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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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A's編 その想いを力に変えて
  41話:過去の記憶と想い

 
前書き
 
久しぶりの一万文字越え。
今回もいいとこ取りが多いです。
  

 
 


昔々の話だ。ある世界に、一人の青年がいた。


彼はこれと言った特徴もない、どこにでもいそうな只の人間だった。

運動神経がずば抜けている訳でもなく、かといって学力が高いと言う訳でもない。よくてクラスの中で中の上といったところだ。


家庭の方でも、彼に不満はなかった。五つ下の妹がいて、父親は運送会社の社員で、母親も会社員。一緒にいられる時間はそこまで多くはないにしろ、家族で過ごす時間は楽しいものだと思っていた。


ただ小学校、中学校を過ごし、受験を受け高校、大学と進学し、一人暮らしも始めていた。

友人関係もそこそこで、顔は広いが特別親しい関係とまではいかない距離を保っていた。因に顔は準イケメンの部類に入る程。





「昔々って言える程昔でもねぇだろ。普通に現代だろ」
「お主、人の話は最後まで聞くもんだぞ?」





しかし彼は大学までの十八年間……いや、大学に入ってからも、自分のやりたい事…将来の事が決められないでいた。

ただ悶々とした毎日を淡々と過ごす中、自分は何の為に生きるのか、何がしたいのか。彼はそれらをずっと自問自答していた。


――そんな問いができる年頃から…ずっと、ずっと――


それでも、彼はその答えに辿り着けずにいた。

何度も、何度も、それを自らに問い続け…答えの出ない事にもがき、苦しみ……だがそんな事を考えている事を、胸の内に押し込んで。





「意外と重い話だな」
「だから話は最後まで聞かんか」





そんなある日の事だ。

彼は大学の夏休みを利用し、家族のいる家へと帰省する事にした。


必要最低限の荷物を手に、家へと向かっている途中、高校から帰る途中の妹を向かいの道路で見つける。

妹も彼の存在に気づき、道路を挟んで手を振ってくる。

そして信号か変わったと同時に妹は走り出した。彼も走りはしなかったが、妹の元へと歩いていく。



―――だから、気づくのが遅れたのだろう


激しい轟音と共に、視界の端からトラックが走ってきた。さらに悪い事に、そのトラックの進路には彼の妹がいた。

トラックは赤信号で止まれるような速度でもなく、止まる気も見えない。

妹もその事に気づいたが、トラックが迫ってくる恐怖に足を止めてしまった。


彼は思わず走り出した。

考えてではない。ただ目の前にいる妹を助ける為に、走り出す。

トラックが後数メートルまで迫ったとき、彼は立ち尽くす妹を体で押し出す。あまりに急な事に、妹は声も出せなかった。


そしてトラックは無情にも彼を弾き飛ばした。

彼は少し先の道路の上に落ち、ピクリともしない。彼を轢いたトラックは、その場か去っていく。

ようやく現状を掴めた彼の妹は、急いで立ち上がり彼の元へ走る。

彼は後頭部を強打したようで、道路は彼の赤い血で染まっていた。その血も、まだ止まりそうにない。

必死に彼の名前を呼びかける妹。体を揺らし、閉ざされている意識を起こそうとする。


そして、奇跡的に彼は意識を取り戻す。

妹は涙を流しながら喜んだが、彼の目が虚ろになっている事に気づく。

その彼はというと、自分の手を伸ばし、妹の頬に触れる。

幸い彼女には目立った怪我はない。その事に気づいたのか、彼は優しく微笑んだ。


―――あぁそうか…人を助けるって、こんななのか…


そして、彼の手は妹の頬を離れ、冷たいコンクリートの上に落ちた。


















「どうじゃった、この話?」

“神”はそう言って俺に問いつめる。いや、どうって言われてもな……

「それ……まるっきり俺の話なんだろ?」

俺は頭を掻きながら呆れるようにそういった。だって流れ的にそうじゃん。そうじゃなかったらここで話す必要性はない訳だし。
それを聞いた“神”は、フ、と軽く笑い、口を開く。

「あぁ、そうとも。この話の主人公は、お主の事じゃ」

じゃがな、と言葉を繋げる。

「この話には、裏話があっての」
「…何?」



「実はこの事故で死ぬ筈だったのは……お主の妹だったのだ」



「……は…?」

“神”からの一言に、言葉が出なかった。どういう事だ?事故だったんだろ?なんで死ぬ人間が決まって……

「まさか…まさかそれって…!」
「そうだ。あの事故で死ぬ運命(・・)だったのはお主じゃなく彼女だったのだ」

その言葉にようやく俺の頭が必死に回転し始め、一つの答えに辿り着く。

「お主の考えている通りだ。彼女はあのときあの事故で死ぬ。我ら神々の間では、そう決まっていた。だが、それをお主が救い、代わりにお主が死んだ」

神々の間で決まっていた運命。それを生前の俺は変えた。たとえ無意識でも、神々の取り決めを変えたのだ。言葉を羅列するだけでもあり得ない事だとわかる。

「それで神々で色々話し合ってな。お主が死ぬ筈ではなかったのと、神々の運命(さだめ)を変えた事への興味も含めて、お主を転生させる事となったのだ」
「興味含めてとか……」

