ず
そのまま前方へヘッドスライディングの様に吹っ飛んだ
バキバキと枝を折りながら回転し数メートル程進んだ所で木にぶつかり止まる
畜生……興醒めだぜ
天地がひっくり返しになった状態で染々思う
砂ぼこりがたちこむ中ムクリと立ち上がった
戦意も失せ、その辺に落ちていたぼろ切れを額に巻き付け止血する
深くはないが浅い傷とゆうわけでもない
あまり血を流し過ぎるのも好ましくねぇな
やれやれ…とんだ骨折り損だぜ
傷の痛みを感じながら重い足取りでキャンプへ歩いて行く
さっさと出発しちまおう……これ以上厄介事はごめんだ
まとめた荷物を回収し足早に立ち去ろうとする…が
ガシッと肩を捕まれた
「なんだ?まだ用でもあんのか?」
「何処に行くの?」
「山下るんだよ、これ以上面倒事は勘弁だ」
「その額の怪我……まだ血が出ているわ!」
「あぁ、まぁ何とかなるだろ気にすんな」
「気にすんな……ってちょっと」
おもむろにバックを背負い歩きだす
今日中に山を抜けてあわよくば村でも見つけて食いもん貰えりゃ……
あれこれと頭の中で都合の良い予定を設定していく
しかしながら実際その通りになる事はほとんどない
あくまで予定は未定なのだから仕方がないのだが……
「ちょっと待て!貴様!蓮華様が呼んでいるであろうが!」
「俺はさっさとこんな山から出たいんだよ、飯だって食ってねぇんだぞ」
「そんな事知るかっ無礼者め!」
「何だよ、さっきの続きでも始めるか?」
「二人とも止めなさい」
「れ、蓮華様……」
若いながらも威厳のある声で間に割って入った
成る程な……女でも史実の英雄には変わりはないと言うことか
まじまじと蓮華、もとい孫権を見て思う
そんな孫権をガン見していると気が付いたのか話をかけてきた
「巌……で良いかしら?」
「暁で頼むぜ、そっちのがしっくりくる」
「なら暁、その方向に歩いても山は下れないわ」
「まじか」
「だから私達と一緒に来た方が良いはずよ」
「むぅ」
確かに土地勘もないし疲労もしている
無駄に歩き周るのも得策ではない……か
腕を組んで新たに今後の事を考えた
有力な手がかりもない、持ってきた食料もだいぶ消費している
一旦体勢を立て直すのも悪くはないな
だが……気は抜けそうにないか
思春と呼ばれたいた女に目を向けると相変わらず殺気を飛ばしている
まぁ俺としては全然構わんが
「確かにお嬢ちゃんと一緒に行った方が利口だな」
「おじょ……貴様!」
「良いの思春、暁は恩人よ」
「ですが……!」
「おい、さっさと行こうぜ?よっと」
軽々と蓮華を持ち上げ歩きだす
マジで軽いなぁ……想像以上に華奢な身体を持ち上げ歩きだす
急にお姫様抱っこの状態なり恥ずかしさから顔が真っ赤になる蓮華
女性独特の良い香りが鼻を刺激するがこれ位の役得があっても良いだろ
多少強引屈だが俺が運んだ方が速いからな……まぁ大丈夫か
「え……ちょ暁っ!」
「足を怪我しているんだ、黙って運ばれな」
「本当に貴様はっ!この御方を誰だと思っているんだっ!」
やはりこの女が噛みついてきたか
予想通りの展開になりため息をついた
「誰だって構わん、今はさっさと移動すんのが先決だ違うか?」
「なら私が運ぶ!早く蓮華様を降ろせっ」
「アホかっ!全身傷だらけの奴が何を言ってんだ、軍人なら自己管理ぐらいしっかりしろ」
正論を言われぐうの音も出ない甘寧を尻目に暁はさっさと進んでいく
そんな暁の背中を見ながら甘寧は殺意を抱いた目で見ながら思う
こいつは危険過ぎる……深緑色の服を着た男…暁とか言っていたな
一体何者なんだ……しかし蓮華様に危害を加える者なら刺し違えてでも殺す
そんな決意をしながら後を追うのであった
後書き
誤字脱字は見つけ次第直していきます
11/15日 修正と追加しました
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