| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

役者は踊る
  第五四幕 「ミサイルの数を数えろ」

 
前書き
※今回から暫くシャルロットのキャラ崩壊がかつてないほど激しいですが、シャル自身が暴走している結果なのでそのうち治まります。 

 
前回のあらすじ:鈴が2組だから出番が・・・何だって?


その光景を一言で表すならば、「ミサイルパーティー」という言葉が世界で最もしっくり来るだろう。

『あっはははははははははははははははは!!楽しいなぁ~!!!』
『第2射、終了。“ジョークポット”を量子化。続いて“プロミネンス”を展開』
『さあ!僕から二人へのプレゼント、浴びるように受け取ってよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
『第3射、開始』

ちゅどどどどどどどどどどどどどどどどどどどぉぉぉぉぉんッッ!!!!

水平発射式ハンディミサイルコンテナ“ジョークポット”から文字通り冗談のように大量に放たれたマイクロミサイルによる余波も消えないままシャルと簪の二人は互いに両手にガトリングミサイルランチャー“プロミネンス”を握り、自身のISに内蔵されたマイクロミサイルと共に解き放つ。

アリーナ内部は既に嵐のように放たれるミサイルの引き起こす爆炎と対戦相手の悲鳴で地獄絵図と化していた。まるで煉獄の様に燃え盛る炎と煙、そして放たれたミサイルによって激戦区の様に穴だらけになった地表。そんなものを、たかがIS歴数か月の生徒と訓練機が絶え凌げる道理もなし。
やがて響き渡る悲痛な金切声を最後に、彼女たちは動かなくなった。

《・・・・・・し、勝者!デュノア・更識ペア!!》

超え一つ上げずにブスブスと黒い煙を上げながら倒れ伏す対戦者を完全に無視したシャルは満面の営業スマイルで高々に宣伝を始める。

『・・・会場の皆さん!IS用ミサイルをお求めの方はぜひ我がデュノア社をご贔屓に!!』
『・・・ご贔屓にー』

(((((((うわぁ・・・)))))))


これは酷い宣伝を見た。何を隠そうデュノア社の社長が自分の娘を見て一番「うわぁ・・・」な顔をしているのだから、これを酷いと言わずに何というだろうか。この試合中に使用されたマイクロミサイルの数はのべ400発にも登り、余りの数の多さと被害に急遽アリーナ整備のために2時間の休憩時間を取る事態となった。







『ってことになってるんだけど?シャルちゃんの親友であらせられるジョウ君は何かコメントない?』
「そうだな。あいつが事あるごとにミサイルについて語っている無類のミサイル好きなのは知ってたぜ?」

通信越しの楯無の質問にジョウは歩きながら返事を返す。海沿いなだけあって潮の香りが混じった蒸し暑い風が体に浴びせられる。その暑さに忍耐しながらも過去の記憶を掘り返した。
あれはそう、セシリアがクラス代表決定戦でミサイルを使った時のことだ。

『ねぇ、ジョウ。ミサイルって、いいよね』
『まぁ嫌いじゃないが、突然どうした?』
『だよね!ミサイルはいいものだよね!!』ガタッ
『おう!?』

それからジョウは小一時間シャルのミサイルに捧げる熱い思いを延々と聞かされることになった。

シャルは幼い頃「超時空妖精マクベス」という日本アニメを見て育った。芸術の国として名高いかの国ではジャパニメーションは大人気で、特に彼女が見ていたアニメは世界的にもメジャーな部類に入る。そしてその作品の目玉と言える要素の一つが「ミサイル」だった。アニメ内に登場する戦妖精(バルキュリア)が戦闘シーンで次々と発射する“マジックミサイル”というミサイルたちが画面内を縦横無尽に飛び交い敵を追い詰めるシーンはアニメ界に衝撃を与え、後のアニメにおける空中戦の表現に多大な影響を及ぼした。

当時幼かったシャルはミサイルに惚れ込み、ミサイル目当てでプラモや軍事関係の雑誌を買っていた時期まであったそうだ。そしてそれと時期を同じくして“IS”が世に華々しく登場し、『リアルマクベスの時代キタコレ!』と本気で期待した彼女だったが・・・

ミサイルは1発1発のコストが高い。
銃と違って誘爆の可能性がある。
アリーナという限定した空間の中ではアドバンテージやメリットが少ない。
小型化にコストがかかる上に武装として装備・内蔵させ難い。
相対速度が速すぎて信管が作動しません!
そして優勝者の織斑千冬が大会内でミサイルを叩き切っていた。