そう言いながら“神”は俺に背を向ける。

「因によ、“神”」
「ん?なんだ」
「その妹……真希は、その後どうなったんだ?」

俺がそう言うと、ほう、と意外そうな声を漏らしながらこちらに向き直る。

「どうしたのだ?そんな事を聞いてくるなど…」
「いや、さすがに気になるさ。生前とはいえ、妹…なんだから、さ…」

と首の後ろをポリポリと掻きながら、“神”の様子を伺うように見た。
ふむ、と一息入れて腕を組み、考える素振りを見せる。

「そうだな。知っておいてもいいだろう。彼女はその後、お主の死を受け止め、前々から目指していた医者の道を歩んでいった」
「……そうか…」

彼女も…人を救う仕事に就いたのか。
そう思い、俺は目を伏せて小さく微笑む。

「…そうだ。ちゃんとした説明だったな」
「…?」

ゴホン、と一回咳をして、その場の雰囲気を切り替える。

「お主の言う通り、今話した話は生前のお主…城山(きやま)(わたる)が死ぬまでの事実だ。
 そして彼の妹、城山真希。彼女が今お主の夢の世界に存在する理由。それはお主の心の奥に仕舞い込んだ生前の記憶と感情が、そこから僅かに漏れ出したのが原因だろう」

「生前の記憶と感情…」
「おそらく死ぬ直前のお主の気持ち、妹に対する感情が強かったのだろう。本来固く閉ざされたそれらから漏れ出したのだ」
「それが俺の夢に反映された、ということか…」

その通りだ、と言わんばかりに、“神”は顔を頷かせる。

「そしてそれは、神々の中でも予期せぬ事だった。よって議論の結果、お主に渡すものが三つできた」
「何…?」

俺が疑問の声を上げると、“神”は人差し指を俺に向ける。その指先はまっすぐに、俺の胸へと伸びていた。

「まず一つは……お主の奥に眠る記憶だ。それをお主の中から呼び起こす」
「っ!?」

その一言は、俺に驚きと疑問の感情を植え付けた。

「な、なんでそんな事を…」
「閉ざしていたものが漏れ出している以上、いつかは完全に解き放たれるときが来る。勿論それは、正規の解放ではない。その為、お主の体にどんな影響があるかわからんのだ。最悪、お主に死を招く」

“神”の冷静で淡々とした言葉に、俺は眉を寄せる。

「ならば、ここで正規の方法で鍵を開け、お主にいつか訪れる死を回避する。だが、記憶や感情が蘇るという事は、お主には辛い事実を与える事になるやもしれん」
「………」
「そして正規の方法とはいえ、それを呼び起こすのだ。死に至る事はないにしろ、何らかの影響がある筈だ」

そこで一旦言葉を切り、“神”の表情が険しいものに変わる。

「それでもいいのなら―――」



「いいさ」



だがその言葉の途中に被せられた俺の言葉に、“神”は目を見開く。

「そ、即答とは……だがいいのか?記憶の解放によって、お主の精神が押しつぶされる可能性だって」
「御託はいいんだよ。そういうマイナスな考えは、しない方がいい。それによ……さすがに気になるんだよ。妹の事を知っちまった所為で、俺の生前の事まで」

だからさ、と言葉を続ける。

「知りたいんだよ、俺の事。自分の事なのに知らないって言うのは、なんか後味悪ぃし……それに、自分の事なんだから、全部知りてぇんだよ。そのとき感じた感情や、思いも全部」

俺の言葉に驚く程目を見開いていた“神”。だが次第に口がつり上がっていき、声も小さく漏れ始める。

「―――……フフフ、フハハハハハハハ!!」

漏れていた声は次第に大きくなり、最後には大笑いに変わった。

「そうか、全部か……フフフ、やはりお主は面白い男だ。全部欲しがるなど…」
「いいんだよ、これで。俺は欲張りなんだ。欲しいと思ったもんは全部欲しがるし、救いたいと思ったもんは全部救うつもりで戦う」

―――それが俺だからな。

そう言うと、笑いが止まった“神”の口が開かれる。

「よかろう。ならば覚悟しろ。今からお主に眠る物を呼び起こす」

そう言って俺の前まで近づき、心臓の当たりに手の平を乗せる。
……そう言えば、

「俺が記憶戻ったら、大変じゃないのか?この世界の事もあるんじゃ…」
「いや、生前のお主もこの世界の事は知らんよ。それに、知っていたとしても世界の流れが違うのだから、知っている知識とはまた違った時間が流れるだろうしの」

ならいっか、と納得して覚悟を決める。

「……やってくれ」
「では…行くぞ」

そして“神”の手は光に包まれ、その光は俺の体に流れ込んでいく。
それと同時に、俺の体から熱いものを感じ始め、頭の奥から映像がいくつもフラッシュバックしていく。



―――よう航!昼休みサッカーやろうぜ、サッカー!またお前のシュートで勝ちを呼び込んでくれよ!


