ヒダン×ノ×アリア
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第10話 死闘
前書き
テンションが上がっていたので投稿しました。
初手はクルトだった。
一気に駆け出し、レズリーに肉薄する。
「ちょ…ッ!?クルト!?」
そのいきなりの行動にアリアは面食らう。
如何にクルトが強かろうと、レズリーに無策に突っ込むなど自殺行為以外の何物でもない。
「お主…儂を嘗めとるか?」
クルトの行動にレズリーも思わず声を荒げる。そこには落胆と失望、そして自分に対する認識の甘いクルトに対する怒りは籠められており、レズリーは鍛え上げられたその巨躯から想像出来るレベルを遥かに超えた凄まじい速度のパンチを繰り出した。
拳の全オーラを集束させた「硬」による超高速の突き。
(ダメッ!当たるッ!!)
アリアはそう確信する。
そして彼女の脳裏には次の光景がフラッシュバックのように鮮明に描き出されたのだ。
内臓や脳みそを撒き散らし、惨たらしい姿で即死し、絶命するクルトの姿が。
しかし、その瞬間アリアは見た。
薄く、本当に薄くだけ笑う、クルトの唇が。
―――バチチッ!
そんな音が聞こえたと思った瞬間、ドォン!という音と共にレズリーの巨体が後方に吹き飛ばされた。
「…え?」
アリアは思わずわが目を疑った。
先程のレズリーの攻撃は間違いなく直撃コース。普通であれば回避などまず不可能。そのレベルの拳速だった。にもかかわらず結果は、クルトが立っており、レズリーは後方に吹き飛ばされた。
―――何が起こったのよ…?
疑問を抱くアリア。が、それは直ぐに分かる。
「ク、クルト…?そ、それ…」
アリアが目にしたのは、髪が逆立ち、身体からオーラによって形成されたであろう電気を纏うクルトの姿があった。
「これが俺の能力、―――“神速”だ」
神速。
電気に変えたオーラを身体の末梢神経に直接流し込む事によって超人的な反射行動を可能にする能力。それによって獲得出来る相手との圧倒的初速の差は凄まじい。
じゃんけんに例えるならこの能力発動中は常時後出しが出来る状態にあると言っても過言ではない。
「まあ、今はまだ燃費が悪いのと、攻撃力が低いのが欠点なんだがな」
今だ発展途上な能力ではある。
しかしクルトには策があった。
「俺がこの能力でレズリーのジジィの動きを止める。アリア、お前は動きが止まった瞬間に“硬”による攻撃を叩き込め」
「分かったわよ」
クルトの言葉に、アリアはこくりと頷く。
「いやあー、流石に今のは応えたわい。“硬”のせいで予想外のダメージを喰らってしまったのう」
二人の会話の最中、吹き飛ばされたレズリーがやってくる。
“硬”を使った事により、他の部分のオーラがゼロになった故に、如何に攻撃力の低いクルトの“神速”でも大ダメージを与えられた。
その筈だった。
「ジジィ、なんでそんなピンピンしてんだよ」
クルトも、アリアもレズリーがさしてダメージを受けた様子がない事に驚いていた。それどころから片膝すらついていない。そして、それが僅かな隙として生まれる。
「敵が眼前におるのに驚いとる暇などないじゃろ」
「「ッッ!!??」」
一瞬で距離を詰めたレズリー。そのまま攻撃をしようとした瞬間。
ドン!!
