lineage もうひとつの物語
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序章
決着と決心
アレンは呼吸を大きく乱していた。
目の前には心臓にダガーが刺さったままのブラックナイト。
アレンは思う
やればできると
「ざまーみろ」
そう呟くと膝が折れそのまま仰向けに倒れこむ。
もう立ち上がれそうもない
傷が深くブレイブポーションの副作用もあり血を流しすぎた
レッドポーションを使いたいが指を動かすこともままならない
ナターシャは無事だろうか
仲間と合流できるだろうか
俺は未来を、国を守れたのだろうか
その結果を見ることができないのは残念だが悔いはない
ブラックナイト隊に一人で勝ったのだ
「泣いてないといいな」
そう呟くと目を閉じた
翌早朝ナターシャはゲラド宅を訪問するため宿の角を曲がり広場を横切ろうとしていた。
そこで仲間二人に再開することができた。
一人はエルフ。ロングボウを背負った身の丈175センチ前後の美男子という言葉がそのまま当てはまる容姿をし名をハスランという。
もう一人はウィザード。マナスタッフを腰に下げ身の丈はハスランより幾分低くその顔には眼鏡をかけナターシャを見る目は父親のような表情が見てとれる。名はナイル。
二人とも年齢は二十代半ばくらいだろう。
合流に喜んだナターシャだがすぐに二人と共に街道を走った。
走りながら今までのことを説明する。
ブラックナイト隊という言葉を聞いた二人は無事ではないだろうと思いながらも励ますように声をかける
「きっと大丈夫ですよ」
「急いだほうがよさそうですね」
ナターシャは大きく頷き前を見据えた
昨日の場所にはブラックナイトの亡骸があり
そこから海側へと亡骸が並んでいた
しかしアレンは見当たらない。
「彼の武器もない」
「すれ違ったのかもしれない」
ナターシャはそう呟くがその周辺を捜索する。
もしかしたら避難したが怪我で動けない可能性もある。
仲間の一人であるエルフ、ハスランは五体の亡骸を見て驚いた。
一人でやったのかと
もう一人のウィザード、ナイルも驚いている。
本当に訓練所を卒業したばかりなのかと
ブラックナイト隊といえば国軍から選抜された部隊のはず
それを五人同時にとなると熟練した冒険者でも容易いものではない
そしてハスランはブラックナイトに刺さったままのダガーを引き抜きナイルを呼ぶ。
ナターシャのものだ。
これはアレンというナイトに預けたとさっき聞いたばかり。
戦闘の跡を見るにこいつが最後に倒されたように見える。
と、いうことはやはり単独で倒したのだという結論になるのか。
しかし本人の姿がない。
本当にすれ違ったのかもしれない。
「ナターシャ様、アレン殿はここには居られないようです。一度戻りましょう」
ナイルは回りを見渡すようにしナターシャに戻るよう促す。
「本当にすれ違ったのかもしれません。それに貴女にここは危険です。」
ハスランは周囲を警戒しながらナターシャに進言する。
「そう、そうですね。戻りましょう。」
ナターシャの顔に陰りが見えるがすぐに元に戻りシルバーナイトタウン方向へ向け歩き出す。
その両側を守るようにハスラン、ナイルの両名は並ぶ。
アレンが待っていると信じナターシャ達は急ぎ戻っていった。
アレンは目を開けると違う場所にいた。
洞窟?