―――あ、おはよう航君。これ昨日君がサボった委員会の資料。…余計な事を、ってあなたねぇ。自分の仕事ぐらいちゃんとやりなさいよ…


―――わ、航!悪いんだけど物理のプリント貸してくんねぇ?提出するやつまだやってねぇんだよ!…そこをなんとか!頼む!


―――航、皆で飲み行こうぜ!…大丈夫だよ、お前が酒飲めねぇの知ってるよ。だから今日飲めるようにするんだよ!…っておい、先に行こうとするなよ!


―――おはよう航。朝ご飯はもう少し待ってね、今作ってるから。


―――ほれ新聞だ。…ん?なんだ?…俺はこんなの読まないって?バカ言え。今の内に教養をつけておくんだよ。将来役に立つぞ~。



小学校や中学校、高校、大学の友人。母さんに親父。色々な人達と出会い、色々な物に触れて、色んな事を感じて……紡いでいく。



―――あ~!お兄ちゃんずる~い!私より先におやつ食べるなんて!…どうでもいいって?私にとっては重要なの~!


―――お兄ちゃん強すぎだよ~。もう少し手加減して、妹に勝たせようって事は考えないの?…全然?ひど~い!


―――あ、お兄ちゃん久しぶり!いつぶりだろ?…半年?もうそんなになるんだ~。あ~、私も一人暮らししてみたいな~。



―――お兄ちゃん!



「―――っ!くはっ……はぁ、はぁ、はぁ…」

そこでフラッシュバックが収まり、俺は止めてしまっていたのか、急いで息をする。

「…大丈夫か?」
「はぁ…はぁ……あぁ…だい、じょうぶだ……」

少し強気にそう言ってみたが、さすがに辛いので地面に座り込んでしまう。後ろに手をつけ、未だ灰色の空を見上げる。

「―――……ハハ、ハッハッハッハ…!」

そして俺は不本意にも笑い出す。自分の記憶が戻った事で、色々な事がわかった。

「…大丈夫そうに見えないのだが」
「頭が可笑しくなって笑ったんじゃねぇぞ」

そう言って俺は、背中を地面につけて、大の字になって完全に地面に根っころがる。

「アンタの話を聞いてて、昔の俺は暗い人間なんだろうなと思っていたが…案外そうでもなかった事がわかってよ」

学校に通って、友人関係を作って。確かに深くまでは踏み込ませていなかったかもしれないが、それでも気のいい奴らばかりだった。

「そしてなにより……俺がシスコンだった、ってのが一番笑えるわ…」

何てったって記憶と感情の四分の一が妹・真希についての事だったのだから、これではシスコンと呼ばれても仕方ないようなものだ。

「……でも、これが…これが『俺』だったんだな…」

そう考えると、笑いが止まらない。今の『俺』とは違う感情。違う表情。環境が違うのだから、当たり前かもしれないが、これが…生前の『俺』だったんだ。

「……お主、渡すものは三つある、と言った筈だが」
「あ、そうだったな」

俺はそれを聞いて、飛び起きる。“神”はそれを見届けてから、口を開く。

「二つ目だが、これはトリスに施したリミッターを外す事だ」
「?リミッターって…コンプリートだけじゃねぇの?」
「あれはディケイド本来の力だ。そこに新たに能力を加えるのだ」
「例えば?」

俺の質問に、そうさな、と呟き考え始める。

「………」
「………」

しかし、その答えは中々返って来ない。

「………」
「…………」
「……ま、自分で確認してくれ」
「おい」

ここまで間を置いてそれかよ。本当は知らねぇんじゃねぇの?

