どっかの分隊長
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それはきっと心の涙
~ぺトラ視点~
「ルイビンとライが死んだ。」
「――――――え?」
「聞き取れなかったのか?ルイビンとライが死んだんだ。作戦変更だ。」
我らが隊長は声に感情をこめずに、ただの報告だとでも言うように淡々と告げる。私はその言葉の意味が理解できず、理解したくなく立ち尽くした。
―――ルイビンさんとライ君が……死んだ?
何で……?
優しくて頼りになるルイビンさん。隊長も一番頼りにしていたし、私もいつも彼を頼っていた。
面白くてやる時はやるライ君。今年入ってきた新人で落ち着きが無かったが可愛かった。
二人とも、私の大事な仲間だ。
そんな彼らが…死んだ?
「――――は、こうなるから、こうしろ。」
説明して下さっている隊長には申し訳ないけれど、作戦を聞いている余裕は今の私には無い。
――――〝死〟
その事実が私に重くのしかかった。身体が震える。ひざに力が入らない。
何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で。
―――――何で、彼等が死んだの?
私は無意識に、思わず地面にへたりこんだ。
「おい、大丈夫か。」
「……すみません。」
「今は作戦中だ。悲しみに暮れてたら死ぬぞ。」
「……すみません。」
あぁ、何をやって居るんだろう私は。そうだ、隊長の言うとおり今は作戦中でしょう?
ほら。しっかりしろぺトラ。何をへたりこんでいる。立て、立ち上がれ!!仲間の死を嘆くのは後で良いでしょうが。今はやるべきことをやれ、私。
唇を噛み締めて悲しさを紛らせる。そんな物では到底消えるものではないものの、何とか意識が定まった。
「……その様子を見るに、作戦聞いてなかったな。」
隊長が声に少しだけ呆れをにじませながら言う。
「……すみません。」
「もう一度説明するぞ。」
「早く立ち上がれ」と隊長は雰囲気に似合わぬ小さな手をこちらに差し出してくださった。長い前髪の下から見えた冷酷な瞳には、本当にわずかながら気遣いの色が見える。それに少しだけ嬉しさを感じながら「ありがとうございます。」と、手を借りて立ち上がった。その手は、あれ?と思うほど小さかった。
「よし、ではもう聞き逃すなよ。」
隊長が苦笑いしながら丁寧に説明してくれた。私は説明を一字一句逃さずに聞きながら決意を固める。
―――――すべては人類のために。
けれど、終わってしまえば感情の糸は容易く切れるもの。
「うぅ……ぁぁ。」
作戦が終わった直後、私は情けなくも泣き崩れてしまった。
死んだら二度と会えない。あの頼りになる笑顔も、可愛く不貞腐れたあの表情も見れない。辛い時も楽しい時も一緒にすごした彼等と、もう話せない。泣き合えない。彼等ともう―――笑い合えない。
「……ひっく…うぅぅう…。」
あぁ、情けない。悲しいのは私だけじゃないというのに。今回の壁外調査でも仲間を家族を殺された人はたくさんいる。そんな事分かってる。だけど、私の涙は止まらない。みっともなく、流れる続ける。
「この税金泥棒が!!!!」
罵倒とともに薪が一本こちらにとんできた。隊長がそれを打ち落としてくれる。
―――――――あぁ。私達は何のために戦ったのだろうか。
ふと隣を見ると、隊長はもう動かなくなった彼等を、いつもの無表情で見つめていた。その表情にも目にも、悲しみという感情は見受けられない。
隊長は……彼は、仲間の死や罵倒に何も感じていなのだろうか。
気まぐれか、気遣いか、隊長が私にかけてくださった上着をぎゅっと握り、私も隊長みたいに強くなれたらな…と、思う。
その一方で、その冷徹さに少しだけ恐怖した。仲間の死に何も感じなくなったら、私はどうなるのだろう。少しだけそうなった自分を想像したら、怖かった。
「――――考えろ。」
「……はぃ。」
先程まで自分の感情に任せて言葉をつむぎ続けていた私に隊長は淡々とした声音で両断する。
何で私達が死ぬのか。私達は何のために戦って居るのか。私は何をすれば良いのか。
もしかして隊長なら答えを知って居るかと思ったぶん、その答えとは言えない答えに少しだけ失望した。勿論、そんなのはただの自己中心的考えである事を知っている。
でも、いつも答えを淡々と答えてくれる隊長ならば、もしかしたら…と思ったのも、また事実だ。
途方に暮れて、かみ殺していた嗚咽がまた情けなく零れ始めた。
隊長はそんな私をいちべつしてから、曇天の空を見上げる。
あぁ、どうして―――隊長ほどの腕がありながら、一緒にいた私の仲間達は死んだのだろうか。隊長なら、仲間を殺させずとも出来たのではないか?……いや、戦場はそんなに甘くない。守りながら戦うなんて不可能だし、だから隊長は最善をつくした。実際に巨人はかなりの数が彼の手によって討伐されている。でも……もし、隊長なら…!!
嫌な思考が止まらない。幼稚な八つ当たりだけど、それでも、もし、もしかしたら…。
―――――――ツゥ…。
「っ。」
…………あれ?
いつも無表情で何も感じていないような隊長だ。だから、そんなはずはない。
けれど、何でだろう……
―――――何故か隊長が泣いたように見えた。
「……ぇ。」
もう一回彼の頬を見てみると、涙の流れた後は無い。なんだただの見間違いか。あはは、何か馬鹿みたいだ。
でも、本当に泣いていたかのようなその姿にチクリと胸が痛んだ。
………………もしかしたら。隊長だって悲しんでいた…のかもしれないなぁ。
私にとって隊長は完璧で、悲しむなんて想像できなかったけれど、それでも隊長だって人間だ。それも、まだ私より幼い…小さい子供なのだ。
実際は泣いてなかったかもしれないけど、その涙はきっと……本物な気がする。
「隊長―――――」
〝死〟は重い。その重さに小さな背中で今までたえてきた隊長は、それでも懸命に足を動かして……前に進んでいるではないか。
そんな隊長に私は何をした?
―――自分の事ばかり考えて、彼を更に苦しめた。
だと言うのに、隊長は私を責めない。「考えろ。」その言葉に、彼は何を込めたのだろう。隊長は考えて考えて考えつくして、そうして今も尚考え続けて居るんじゃないか?見捨てたんじゃない。きっちり答えをくださっていたのだ。
―――――きっと自分の事ですら精一杯だったと思うのに。
「―――ありがとうございます。」
―――――その声は風に乗って消えた。
後書き
( ゚∀゚)o彡°「ぺトラ!ぺトラ!」
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