再びクルトの能力による神速の攻撃によってレズリーは後方に吹き飛ぶ。が、今回はそれだけでは終わらない。
アリアが吹き飛ぶレズリーに合わせ、ながら移動してきたからだ。
“神速”の能力の一つに、攻撃にも電撃を乗せる事が出来る。つまりクルトが行う全ての攻撃は、「スタンガン」のような性質を帯びる。それ故に攻撃を喰らえば、如何な強者といえどその動きは一瞬、もしくは数瞬だけ止まる。
その隙をアリアは逃さない。
作戦の通り、アリアは自らのオーラを拳の移動させる。
「レズリーさん、これで…終わりよッ!!」
アリアのパンチはレズリーの顔面を正確に捉える。“硬”による攻撃の威力は凄まじく、特に強化系能力者のそれは、まさに必殺の一撃に相応しい威力を誇る。
それが無防備な顔面に炸裂する。
レズリーはその威力に吹き飛ぶ。筈だったが、彼は己の腕を巧みに使い、地面への激突を避けながら後方に下がり、そして難なく着地した。
「はあ、はあ、はあ…そ、そんな…」
オーラの総量が先天的に多いアリアにとっても、今の一撃はかなりのオーラを消費した。地上の屋敷の壁を破壊する時も“硬”を使用したが、今はそれよりも遥かに多いオーラによる攻撃を行ったのだ。
二度による“硬”の攻撃。
消費したオーラは半分を優に超えるだろう。
それでもレズリーの片膝すらつかせる事が出来ない。
「くかかかっ!今の攻撃は先程以上に聞いたな」
額から血を流しているにも関わらず、レズリーは優雅に歩き出す。
「この…ッ、あッ!?」
アリアが驚いた。その時には既にレズリーの背後にクルトが現れる。
レズリーに大したダメージを与えられない事をある程度予見していたのだろう。でなければ有り得ないタイミングだ。
しかし、クルトがレズリーが起き上がるのを予見していたように、レズリーもまた同様にクルトの動きを予見していた。
「くかかかッ!!」
レズリーは笑いながら、振り向き様クルトの顔目掛けて裏拳を放つ。
しかし、それが届く遥か前に、クルトの拳がレズリーの横腹を捉える。それだけに留まらず、二撃、三撃と連続して攻撃を放つ。
「ぐふっ」
止まらない嵐のような猛攻に、レズリーの鉄壁の防御力が、耐久力が、僅かに揺らぐ。
(今よっ!)
そしてアリアはそれを見逃さない。
駆け出し、再びオーラを拳の集める。
「舐めるなと言った筈じゃヒヨッコ共ぉぉ!!」
今までにないレベルでレズリーからオーラが噴き出る。その勢いで、クルトは思わず後方に飛ばされる。
「な、なんつうオーラッ!くそ!アリアッ!!」
「もう遅いわ!!」
レズリーは叫ぶと同時に蹴りを放つ。それは吸い込まれるようにアリアの顔目掛けて向かっていく。“硬”を維持している今のアリアにとってその蹴りなど喰らえば、死ぬ事は避けられない。
「させるかぁああぁ!!」
バチチィッ!
クルトは電気を腕を振るうと同時にレズリーに向かって放つ。
―――殷雷。
横に流れるこの電撃により、レズリーの動きが止まる。
「はああぁああ!!」
そして、一瞬も止まる事無く放たれるアリアの拳。
クルトが必ずレズリーの攻撃をどうにかしてくれるという信頼の上に成り立つその渾身の突きが、レズリーの腹部に炸裂した。
「がはっッ!!!」
通路の壁に叩きつけられ、口から血を吐き、レズリーはそのまま動かなくなった。そうなると、クルトとアリアは確信していた。
「甘いのう…」
ドゴォッ!!
