戦国異伝
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第百四十二話 小谷城からその二
「どんな美人でも一緒にはなりたくあるまい」
「ですな、うちの女房も」
「わしのもです」
彼等は口々に言っていく。
「あれで中々気がつきまして」
「わしのことを大事にしてくれます」
「ですから一緒にいたいです」
「何時までも」
「兄上にしてもじゃ」
その羽柴もだというのだ。
「そのお心があってな」
「それで、ですな」
「おなごが寄ってきますか」
「兄上は男だけでなくおなごにももてるのじゃ」90
そのどちらにもだというのだ。
「だからな。浮気もな」
「出来るのですか」
「おなごが寄って来るからこそ」
「そういうことじゃ、実際にな」
どうかというのだ、兵達に。
「今も少しのう」
「おお、側室の方ですか」
「その方が」
「ははは、義姉上も気が休まる間もないわ」
今度はねねのことを話す。
「兄上はとにかくもてるからのう」
「待て、何を話しておるか」
ここで当人が来た、それで秀長達に問うた。
「わしが浮気をしておるというのか」
「おや、聞こえていましたか」
「何となくだがのう」
聞こえていたというのだった。
「しかし小竹よ、嘘は申すな」
「いやいや、そうでしたか」
「それか噂じゃ」
そちらもだというのだ。
「よいな、言うでないぞ」
「では義姉上とは」
「言うまでもないわ。円満じゃ」
羽柴は胸を張って言い切ってみせた。
「ねねはわしには過ぎた女房よ」
「しかしそれでもですな」
秀長はあえて笑ってこうも言ってみせた。
「兄上はおもてになりますから」
「何を言う、この顔じゃぞ」
羽柴もまた己の顔のことを言う、その猿の様な顔のことをだ。
「もてる筈がなかろう」
「その割にはこの前も都で何やら美しきおなごと」
「むっ、見ておったか」
羽柴は秀長のその言葉にはぎょっとした顔になって返した。
「あれはほんの出来心じゃ」
「しかしですな」
「いやいや、何もしておらぬ」
苦しい顔でこう言い繕う。
「ただ話をしただけじゃ」
「しかし兄上の方からお声を」
「奥ゆかしいおなごでなければな」
「ですな、ではやはり」
「全く、御主は手強いな」
わざと苦い顔で笑ってみせての言葉だった。
「それでもわしはねねが第一じゃがな」
「ですな、まずはですな」
「そうじゃ、ねねを忘れては話にならぬ」
本妻である彼女をだというのだ。
「このことは肝に銘じておるぞ」
「ううむ、羽柴様はやはり」
「もてない筈がありませぬな」
「そのお心があれば」
「もてる筈です」
兵達もその羽柴の言葉を聞いて言うのだった。
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