久遠の神話

「そちらになりますか」
「そうです。中国人です」
「剣士も次第に国際色が出てきましたね」
「少なくとも剣士は一国だけから出るとか限りません」
　スペンサー自身がそうである様にだというのだ。
「その魂に従ってのことですから」
「だからですね」
「そうです。それでなのですが」
「神戸のチャイナタウンには前から興味がありました」
「では行かれますか」
「そうさせてもらいます。では今から」
　行って早速だった、彼は領事館から出た、その際館長に仕事で出ることは話した。
「軍務で」
「そうですか」
「少しこの場所を離れますので」
　こう言うだけで充分だった、彼は敬礼をして館長に一時の別れを告げた。
　そのうえで中華街に向かう、そのまま王と闘うつもりだった。
　しかしその途中の公園の前でだった、丁度仕事で公園を掃除していた加藤が彼に気付いてこう言ってきた。
「あんた剣士だな」
「そういう君は」
「俺も剣士だ」
　こう仕事の作業服姿で言うのだった。
「あんたと同じな」
「まさかこうした場所で会うとは」
「偶然だがな。しかしな」
「私と闘いたいのですね」
「俺は掃除も好きだが」　
　それに加えてだというのだ。
「戦いも好きだ」
「剣士の中にはただ戦いを求める者もいるとは聞いていましたが」
「それは俺だ」
　他ならぬ彼だというのだ。
「俺がそうだ」
「戦いたい為に戦いますか」
「刃を交え殺し合う、このうえない楽しみだ」
　こう血走った目で言うのだった。
「だからだ。俺は生き残り」
「それからもですね」
「戦う、永遠に戦い続ける」
　地の底から唸る様な声でスペンサーに話す。
「生き残ってからもな」
「そこに利益はないのですね」
「利益か」
「はい、貴方にとっての利益は」
「戦うこと自体が利益だ」
　加藤はこう返した。
「それ自体がだ」
「戦いそのものが好きだからですか」
「命のやり取りがな」
「ですか。本当に戦うことだけがお好きですか」
「それだけでいい」
　本当に満足だというのだ、それだけで。
「他の連中は知らないがな」
「そうですか。私が戦う理由とは全く違いますね」
「あんたは軍人だな」
「はい」
　今も軍服を着ている、それが何よりの証だ。
「御覧の通りです」
「そうだな、あんたは軍人だ」
「軍人が戦う理由は」
「国家の為だな」
「合衆国の為に」
　スペンサーは目の中と口元に微笑を見せて答えた。