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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第五十話~新たな誓いと歩み~

 
前書き

お久しぶりです。
最近疲れ気味の作者です。

なんとか、キリのいいところまで書けたのでアップします。
今回は自己解釈、オリジナル設定が多いので読みにくいし受け入れづらいかもしれませんが、できるだけ複雑にしないよう頑張りました。

それと、最近気づいたのですが、総合評価が2000を超えてました。これも単に読者のみなさんのおかげです。これからもこの作品をよろしくお願いします。

ではどうぞm(_ _)m
 

 



スカリエッティアジト・一室


 ライが先ほど発した言葉。それを理解するのに、ジェイルは数秒の時間を要した。

「どういう……ことかな?」

 目の前に座る青年の言葉の意味を追求するように言葉を返すが、その声は少し震えている。それは歓喜からか、それとも興奮からか、少なくともその瞳には喜色を浮かべていた。

「追求しなければ解らないほど、貴方は愚鈍なのか?」

「……」

 ライの挑発の言葉を受けても、ジェイルは反応を示すことができない。何故なら、もう自分の中で答えが出てしまっているのだから。
 そしてその答えが出たからこそ、ジェイルは今自分が<識る/生きる>為にその言葉を口にする。

「いいだろう……先ほどの取引に応じようじゃないか」

 ほくそ笑みながらそう答えるジェイル。その反応と答えに少しだけ目を閉じ、気付かれないように安堵の息を吐くライであった。



一時間後


 取引の条件としてライが自らの過去を語り始めて一時間が経過する。その間、ジェイルはどこか英雄の冒険譚に憧れる子供の様にライの話を聞いていた。
 ライはこの世界に来るまでを語り終え、一息ついたところで改めてジェイルの方に目を向ける。

「これが僕の過去だ」

「なるほど、実に興味深い話ではあった」

「……」

「だが、肝心の部分がまだ語られていない。君がこの世界に来た要因と思われる、君とこの世界との接点を君は口にしていない」

 その言葉にライは頷いて返し、自身の考えを口にした。

「先に語ったとおり、僕がいた世界にもこの世界にもCの世界……正確には集合無意識というものは存在する。そして僕はその集合無意識に接続、干渉できる数少ない存在だった」

 ライの説明通り、彼は元の世界で出生や生い立ち以外も特殊な存在である。Cの世界で長期間眠り続けることで、コードを持たずに集合無意識に生身で干渉することができるのだ。
 これはギアスやコードというものを深く理解していたシャルル・ジ・ブリタニアもできなかったことだ。彼の皇帝もコードを手に入れるまでは『アーカーシャの剣』を使うことでそれに干渉していたのだから。

「だが、その能力にも使用条件はある。元の世界で遺跡として残っていたようにCの世界に直接入り込む出入り口。そこに行くことで初めて本当の意味で集合無意識に干渉が出来るようになる」

 これは一部が本当で一部が嘘である。
 実は六課のメンバーに過去を見せた時から、限定的ではあるが意識的にライは自分の精神をCの世界に自由に接続できるようになっていた。その際にライは、負担は大きいのだがそれをすることで“ある副産物”を得ることも出来るようになる。そのことについて、ライは六課メンバーにも言っていない。それ程にその副産物はライにとって重要かつ危険なものなのである。

「次元世界間の移動がどの程度のエネルギーや技術を必要とするかは知らないが、平行世界間の移動はCの世界を利用することで可能になる」

「ほう」

 ライの言葉にジェイルは科学者としての興味と興奮を表す表情を見せる。

「元の世界でCの世界で眠っていた頃、僕は夢として自分自身の様々な可能性を見た」

 ライは数多く遺跡と接触した時に、Cの世界の様々な意識の中に自分がブリタニア軍に所属していた場合の世界、戦うことを選ばずにアッシュフォード学園の生徒として生活を続ける世界などの可能性世界を知るをしていた。
 そしてそれを知ることでライは知ったのだ。Cの世界は自分がいた世界だけでなく、世界という枠組みを超えた無限の意識が集う場所であると。

「僕は知った。世界は隣り合って確かに存在していると。そしてその世界は意識を通じて繋がっている」

 ここまで言うことでジェイルもライが言いたいことを概ね理解する。

「ただの人間がその無限の意識の中を通ることは絶対にできない。無限の意識を受け止めきるなんて愚行を行って、人間の精神が持つはずがないのだから」

「なるほど――君はその意識の流入を制御、若しくは受け止めきる方法を知っているのか」

 ジェイルが興奮気味に言葉を引き継ぐ。その答えにライは敢えて否定も肯定もしなかった。何故ならライをこの世界に送ったのはC.C.であるから、彼女がどの様にして自分を送ったのかは知らないからだ。

「繋がっている世界間のパイプをその集合無意識だとすると、元の世界にあった遺跡はそのパイプの出入り口だ」

「なら、君が現れたゆりかごの部屋は――」

「元の世界の遺跡と同じ。Cの世界のへの入口だ」



機動六課・仮設隊舎


 日が落ち静けさを纏う海が月の光で照らされ始める頃、彼女――高町なのはは使えなくなった隊舎の代わり、仮設隊舎の屋上にいた。

「………」

 どこか焦点の定まっていない目を海に向けて、彼女は屋上に備え付けの手すりに体を預けていた。
 彼女のいる仮設隊舎は、半壊した隊舎のすぐ横に建てられている。その為、なのはの視界には今も重ねられて残っている、隊舎の瓦礫が映った。

