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紅き微熱と黒き蓮華

作者:神悠
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第二話

 
前書き
お久しぶりです。
今回は会話が多くなりました。すみません。
あと展開もスローです
それでも良いというかたはどうぞ

何かアドバイスなどもあればよろしくお願いします 

 
目を覚ますとベッドの中にいた。
生地を触ると柔らかで肌触りが良いことから高級品だと分かる。

隣からは規則正しい寝息が聞こえ、顔を横に向けるとお互いの顔が5センチあるかという距離に女の顔があった。神田にいきなりキスをしてきた女である。

(コ、コイツ、あの時の…//)

彼はその事が思い出し、気恥ずかしさを紛らわす為にベッドを出た。

ベッドを出る際に己の体を見やると、黒の教団の服はなく下着のみ着用していた。そして右胸には蓮の花の紋様が刻まれていた。
擦っても消える気配がない。

(このアマ何しやがる!?)

籠の中に畳まれていた彼の服を見つけると、すぐさま手に取りその中のノースリーブとズボンを着用した。

一段落して、窓に目を向けると月明かりの為か窓辺が照らされていた。
しかし、月にしては不自然な照らし方だった。二つの光が届いていたからだ。確認してみると、光源は確かに月でかなりでかい。それだけならよかったのだがなんとその月が二つあった。

(月が…二つ…だ、と?)

彼の知る月は確か一つだけだったはずだ。一体何時から二つになったのだろうか?
もしかして、ここの所在地と関係あるのだろうか?
溢れてくる疑問と、六幻とゴーレムがないことに頭を悩ませ、とりあえずそこで寝ている女に聞こうと思い、朝になるのをひたすら待った。


朝になり、キュルケは目を覚ました。
時刻を見ると、いつも彼女が起床する時間より1時間程早い。
何か良いことが有るかも、そう思い隣を見ると、昨日召喚したはずの使い魔がいなかった。

(まさか、逃げちゃったの?)

素早く、部屋を見渡すと彼は椅子に腰掛け、足を組んで此方を見ていた。いささか不機嫌そうだ。

「あ、そこにいたのね。おはよう」

「チッ…ようやく起きたか。…まあいい、質問がある。ここはどこだ?俺の胸にある蓮はなんだ?俺の刀と蝙蝠みたいな生き物は何処へいった?」

「ちょ、ちょっと!いきなりそんなに質問しないで。それに人がおはようって言ってるのよ。ちゃんと返しなさいよ」

「フン、いきなり人の唇を奪うような女に言われる筋合いも挨拶する義理もねぇ」

「それは契約の為に行ったんだから仕方ないじゃない」

「御託はいいからさっさと答えろ」

(何よ、口を開けばとんでもなく口が悪いじゃないの)

高圧的な態度で命令する彼に少々腹を立てながらも申し訳なさもあった為、渋々キュルケは答えた。

「ここはハルケギニアのトリステイン魔法学院よ」

「ハルケ…ギニア?」

「…え?まさかそこでつまづくの?自分のいる世界ぐらい分かっておきなさいよ!」

神田がハルケギニアも知らないことに驚きを隠せなかった。

「いや、俺はヴァチカンという国にいたはずだが…」

「ヴァチカン?…そんな国はこのハルケギニアに存在しないわ」

「ありえねぇ!」

「本当だってば!なら、そのヴァチカンから来たっていう証拠を見せて」

そう言う彼女の顔は真面目で神田は夜に見た二つの月を思い出した。

窓を照らしていた双月…。

ここは、違う世界だと思えば確かに地球とは異なるありえない双月にも納得がいった。


「…いいだろう。ゴーレムを見せたい所だが…オイ、俺の持ってた黒い蝙蝠みたいなやつを何処へやった?」

「ああ、あれね。あれなら貴方の持ってた棒切れと共に解析したいというミスタ・コルベールっていう人に半ば強引に持っていかれたわ」

「なんだとっ!?ゴーレムだけではなく俺の六幻まで持っていっただと…場所は何処だ?ただじゃ済まさねぇ」

すぐに飛び出ていこうとする神田にキュルケは静止をかける。

「あ、後でちゃんと取りに行くから」

「…チッ、出来るだけ急いで行けよ。じゃあ次の質問だ。俺の胸にあるこれはなんだ?」

ノースリーブを脱いで蓮の模様を指し示す。

「ああ、それは私との契約の証よ」

契約の言葉に疑問符を浮かべる神田にキュルケはサモン・サーヴァントで神田を召喚し、キス(コントラクト・サーヴァント)で契約したことを話した。
神田は話の途中でわなわなと震え始め話が終わるまで一言も発さなかった。

話が終わりしばらくした後、神田が一つ深く息を吸ったかと思うと―――

「お前が俺を、こんな訳の分からん所に呼び出しやがったのか!それにそんな一方的な契約は破棄だ!破棄!!」

「お、落ち着いて。悪いとは思うけれど…私も好きで貴方を呼び出したんじゃないから。あと、一度結んだ契約は破棄することは出来ないわ」

「なん…だ…と?」

「契約が切れるのはどちらかが死ぬときよ。…言っておくけど帰るだなんて言い出さないでね。人間を呼び出した上に言うことを聞かないなんて皆に知られたら私はもうゲルマニアに帰れないわっ!」

キュルケは早口で捲し立てた。

すると部屋の温度が下がっていくような気がした。

「…さっきから聞いてりゃ、お前何様だ?俺を勝手にこんなところに呼び出しといて私は好きで呼んだんじゃないだと?ふざけるなよ。いつまでもお前のお遊びに付き合ってる暇はねぇんだよ!とっとと元に帰す呪文を唱えろ!」