という不遇としか言いようのない条件が重なり、結果としてIS界ではミサイルはものの見事に「マイナー武器」の烙印を押されてしまった。シャルはそんな悲しい現実にひどく落胆し、いつか必ずミサイルの素晴らしさを世界に伝えようと心に決めたのだった。

『つまりシャルちゃんは幼い頃の憧れを追いかける余りミサイル狂になっちゃったってワケ?』
「俺はそうとしか思えんな」
『・・・それだけのためにミサイルが好きな妹を洗脳された私の怒りはシャルちゃんにぶつけて良い?良いよね?』
「必要ねぇだろ。シャルはちょっとおイタが過ぎたが、あいつにお仕置きするのは適任がいるさ、なぁ?」
『ユウ君と鈴ちゃんのこと?・・・言っておくけどシャルちゃんもうちの簪ちゃんも生半可な腕じゃないわよ。勝率はどう高く見積もっても5割以上には・・・』
「いや、シャルは負けるよ。賭けてもいい」

その言葉に釈然としていない楯無だったが、ジョウには確信があった。シャルはパートナーを洗脳という形で無理やり自分に合わせた。対する二人は共通の目的のために並び立っている。
意思を伴わない戦いは必ず隙を生む。たとえ腕前が拮抗していようと最後にモノを言うのは操縦者の意志。瞳の曇ったシャルと意思を歪められた簪の二人では、ユウと鈴の一つになった意志は倒せない。

『それはそうと、“お使い”はどう?』
「ん、1件目は売り切れで2件目は狙いの品が置いてなかったよ。3件目に期待するかね・・・っと!」

一息吸い込むと同時にフェンスを一っ跳びで乗り越える。海沿いの山に隠れるようひっそりと建てられた施設の全容が見えてきた。ここが3件目・・・一番きな臭い場所だ。

ここは日本から離れたフィリピンにある半導体製造工場・・・ということに名目上はなっている。だが実際にはそうではない。
この工場は元締会社が経営破綻を起こした関係で半年前に別の会社に売却されている。・・・そして問題はその“別の会社”・・・結論から言うとそこは実体のないダミー会社だった。にも拘らずこの工場はずっと稼働を続けている。表向きは確かに名目通り半導体を製造・出荷しているのだが、調べてみると仕入れた原材料や部品と商品の量が釣り合っていない、つまりロスが多すぎることが解った。
資金の出所不明。誰が運営しているのかも不明。しかも計算上のロスが多いにもかかわらず工場ではさして多くの廃棄物が出ていない。ここまで来れば、この工場に普通ではない部分があることは理解できるだろう。

「問題はその“普通ではない部分”が何かってことだ・・・来たぜ」
「・・・残間承章様、お待ちしておりました」
「おう、待たせて悪かったな」

そんな怪しさ満点の施設を発見したとなれば、当然見つけた側は指を咥えて見ている訳にもいかなくなる。ジョウが現在面会しているのは学園の暗部である更識家の実働部隊、その隊長だ。
工場一つ調べるくらいなら現地の警察にでも圧力をかけて捜索してもらえばいい。だがもしもこの施設に警察では手が負えない存在が隠れていたら、それは国家の安全保障にかかわる大事に発展しかねない。下手をすれば送り込んだ人間が帰ってこないなんてことも有りうる。
犠牲を最小限に抑え、事態を収拾し、なおかつその情報を外に漏らさないためには、この島国の警察や視察官では不十分である。だからこそ彼らが悟られぬよう総勢60名がこの工場を包囲している。そしてジョウはこの調査に確実を期すための隠し札、というわけだ。

本来IS学園が海外の怪しい施設などという“ありふれたもの”にこれほどの人数を投入することなど無い。せいぜい更識の息がかかった諜報員を1,2人送り込む程度が普通だ。ISを導入するなどあり得ない。ではなぜISを―――それも本来守るべき対象であるジョウを用心棒の様に連れてまでしてここを調べるのか。

その答えは単純。この工場の謎を探ろうと送り込まれた更識の諜報員が行方をくらませたからだ。

更識の諜報員はその末端に至るまでが世界最高峰の練度と実力を誇る。そんな潜入、諜報のプロ中のプロが行方をくらませた理由は2つに1つ。捕まったか――始末されたか、だ。裏切りは絶対にありえない。そんな二心のある人間がやっていけるほど更識は生易しくない。だからこそ、この警戒だ。