「……っ」

 それを見ているとライが崩落に巻き込まれる光景が脳裏を過ぎった。それは苦しみとなってなのはの胸を締め付ける。彼女はそれに耐えるために自分の唇をキツく噛んだ。

「なのは」

 ガチャリという音と共に名前を呼ばれ、咄嗟になのはは沈んだ表情を振り払う。そして呼ばれた方に振り向くとそこには幼い頃からの幼なじみであるフェイトが立っていた。

「フェイト…ちゃん……」

 声をかけたのがフェイトと分かると、なのはは我慢せずに涙を流した。

「わた……し…の……せいで…ライ君………が……ヴィヴィオ…も…………私、守るって………やく……そく…した…のに」

 しゃくり上げながら彼女は気にしていたことを口にする。
 ティアナとの一件以来、彼女は他人に泣き言を言うようになっていた。流石にどんな人でもというわけではないが、幼馴染であるフェイトとはやてには自分の気持ちを素直に言えるようにしていた。
 泣きながら独白するなのはをフェイトは優しく抱きしめる。そして慰めるように、そして自分にも言い聞かせるように言葉を送る。

「なのは、ライもヴィヴィオもきっと生きてるよ。生きてる証拠はないけど、信じてあげないと」

「でも……約束…」

「その約束はまだ続いてるよ!この事件が終わって、皆が揃って、皆が笑い合って、それで今度は守り切ることを誓い合おう!」

 フェイトの言葉は次第に大きくなっていく。そしてそれに呼応されるようにフェイトはその瞳に強い光を宿す。

「……」

 フェイトは言いたいことを告げて、なのはを見る。彼女は未だに、叱られることに怯える子供の様に泣いていた。泣き続けるなのはの目にフェイトは優しく手を添える。

「今はゆっくり休んで、なのは」

 なのはは自分に添えられたフェイトの手の温もりを感じながら、その意識をゆっくりと沈める事となった。



スカリエッティアジト


 交渉が終了し、要求したデータを手に入れ、ライはここからいつでも出られるようなっていた。
 何故まだ出て行かないかというと、ライの要求の1つであるルーテシアの解放に戸惑ったからである。と言っても、準備をするのは彼女自身ではなく、彼女の母親にあった。
 ルーテシアの母親であるメガーヌ・アルピーノは過去の事件で重傷を負い、ジェイルの手によって回収されていた。そして回収された後、治療を受け、いつでも回復できるところまで来ていたのだが、ルーテシアを利用するためにジェイルはメガーヌを眠らせ続けていたのである。
 だが、今回のライの取引により、彼女は最後まで治療され、いつ目を覚ましても良い状態になることになっていた。
 そして、それも数分前に終わり、ここから出て行くライに付いていくことを希望したルーテシアは今、車椅子に座り眠るメガーヌと共にアジトの出入り口でライが来るのを待っていた。
 その出入り口の少し離れた通路でライはジェイルと最後の会話をしていた。

「君が要求した事は概ね実行した。今度は君の番だよ」

「ああ、約束は守る」

 『犯罪者相手に言う言葉ではないな』と内心苦笑しながら、ライはジェイルに背を向けた。そして立ち去ろうとした所にジェイルは最後の質問をライに投げかける。

「おっと、1つ聞き忘れた。君は何故あの3人を助けたんだい?」

 それは効率だけを考えたのであれば、敵の中核戦力であるチンク、ノーヴェ、ウェンディを見捨てた方がライにとっては得である、というジェイルなりの疑問であった。
 ライは立ち止まって振り返り、淀みなくその答えを口にした。

「妹を見捨てる兄になりたくはないからだ」

「くっくっ――そうか」

「こちらからも最後に言っておく」

「何かな?」

「ヴィヴィオを生み出した要因の一端が貴方にあると言うのなら、そのことには感謝する。だが―――」

 ライはそこで自分の扱える最大の殺気を放ちながら口を開いた。

「ヴィヴィオを物として、兵器として扱った報いは受けてもらう」

 それだけ言い終えると殺気を解き、今度こそライはその場を後にした。
 ライの姿が見えなくなると、ジェイルは着ていた白衣のポケットに入れていた手を出し、その手のひらを眺めた。

「君は最後に恐怖までも、僕に教えてくれたのか」

 ジェイルの見た手のひらはじっとりと汗ばみ、小刻みに震えている。しかし、ジェイル自身はその顔を歪な笑みで歪ませていた。



スカリエッティアジト・一室


(ナンダアレハ?)

 自分の中で生まれた感情が制御できず、彼女は自身の体を抑えるように抱きしめる。

(ナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハ ナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハナンダアレハ)

 最初はただの興味本位であった。皆に内緒でサーチャーを使い、自分達の敵であり、兄である存在がどんなものなのかを知ろうとしただけであった。
 そしてコイツも他人のことばかり気にするつまらない愚物と感じた。それが彼女の正直な感想。しかし、別れ際の彼の目を見てそんな考えはどこかに消えた。
 その日、戦闘機人クアットロは未知の恐怖と理解できないことの恐怖。その2種類を同時に体験することになった。



スカリエッティアジト・出入り口


 ルーテシアとメガーヌに合流したライは念話で蒼月とパラディンに静かに宣言する。

(蒼月、パラディン。僕はもう我慢しない。全力を持って皆が笑うことの出来る世界にする)

 ライのその言葉に応えるように2機も誓う。

((この身がただの鉄くずに成り果てるその時まで、我らは貴方の剣となり、盾となり、翼になる。そして我らが主の行いが主の望む世界の礎にならんことを祈ります))

 そして宣誓を終えた王は静かに一歩を踏み出した。







 
 

 
後書き

今回、疑問に思う部分が多々あると思いますが、ネタバレを含むため敢えて表現をぼかしたり、抜いたりしています。

では次回も早めの更新が出来るように頑張ります。

ご意見・ご感想をお待ちしております。
 
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