周囲が岩で出来ているが体は藁のようなものの上にある。
起き上がろうとするも全身に激痛が走り動くことができない。
助かったのか
どこだかわからないが危険な場所ではないらしい
すると一人のノームが現れた
「まだ動ける状態ではない。おまえさんの持っていたポーションを使わせてもらったが傷が深く完治はできなかった。」
薬草をアレンの体に貼り付けながらノームは話す
「ここはおまえさんの街から少し離れた場所にある洞窟だ。安心して休むといい。」
「どうして俺を?」
首だけ動かしノームと向き合う。
「おまえさんは憎き黒騎士達を倒してくれた。そのお礼だ。」
ノームの村はブラックナイト達によって焼き払われた。
宝石や鉱石を街の商店に卸し生計を建てていたがそれらの行為が武器精製に加担しているという理由で村から追われたのだ。
多くの仲間を失ったが生き残ったノーム達は小さなコミュニティを作り生活している。
ここはそのコミュニティのひとつだという。
そしてアレンが倒したブラックナイト隊が村を襲った部隊らしい。
アレンはブラックナイト隊と戦うことになった経緯を説明しこう言った
「この国の希望は生き残っている」
声に力が自然と入る
「その方が王位を取り返せれば貴殿方の生活も元に戻るでしょう。」
ノームは驚きそして喜び笑顔を見せる。
「そのことを我らの仲間に伝えてもよいか?力になれるかもしれん。」
「ああ。いいとも。しかし他には内密に頼む。」
「もちろんだとも」
そう言い残しのノームは知らせるべく洞窟を出ていった。
見送るアレンは目を閉じナターシャの進む先を案じ眠りに入った。
旅の情報を収集しながらアレンを待った。
シルバーナイトタウンに赴いた理由はこの街でひっそりと活動するレジスタンスのメンバーに会うためでもある。
この街の創始者であるゲラドはナターシャを匿い話せる島に預けた人物でありレジスタンスの相談役もしている。
「ナ、ナタリシア様?」
訪ねてきたナターシャを見たゲラドは泣いて再会を喜んだ。
ゲラドに案内され向かった先はレジスタンスの基地である地下倉庫。
レジスタンスはナターシャの出現に驚きそして歓喜した。
この街で仲間を集め必ず駆けつけるとリーダーであるグオルグはナターシャに忠誠を誓った。
グオルグはナターシャが腰に着けているシルバーソードを見てそれでは物足りないとダマスカスソードを献上した。
ダマスカス鋼で出来ており強靭でありしなやかさをも併せ持つ決して刃零れしない性能をもつ。
わずかだが魔法のスクロールによって強化がしてあり淡い光を放っている。
受け取り腰に着けシルバーソードを外すと
「これは大切な借り物なのです」
そう笑い大事そうに抱えていた。
ナターシャは最後にアレンを見なかったか訊ねたが知らないとの返事が返ってきた。
5日経ってもナターシャはアレンを探している。
ハスランとナイルは中央広場の隅に並び今後のことを相談している。
もちろんナターシャから視線を外すことはない。
「姫には辛いかもしれないが現実を述べたほうがいいのか」
アレンが自力で戻れる程度の怪我ならすでに戻っていなくてはならない。
生きているなら命を掛けて助けたナターシャの無事を確認するために現れるはずだ。
戻れない理由があるのか、はたまた途中で力尽き亡くなったのか、だ。
ハスランは沈痛な面持ちでナイルに問う。
ナイルは困った顔をし考える
「で、それはどっちが伝えるんだ?」
質問を質問で返した格好になったが内容はハスランの意見を肯定していた。
その上での質問。
二人ともナターシャを悲しませたくはない。
伝える者は正面でその顔を見なくてはならずどちらもその役はやりたくなかった。
「ここは聡明なナイルがやるべきだろう。うまく伝えてくれ。」
「ちょっ!ここはおまえの出番だろうが!姫との付き合いが長いのはおまえだぞ!」
「いや、俺ではうまく伝えられそうにもない。」
「俺だってそうだ!姫の気持ちがおまえのほうが理解しやすいだろう」
とお互い押し付けあい決着はつかず夜になった。
夜、定食屋にて三人で食事をとるナターシャ達。
今日集めた情報を持ち寄り集約していると不意に
「明日出発しましょう」
ナターシャは他二人の返事を待つが二人とも固まっている。
「何かおかしなこと言いました?」
恥ずかしそうに訊ねるナターシャにハスランは
「いえ、少し驚いただけです」
ナイルもそれに続く
「まさか貴女から言われるとは思ってもみなかったもので」
ああ、そういうことかとナターシャは
「アレンさんが無事だと信じているのは変わりません。何らかの理由で戻れないのでしょう。ならば私は私に出来ることをしなくてはいけません。」
しっかりとした口調で迷いは見えず真っ直ぐ二人の目を見詰める。
「では準備をしてまいります」
ハスランは立ち上がると買い物をしてくると伝え店を後にする。
ナイルとナターシャは今後の進路を決めるために地図を広げ話し合っていた。
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