これがジョウの“お使い”・・・正確には、暗部のお手伝いだ。このIS学園の一大イベントによって学園を離れるわけにはいかなくなった楯無が裏の手伝いが出来るだけの実力を持ち、尚且つトーナメントに参加していないジョウに頼んだ仕事。学生でありながら3次移行事件のせいでIS学園の所属となったジョウ以外には頼めない内容だ。
無論ISがある以上彼自身だけに限定すれば危険性は限りなく薄い。いくらこの工場の正体が分からないとはいえ現代最強の兵器であるISをどうこうできるほどの代物があるとは考えにくい。そう言った部分も配慮してのお使いだ。買ってくるのは情報とジョウ自身の経験というわけである。

「では手はず通りに我々の後方へ」
「では・・・夏黄櫨、頭部センサーと非固定浮遊部位を部分展開。潜伏モード、オン。光学ステルス稼働開始。ECMレベル最大に設定」

後付装備で即席潜入装備を纏ったジョウが実働部隊の隊長の視界から忽然と消え失せる。これも更識ならではの装備だ。非固定浮遊部位に潜入用のすべての機能を纏めてISに装備させる、楯無も使用している特別品である。皮膜装甲(スキンバリアー)のみを展開し、その内側にいる者の姿を掻き消すよう特殊な処理をISに行なわせるそうだが、詳しい構造は企業秘密だとのこと。ステルスが十全に機能していることを確認した隊長は小さく頷く。

「以降は専用回線のみで通信を行う、オーバー」
「了解。以降はこちらの指示、若しくは緊急時の独自判断で行動してください、アウト・・・さて、ここから先は単なる独り言です」

後方に待機していた別の工作員にアイコンタクトを送り所定の位置に移動する。この工場の従業員はすべて現地の人間であり本社の正規雇用は一人もいない。よって「本社から視察に来た」と言えば適当な身分確認さえすればすんなり入れる(無論その身分証明は偽物だが)。正面から堂々と入る視察組、セキュリティを掻い潜る潜入組、外で待機しつつ監視を続行する監視組の3つのうち、ジョウは2番目の隊についていくこととなっている。

上の目の前にいる指揮隊長も2番目であり、以降は先ほど言った通り不測の事態ない限りジョウは彼の指揮下に入る。隊長は抑揚のない声で喋りだす。それは他人から見れば文字通り独り言にしか見えないし聞こえない。

「ここに潜入したのは私の義理の息子でしてね・・・ええ、こんな世界に生きていても子供って奴は欲しくなるんですよ。聞き分けのいい子でねぇ・・・あまりにいい子だからついこっちの仕事を口走ったら「俺も親父と一緒に働く!!」ってね・・・あんときゃあ困ったなぁ」

懐かしそうに、そして寂しそうに小さく笑う。その目尻や口元の(しわ)が、隊長が今まで生きてきた年月を感じさせた。危険と隣り合わせの仕事をやっていれば自分が生きた証の一つくらい残したくなるのだろう、とジョウは思った。

「才能がね、残念ながらあったんですよ。ちょっと鍛えてやりゃあ根を上げるかと思ったら、逆にこっちが先に音をあげちまうなんてなぁ・・・でも、やっぱり子供の成長はどんな形でも嬉しいもんです。子供を持てば誰だってわかります」
「・・・・・・」
「ええ、ええ。分かってましたよ。こんな世界で生きてりゃあ、今生の別れ位良くあることでさぁ。もう私と同期の奴なんて指で数えるくらいしか残っちゃいないしねぇ」

口元からは、もうとっくに笑顔は消えていた。かといって私情に呑まれた父親(おや)の顔もしていない。そこにいるのは更識の顔だ。たとえ掌に血が滲むほど爪を食いこませていようが、顔は確かに任務を遂行する人間のそれになっていた。
息子のそれはそれ、任務は任務、たとえ体がどれだけ熱を帯びていようともそこは履き違えない。そも、それが出来ねば彼は今まで生き残ってはいなかったろう。向上に入り込む準備が完了したのを確認しつつ、ジョウにしか聞こえないほど小さな声でぼそりと吐き出す。

「この親不孝もんが・・・親父より先にくたばってやがったら、てめぇの墓石に線香なんざ置いてやらねぇぞ」
(・・・遠回しに「間違ってもお前は死ぬな」って言われてるような気がするね、どうも)


世界の目がIS学園に集中する中、東南アジアの島国で静かな静かな戦いが幕を上げる。 
 

 
後書き
プロミネンス・・・ガトリングミサイルランチャー。元ネタはゲッターロボGの読み切りか何かで一回だけ使った武器(うろ覚え)。

この小説はチャージに時間がかかるのが欠点でね・・・最近休みなく投稿してたけど、久しぶりに1週間書き溜め期間とります。次のタッグマッチの戦闘シーンは滅茶苦茶気合入れて書いたので楽しみにしててください(爆死フラグ)。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