蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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デートと監視とほのぼの番外編 ~上~
前書き
さて、今回はなかなかのイチャいちゃエピソードですな。
まったくもって、腹立たしい。
そんなお話です。
宏助たちが坂口とその妻を成仏させていたとき、一人の男がもがいていた。
「・・・くっ!やっぱり無理か・・・・・。」
男の名は有馬。名、といっても彼らに与えられるのはただ互いを呼び合うための無意味なもの。
その無意味な言葉を吐くものは、だから今必死で壁に刺さった槍から抜け出そうとしている男の同類しか使わない。
「・・・・・まったく。幾つもの人の魂を消してきて、実力重視で選ばれる単独部隊、その幹部にまで上り詰めた貴方がこのようなザマとは。《疾槍》と呼ばれた名も落ちましたね・・・、有馬。」
「・・・・・・!」
突然なにもないはずの空間から現れた男は、闇に紛れそうなダークスーツを着こなし高級そうな額縁眼鏡をかけて槍に刺された男を侮蔑的に見ていた。
「私たちの存在が世間に明かされたら困るのですよ。まったく。」
「うるさい。後方支援部隊のお前が言うんじゃない。来馬。」
「これから貴方を助けてあげようというのに、つれないですね。」
「んなこといいからさっさとこれ抜け!」
表面上はくだらない会話をしながらダークスーツの男は考える。
(まさか現世に死神をも凌駕する力を持つ男がいるとは・・・。しかも先程見ていた限りではあの男、近くにいたあの女性のおかげでかなり魂の力が引き出されていた。この怖いもの知らずの有馬を怯えさせるほどに人の魂の『闇』を映し出すとは・・・・。上に報告ですね・・・・。)
そうして彼は目の前に倒れこむ同僚の自分の同類に刺さる槍をそっと引き抜いた。
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
瞬時に四ポイントが決まる。向かい側に並ぶSPたちには既に感嘆より諦めの表情になっていた。
そんな彼らを見て、さっきまでポイント数を数えていた麗がため息をついて、声を張る。
「じゃあ、今日はここまでです!」
それと同時にSPたちが一斉に息を吐く。そんな彼らを見て、宏助はそっとため息をついた。
ことの始まりは麗だった。宏助が明のボディーガード兼執事となってもう一週間だが、SP達は宏助にまだ警戒を解いておらず、幽霊のことも知らないので、麗が「だったらボディーガードとしての実力を証明したらどうですか?」と提案したので今こうなってる。宏助は見た目は普通の冴えない十六歳なのでなんでSP達を差し置いて明や麗に一番近いところにいるのか説明しなければならなかったし、今日SP達の訓練に参加している。
今日は宏助にSP全員(三十人くらいいる)が次々にかかる、という形式にして、ポイント制の決闘を行った。肉弾戦で、相手を一回追い詰めるごとに1ポイント入り、4ポイント入ると勝ち、という方式で、宏助は当然全勝だった。
SP達はおのおの何故かタンクトップを着ている。アメリカの有名な映画会社から学んだらしい。
「どうでしたか?」
そんなことを考えている宏助にやはりタンクトップの麗がはなしかけてくる。
しかし、麗のタンクトップはなかなか・・・・だった。黒いその薄い布は汗で濡れてその下にあるものをはっきりと映し出している。明未満でもけして小さいとは言えないその膨らみと、筋肉質の身体、スタイルが良く、艶かしい体。下はなんと短パンだ。そのせいで太腿が飛び出していてやはり細く長い脚をすらりと出している。しかもこのタンクトップの膨らみを見る限り、確実に下着は・・・・・・
「・・・・そこのSPさん、この子ともう一度決闘してください。ただしこの子は両手両足しばった状態で動くの禁止というペナルティイつきですが。」
「サンドバックか!」
素早い突っ込み入れるが、麗はそれをスルー。半眼とジト目で見られると罪悪感がこみ上げてくる。
「ところで本当に宏助君どうでしたか?」
麗にもう一度同じ質問をされ、今度は普通に答える。
「まぁ、俺三割の力を使わずとも・・・・って感じですね。」
「そうですか。では、私と手合わせどうですか?」
麗にそう聞かれるが丁重に断る。
「おれは女性に手を出さないと決めてるんすよ。」
「ジェントルマンですね・・・、ま、いいか。」
そんな他愛も無い会話をしていると、明がやってくる。
「みなさん。おつかれさまです。宏助さん、麗、少し用があるんですが・・・・。」
『お嬢様こんにちは!ひとつ質問です!もうこの男とはそれなりに進展した関係に・・・・』
「トラぁー!」
すぐさまSP達にかかと落としを三十回喰らわす。即気絶した。
「あら~。今回少々ハードでしたからね~。仕方ありませんね~。」
引きつり笑いでSPを引きずっていく麗を横目で見つつ明に向く。明はさっき一瞬だけ視線を反らしていたのでSP達のことは知らない。
「どんな用ですか?」
「じ、実は買い物に行きたいな~なんて思ったりして。」
明が照れ笑いして下を見つつモジモジする。宏助はそれを見て苦笑する。
(そうか。このお嬢様は箱入りだっけな。俺が来たから外に自由に出られるようになってだけで。じゃあ、買い物にも行ったことはないのか・・・・。)