壁に叩きつけられたにもかかわらず、レズリーはその体勢のまま、アリア目掛けて蹴りを放った。
完全に無防備な状態で蹴りを喰らったアリアはそのまま吹き飛び、先程のレズリー同様地面を数度バウンドしてぐったりと動かなくなった。
「おやおや、ついつい力加減を忘れてしまったわい。流石に死んだかもしれんなあ」
「………………………」
その言葉がクルトの耳に入る事は無かった。
彼の頭を占めるのはぐったりと地に倒れ伏すアリアの姿だけ。
「まあ、彼女は優秀な教え子じゃったが…、まあ、仕方な―――」
レズリーが言い終わる前に、クルトは彼に跳びかかった。
「阿呆か貴様」
しかし、レズリーはそれを見る事なく拳一発で殴り飛ばす。
「お前はあのビリビリ状態以外はカス同然じゃ。アレ以外で儂に挑むとは笑わせる。それとも―――」
言いながらレズリーはゆっくりとクルトに近づいてくる。
「―――もうあの能力、使えんのか?」
「――――――ッッ」
「くかかかか!図星か」
クルトの使う“神速”には前もっての充電が必要となる。それが無くなれば、能力を使う事は出来なくなる。
そしてそのバッテリーの総量は決して多くはない。
「さて、アリア君は戦闘不能、そしてクルト、お主も今や雑魚同然じゃ。ふう、詰まらん幕引きじゃのう。このゲーム儂の…」
―――勝ちじゃ。
* * *
クルトは必死に保っていた。
さもすれば自分の感情が表に出てしまわないように。
「このゲーム、儂の…勝ちじゃ」
目の前で勝鬨を上げている男に悟られぬように。必死に自分を押し留めていた。
(まだだ…。まだ、勝負は終わっちゃいない)
クルトの眼は、心は死んではいなかった。
彼にはまだ、“切り札”がある。
(まずやらなきゃいけない事は充電を行う事だ。少なくとも数秒、“神速”を発動出来るだけの充電を…ッ)
その為にはまず、レズリーを…、いや、レズリーの立っている場所をどうにかする必要がある。
(正直成功するかどうかは分からない。けど、それでも俺は成功させる。絶対にッ!)
* * *
「さてクルト、そろそろお主にも死んで貰うとするかのう」
レズリーが言うと同時に、クルトがゆっくりと立ち上がった。
「はっ!誰が死ぬかよ。俺はまだ、諦めちゃいないぞクソジジィ」
クルトの言葉に、レズリーは楽しげに笑う。
如何に敵同士といえど、勝利に貪欲な者を、レズリーは嫌いではなかった。
「そうか。では存分に向かってくるがいい」
それが合図となり、クルトはレズリーの右側に回り込むようにして移動する。そして、そのまま移動すると同時にレズリーの足元に潜り込むように肉薄する。
「ふんっ!!」
レズリーは冷静にクルトに向けて蹴りを放つ。
「ッッ!!」
クルトは身体を回転させながらその蹴りを躱す。そして更に歩を進め、間合いを詰める。
レズリーの巨体では近づかれ過ぎると逆に動きが制限される。そう考え、その弱点を着いたのだ。レズリー程の実力者の懐に会えて潜り込む。仮に分かっていたとしても簡単に行える事ではない。
クルトはレズリーの腹部に向かって拳を繰り出そうとする。が。
「がぁッ!?」
レズリーの蹴りがクルトの顎を打ち抜いた。
その威力と、予想外な所からの攻撃で、クルトの意識は一瞬暗転する。しかし根性でギリギリ繋ぎ止める。
「まだじゃよ」
今度は回し蹴りをクルトの頭部に当てる。
咄嗟に腕でガードしたが、クルトでは完全に防ぎ切れる筈もなくそのまま壁に叩きつけられる。
「がはっ!」
崩れ落ちるクルトを見下ろしながら、レズリーは楽しげな表情を浮かべている。
「お主、懐に入れば儂の巨体では小回りが利かんと思ってそうしたんじゃろうが残念じゃったな。その程度の事が弱点ならばヨーロッパ最強にはなれんよ。じゃがまあ、そのガッツは認めるがのう」
かかかか。と、老獪な笑みを浮かべるレズリーに怒りを抱くクルト。
(くっそ。やっぱそう簡単にはいかないか…。だが、まだだ)
クルトの鋭い、力強い眼光は未だ衰えない。
「くく、お主も諦めが悪いのう」
今度最初に動いたのはレズリーだった。
そのまま踏み込み、そして先程から一切衰えない超高速の突きを再び放ってくる。
(はっ、相変わらずふざけた突きだ。だが、その突きが…お前を殺すんだよレズリー…ッ!)
