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京に舞う鬼

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第六章


第六章

「ああした旧家の娘さんがよく習うものです。幼い頃からやっていたといいます」
「そうだったのですか」
「他にも茶道や香道も。嗜みとして」
「ふむ」
 役はそれを聞いて小さく頷いていた。
「部活動の他にも先生について学んでいたそうですが」
「残念なことですね」
「はい」
 無念そうに頷いていた。
「私共も知っているのはこれだけです。後は」
「はい、それでしたら」
 本郷も役もそれ以上聞こうとはしなかった。
「我々からは何も」
「すいません」
「いえ、いいですよ」
 そう言って校長を慰める。そして学園を後にした。
「ここからは情報は得られませんでしたね」
「まあ予想はしていたが」
 二人はそんな話をして学園から離れていた。
「で、これからどうします?」
「どうするとは?」
「被害者の家に行って家族からも話を聞きますか?」
「それも何だな」
 役はそれをするつもりはなかった。
「今言ってもおそらく取り乱しているだろう」
「警察の資料によるとかなり錯乱していたそうですね」
「実の娘があんな無残な姿になったのだ。無理はない」
 役の声には特に感情はみられなかったがそれは決してよいものではなかった。
「特に可愛がっていればな。そうなる」
「そうですね。俺はまだ結婚もしてないけどそれはわかります」
「そうだろう。だからここは行かない方がいいな」
「ええ」
「ただ、さっき気になることを聞いたな」
「何です?」
「部活だ」 
 役は言った。
「華道部に入っていたと」
「ええ。けれどそれだけではこれといっては」
「他には茶道や香道も」
「旧家では普通ですよ」
「確かにな。だがそれだけじゃない」
 彼は言った。
「ここに何かヒントがあるかも知れない」
「そうですかね」
「とりあえずもう一度事務所に戻ろう」
「もうですか?」
「そうだ。もう一度資料を読みなおす。いいな」
「わかりました」
 こうして二人は事務所に戻った。そしてクーラーを利かした部屋で二人向かい合って資料をまた読んでいた。
 役は下の喫茶店から持って来てもらったハーブティーを飲んでいる。今度はローズだ。
「相変わらず好きですね」
「ハーブティーは奥が深くてね」
 彼はそのティーをすすりながら答えた。
「多くの種類があるしその一つ一つがその時で味が違う」
「はあ」
「そこがいいのだ。そして名人が入れたものだと」
「味も絶品なのですね」
「そうだ。よくわかったな」
「いつも聞かされてますから」
 本郷は資料を読みながら苦笑いを浮かべた。
「同じ茶でもこっちはまた違うんですね」
「西洋では茶道はない」
 これはもう言うまでもないことだ。
「だが楽しむことはある」
「そのハーブティーにしろですね」
「そうだ。中国にもな」
 茶と言えば中国である。だからこれは言うまでもない。
「しかしそれを道にしたのは日本だけだ」
「日本だけ」
 役の言葉が前を見据えたものになったのを見て本郷も目をあげた。
「そう。そして彼女はそれについても師匠がいた」
「そこに何かありますか?」
「さてな」
 しかしこれには答えなかった。本郷はその言葉を聞いて心の中で拍子抜けを覚えた。
「確かなものはな。まだわからない」
「そうですか」
「だが彼女が華道等を嗜んでいるのはわかった」
「と言ってもそれだけですよ」
「しかしここから事件が解決することも多いな」
「まあそうですけれど」
「じっくり読んでいこう。今はそうして知識を蓄えて細かい部分を調べるべきだ」
「わかりました」
「ただな」
「ただ。何ですか?」
「どうにも引っ掛かるな」
 役は資料を読みながらこう呟いた。
「!?何かあるんですか?」
「その華道や茶道のことだ」
「そこはもう」
「師匠を。あたってみる必要があるな」
「けれどそんな旧家の習い事のお師匠さんなんて変な人いないでしょう?」
「表向きはな」
 役は一瞬横を見た。
「実際の顔はどんなものかは誰にもわかりはしない」
「まあそうですけれどね」
 本郷にもそれはわかる。こうした仕事をしていると自然にわかってくるのだ。
「それじゃあ明日からはそっちも調べてみますか」
「そうだな」
「鬼が出るか蛇が出るか」
「今一番可能性があるのは」
「鬼、ですね」
「そうだ。札が教えてくれた」
 そこで懐から札を出した。もうあの黒く焦げた札ではないが。
「だが気をつけた方がいいな」
「札が焦げた件ですか」
「あんな強力な妖気は今までそうそう察したことはない」
「そんなに」
「これは。酒呑童子に匹敵するかもな」
「驚かさないで下さいよ」
 本郷はそれを聞いて思わず笑ってしまった。
「あの鬼に匹敵だなんて。魔王じゃないですか」
「そう、魔王かもな」
「魔王って」
 酒呑童子は平安時代に現われたという恐るべき鬼である。言い伝えに残っている鬼の中では桃太郎と戦った温羅に匹敵する強力な鬼である。五色に輝く巨大な身体と無数の目を持っていた。そしてその圧倒的な魔力と腕力によって京の都を脅かしていたのだ。
 それに匹敵する力の持ち主ともなれば。確かに魔王であった。
「それだけに見つけ辛いかもな」
 力の強力な者はそれだけ己の力を知っている。それを隠す術も知っているということなのだ。
 
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