「別にいいですよ?じゃあ、執事服から私服に着替えてきますね。明さんは麗を呼んどいてください。」
実は宏助は執事服だった。動きにくいことこのうえない。しかし、明と外に出るときは私服を着ることにしていた。さすがに執事服で外出じゃ、割る目立ちする。
「わ、わかりました。麗を呼んでおきますね。」
そういって彼女さっていく。
宏助も蒸し暑・・・・そうな武道館から離れて本館へと軽い足取りで向かった。
十分後、私服の宏助、明が住宅街の壁を背にして立っていた。
麗はなにやら神条財閥の方から急用の仕事が入ったためにいけません、すみませんとかなんとか言いながら買ってくるもののリストとかなり多めの資金を宏助達に手渡した。なにやら麗がニヤニヤしていたのは気になったが・・・・・・
「麗さんそんなに急ぎの仕事が入ったんですかね。」
それとなく宏助は明に問いかけるが、
「多分気を遣ったんでしょうけど・・・・い、いえ。ごほん!いろいろと麗も忙しいのでしょう。」
なにやら焦った様子でぶつぶつ呟いたあとごまかしたように声を張り上げた。
宏助は首を傾げるがなにも明と二人で買い物なんて悪いことじゃない。とりあえず明のほうに視線を向ける。
さっきはSPがいろいろ言っていたのでそれの対処で忙しかったが今日の彼女はいつものコート姿ではなかった。
マフラーや手袋、耳当てはいつも通りだが彼女はカーディガンを羽織っており、なんというかいつもコートの厚い布地に隠されていて然るべきものが遠慮なくその膨らみを押し出している。更に下はデニムを履いていて太腿やなにやらがコートで隠されておらずなにか新鮮な気分がする。
色合いも地味だし、服も地味だが、コートをすっぽりと羽織っていた頃に比べるとかなり進歩した・・・・て、なんの進歩だ俺。なにマジマジとせっかく俺と一緒に買い物に行ってくれるお嬢様の姿を眺め回しているんだ、と自分を責める。
「では行きましょうか?」
「あ・・・・・、はい行きましょう。」
こういう時には役に立つ自分の力。人では一瞬とも数えられない時間で彼女の姿をしっかり見ることが出来る。見つめているとばれない。
そのまま二人は歩き出した。
しかし、何故か彼女の方からこちらに肩を寄せるように近寄ってくるのでその距離感はかなり近かったが。
若菜麗はそっと二人の様子を伺っていた。
勿論宏助の異常な気配察知能力でばれないように変装をし、眼鏡をかけている。この眼鏡は額縁を弄ることでズームを行えて遠くの景色を伺える。
宏助から無意識下の気配察知能力の範囲は聞いている。今は明とのデートで緊張しているから更にその範囲は狭まっているだろう。
宏助から聞かされた範囲から更にもう少し離れたところで物に隠れながら、眼鏡で歩く彼らを伺う。
そう、これは宏助と明のデートと言っても過言ではない行為だ。
男女が、二人きりで、買い物に、行く。
自分は遠慮して明と宏助の気持ちを汲み取り一旦は本気で二人だけにしようと考えた。しかし、しばらくしていると、彼らのことが気になってしょうがなくなり・・・・、SP達から借りた尾行グッスと共に今、ここにいる。
何故か彼らが変装を提案したときその目を輝かせてまってましたとばかりに既に用意してあった秘書服や網タイツ。髪を団子にするためのピンやその他アクセサリーなどを麗に渡し、全員がカメラを持って激写してきたが、尾行用グッズを貸してもらうための見返りなので仕方がない。
当然サイズは全部合っており、しかし、何故か少し秘書服の胸元がキツメになっていた。
しかし、こうしていれば宏助は自分に気づくことは無い。もし彼らがなにやら怪しい雰囲気になってあんなことやこんなことを・・・・みたいな状況にならなければ自分はただの傍観者。教育上あまり良くないイベントが起こるのを彼らの為に事前に防ごうとする正しい保護者の姿だ。と自分に言い聞かせ、彼らと自分との距離を一定に保ちながら歩を進める。
宏助と明は宏助が前に良く行っていたスーパーに向かう。
屋敷から徒歩十分ほどのところにあるそのスーパーはわりと大きく飲食店やゲームセンターもあるので、麗に買い物を頼まれたついでに、という大義名分のもと、遊びまくることができる。
明は外のことをあまり知らないようだし、好奇心マックスの彼女が買い物だけで帰る事は無いだろう、
これから起こることに妄想をふくらませつつ、宏助は明と他愛も無い話しをしながらスーパーに向かう。
外には多くの気配で満ち溢れていた。休日だというのに仕事だと遅めの出勤をする男性、家の中で騒がしくしている兄弟とそれを笑いながら見る夫婦。自転車で楽しげに言葉を交わしながら走る小学生。そして自分達を見つめる気配。
「・・・・・・!」
「どうかしましたか?宏助さん。」
宏助が慌てて振り向いたので驚いた明が問いかけてくる。
確かに一瞬だが感じた明確に見られているという気配、道端の通行人をふと見るような気配ではなく、完璧に監視と呼ばれるものの気配。
しかし、それを感じたのはほんの一瞬。既に気配を消しているからかも知れないがしかし、彼女とのせっかくの時間を無駄にしたくない。明の美貌に惹かれた変態の視線かも知れないし、と自分に言い聞かせ、こう答える。
「・・・なんでもないですよ。別に。」
後書き
どうでしょうか?
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