迫りくるレズリーの拳をギリギリまで引きつけ、そして身体全体を回転扉のように使いその攻撃を躱す。と同時にレズリーの凄まじい威力をもつその攻撃の威力を乗せた拳をレズリーに撃ち返した。
―――絶牢。
それがクルトが遠山家で教わった技が一つ。
合気道を応用し、相手の攻撃を利用する究極のカウンター技。
「やっぱ自分の攻撃は効くみたいだなレズリー。―――片膝、着いてるぞ」
「く、くはははは!これは完全に予想外じゃのう…」
そう。レズリーは片膝を着いてしまっていた。
単に今の攻撃、「絶牢」によるものだけではない。それまでのクルトの攻撃。なによりアリアの攻撃がここに来てジワジワと効いてきた何よりの証明だ。
「だがまだだレズリー」
クルトは素早く移動すると、レズリーに再び突っ込む。
―――肢曲。
歩行速度に緩急をつける事で相手に残像を見せる暗殺歩法の一つ。
「こんな曲芸風情がッ!!」
レズリーは一人の目星を付け拳を振るう。
「はずれだ」
しかしそれは空を切る。
そして直後に自らの頬にクルトの拳が突き刺さる。
「ぐっ!この程度ッ!」
しかし、そうは言ってみても、今までのダメージが一気に爆発したせいか、先程よりも明らかに動きが鈍っている。
少なくともクルトはそう考え、遂に勝負を決めにかかった。
(これでダメなら俺の前は確定だ)
クルトは先程アリアが「硬」によってレズリーを叩きつけた壁。それにより壁は大きく抉れ、そこから極僅かだが、電気ケーブルが露出していた。
クルトはオーラで強化した手をそこに突っ込む。
バチチチィ!!
凄まじい電流がクルトを襲う。
しかし今はそんな事クルトに関係なかった。
「させるかッ!!」
クルトの充電に気付いたレズリーはそれを止める為に一気に加速し、迫ってくる。
だが、クルトの充電はまだ完了しない。最後の切り札を放つ為に必要な分の充電が。
(くそ、まだか…ッ!)
レズリーあと二歩でレズリーは間合いに入る。
(あと少し…ッ!)
残り一歩を踏み込み終え、遂にレズリーは己の間合いにクルトを入れる。そして己の拳を放つ。
軌道は間違いなくクルトの顔。
当たれば今度こそ終わり。
(だが…。―――間に合った…ッ!!)
―――神速、発動。
レズリーからはどう映っただろうか。完全に捉えたと思った瞬間、目の前から対象が消え失せたのだ。
百戦錬磨といえど簡単には対処できないし、そもそも速力という点においてレズリーとクルトでは勝負にはならなかった。
(身体の部位…関節を連動させ加速…加速…加速…ッ!!)
人が動く際には関節の駆動が必要不可欠であり、武道においても、突きや蹴りの速度はこの関節を駆動させ、加速させているからこそ、攻撃の速度を効果的に上げている。
もしこの関節の全てを駆動・加速させ、一つの突きに集束したならばどうなるか。
通常の状態においてですらその拳速は先端で時速1236kmにも昇る。それを“神速”によって更に速さにブーストを掛けたならば。それは―――。
―――必殺の一撃へと昇華される―――!
「ああぁあああッ!!!」
―――雷霆。
それがこの技の、クルト=ゾルディックが誇る最強の技の名前である。
雷速の拳撃は先程から幾度となく打ち込まれたレズリーの腹部を穿つ。そしてついに、レズリーはその場で膝を着き、そして前のめりに倒れ伏したのだ。
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