神田の凄まじい剣幕にキュルケは思わず涙目になる。

「ヒッ…そ、そんなこと言われても…帰す呪文なんてないわよ」

「なら、俺を呼び出した呪文をもう一度やってみろ」

「サモン・サーヴァントは唱えることはできないわ」

「何故だ!?」

「もう一度行うときは使い魔が死ぬとき…つまり、貴方が死ぬ時よ。それでも…やってみる?」

「チッ…帰る方法は他にはないのかよ!」

さすがにそんな賭けには踏み切ることが出来ないと判断したのか、神田はキュルケに別の方法を尋ねた。

「あるかは分からないけれど元に帰す方法は探してみせるわ」

「そうしてくれ。それまではお前の言ってた使い魔とやらをやってやる。…それで使い魔とは具体的に何をするんだ?」

「それは…」

全ての質問に答え終わる頃にはいつものキュルケの起床時刻になっていた。

「秘薬の採集とかは無理だが、ようはお前を守ればいいんだな?」

「そうだけれど、貴方魔法も使えないのにそんな細身で戦えるの?」

「無駄に筋肉をつけても意味がない」

「まあ、ちゃんと守れるなら良いわ。それにしても早起きした意味がないわ…今度は私が質問するわ。貴方の服の十字架は何?」

「このローズクロスは…いや、話すのはやめだ」

「私は知りたいわよ。ギブアンドテイクでしょ?」

フン、と鼻を鳴らす神田にキュルケはどうしても聞きたいと詰め寄る。

(だって夢の手掛かりに繋がるかもしれないもの)

「チッ…ギブアンドテイクというなら俺は既に契約という名の物を与えているだろう」

そう言って神田は胸の蓮をキュルケに見せつける。

「クッ…仕方ないわね。そう言えばこんなに会話したけれど、未だにお互いの名前は名乗ってなかったわね。…コホン、私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。二つ名は『微熱』。キュルケでいいわ。よろしく、次は貴方よ」

「…俺は神田だ」

「それで終わりじゃないでしょ?きちんとフルネームを言って」

キュルケは神田にそう言うが彼はそれきり黙ったままで反応がない。

「聞いてる?」

「……」

「もう、ユウの口から聞きたかったのに」

彼のファーストネームを言うと彼の体がビクッと震えギロッと此方を睨み付けてくる。

(へえ、面白いことを見つけたわ)

「お前…何故俺のファーストネームを?」

「お前じゃなくてキュルケ。そこの服を調べてたらボタンの裏に刻まれていたわ。ユウ カンダってね」

本調子を取り戻し、ケラケラと笑うキュルケに対し神田は怒りを覚えた。

「お前「キュ・ル・ケ」…キュルケ、斬るぞ!」

「あら、刀もないのにどうやって斬るのかしら?」

「クソ!好きにしろ。」

六幻が手元に無いため脅しも効かず、踏んだり蹴ったりだった。
だが、彼女にファーストネームで呼ばれるのは不思議と不快ではなかった。

「言っておくけど、ツェルプストーの立場からは人間の使い魔は嫌だけれど、私個人としては別にさほど気にならないから。そういうわけで改めてよろしくね。…ダーリン?」

「ふざけるなっ!」


身だしなみ等を整え(その間神田は外で待っていた。キュルケ自身は気にしていないようだったが)部屋を出ると、ルイズも出てくるところだったようでばったりと出くわした。

「おはようルイズ」

「おはようキュルケ」

「それ、貴女の使い魔かしら?」

「…そうだけれど」

キュルケの指し示す先にいたのは変な格好をした、なんとも間抜けそうな黒髪の少年だった。
その少年はブラウスの隙間から覗くキュルケの谷間に釘付けになっていた。

「まさか本当に人間だとはね」

「貴女の方こそ、そこにいるのは、ヒッ!…あ、貴女の使い魔でしょう?」

神田の睨みに怯えながらもルイズは尋ねた。

「ええ、私のパートナーよ。ねっ、ユウ?」

「ウルセェ。俺とお前「キュルケ」チッ…キュルケは期間限定だろ」

「まあまあ。ルイズ、私の使い魔カッコいいでしょ」

そう言って神田に抱きつくキュルケ。

「クソ、お前離れろっ!」

そのやり取りはどうみても主従関係ではなかった。

「ま、まあ仲が良さそうで良かったわ。さすがは『微熱』ね」

顔をひきつらせながらルイズが言うと、キュルケは神田から離れ溢れんばかりの胸を張って応酬した。

「当然。私は『微熱』のキュルケですもの。ところで貴方のお名前は?」

一人置いてきぼりを食らっていた才人にキュルケを声をかけた。

「オレか?オレの名前は平賀才人」

「ヒラガサイト?変な名前ね」

「やかまし。」

「まあいいわ。ユウ、貴方も自己紹介して」

「…俺は神田だ」

「よろしくな」

そう言って右手を差し出し、握手を求めた。

「ああ。だが、俺は馴れ合うつもりはねぇ。どうせ短い付き合いだしな」

「?…どういうことだ?まさかアンタも異世界から来たのか?」

「アンタもってことはお前もそうなのか?」

「貴方もまた違う世界からってやつ?そんなことは後にして食堂に行きましょう。さあ、行くわよユウ!二人とも、お先に」

面倒だと判断したキュルケは食堂に行こうと神田を急かした。

「お、おいちょっと待て。一人で歩ける……オイ」


どんどんと遠ざかる神田の声が廊下に響いた。

(意外と悪くねぇ…少しだけAKUMAのいない世界でも楽しむとするか)

こうして異世界からの来訪者にとって初めてのハルケギニアでの一日が始まる。
 
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