「何をいう!知っておるぞ!だが……そう!自分で確認した方がいいだろう?」
「…いや、どっちでもいいんだが」
「いいから受け取っておけ!」
「といってもトリスがいねぇんだけど…」

と言った瞬間、俺の右手から光が漏れる。何かと思い持ち上げてみると、光が収まりそこにはトリスがあった。

「ふふん、どうじゃ。“神”はこんな事もできるんだぞ?」
「……いや、心読んでる時点でそれ言わなきゃいけなくね?」
「そんな事はどうでもいい!」

いや、そんなこと言われてもねぇ…?
そして“神”は仕切り直しとばかりに、わざとらしい咳を一回してから、懐からあるものを取り出す。

「最後は、これじゃ」
「…ん?それは…」

“神”の手に握られているのは、真っ黒の一枚のカード。ディケイドのブランクのカードにあるバーコードもないし、ふちもない。ただ真っ黒に塗りつぶされた、一枚のカード。

「これは『お主のカード』だ。お主の望んだディケイドの力ではなく、『お主自身の』力だ」
「……?」

説明されても疑問の消えない俺に、“神”はそのカードをピッと投げる。
俺はそれをうまく受け取り、裏表を見る。だがやはり何も描かれていない。

「その力は今は使えぬが、お主の力になる筈だ。大切に持っておけ」
「は、はぁ…」
「その力は、今お主が直面している強大な力に立ち向かう為の力だ。だがその力がどんなふうな物になるかは、儂ら(・・)にもわからない」

今俺が直面している強大な力……それはおそらく、大ショッカーの事を指しているのだろう。それに対抗する為の力、か……

「いいのか、こんな事までして。これじゃ世界のバランスが崩れたりするんじゃないのか?」
「そもそもこの世界に奴らがいる事自体、可笑しいのだ。それはわかっておろう?」
「ま、まぁ…たしかに…」
「そしてその原因の引き金は、お主だ」

その言葉に俺は図星を突かれる。
確かにそうだ。奴らはこの世界では異質の存在の筈。それが存在するという事は、その原因もある筈。

「それが俺、か…」
「まぁそうだな。確かにお主がこの世界に来たせいで、奴らが存在する」
「だから俺がケジメをつける。まぁ、理にはかなってるわなぁ…」

よ、と声を漏らして立ち上がり、上半身を持ち上げる。

「儂らも予測していない事態だ。儂らでなんとかしたいところだが、儂らが各世界に手を出すのは厳禁なのだ」
「そらそうだ」
「だから心苦しくもお主に頼むしかないのだ」
「わぁってるよ」

そして今度はしっかりと立ち上がり、太ももと尻をパンパンと叩く。

「後は任せろ。しっかり蹴りつけてやるよ」
「…ふ、やはりお主は面白い男だ」

そう言うと“神”は笑いながら踵を返した。

「ならばやり遂げてみろ。お主の覚悟、見させてもらおう」
「おうよ」
「あぁ、そうだ。言い忘れていた事があった」
「ん…?」
「今渡した力は、どんな力になるかはわからない。だから、この世界でも手に負えない力になる可能性があるやもしれん」

無論、その力で誰かを救う事もできよう、と続けて言う“神”。

「大いなる力には、大いなる責任が伴われる、てか?」
「ふむ、そうだな。それなら、そういう事にしておこう」

俺の言葉にヒゲをまた摩りながら、“神”は微笑む。

「では、健闘を祈ってる」
「あぁ……ありがとな」
「ふっ…」

そして“神”は俺に背を向けたまま、霧散していった。
それと同時に、止まっていた時間が動き出す。色をなくしていた世界はそれを取り戻し、鳥や洗濯物、風や光が再び動き出す。

「……ザ・○ールドみたいだな…」

ふと思った事を漏らし、俺も小さく微笑む。

〈気持ち悪いですよ、マスター〉
「そういうなよ、トリス。それよか、久しぶりだな」
〈ご迷惑をおかけしました〉
「迷惑なんてかかってねぇよ?」

右手首のトリスが中心の宝石を点滅させ話しかけてくる。
よく見ると、今まで白だけだった宝石以外の部分に所々マゼンダの筋があって、宝石の周りにはベルトの時にあるライダーレクストがあった。しかもクウガからウィザードまで。

「どうしたの、お兄ちゃん?」
「ん?あぁ…いや…」

そのとき後ろから声をかけてきたのは、真希だった。

「それより早く戻ってきたら?」
「……いや、これから行くところができた」
「?なのはさん達のところ?」

いや、と答え、俺は振り返って真希と向き合う。

「もっと…ここからだと遠い所だ」
「え…?」

そう言いながら俺は真希に歩み寄る。

「だからもうお前とも…会えなくなる」
「………」

そしてその小さな体を抱きしめる。急にそんな事をされた事に驚いてか、驚いて顔を赤くする。

「お、お兄ちゃん…!?」
「…ありがとう」
「え…?」
「今ここでお前と会えて、ほんとに嬉しかった」

俺はその感触を忘れないように、抱きしめる力をさらに強める。

「だからありがとう。……そして、さよならだ」
「お兄、ちゃん…」

十分に俺の体に刻み込んでから放し、笑顔を向ける。真希は今にも泣きそうな目をしている。
それでも俺は真希の頭をポンと叩き、我が家から去った。


















「思い出した…全部思い出した!何があったか…なんでこんな事になってもうたか!」
「どうか…どうか再びお休みを、我が主…!あと数分としないうちに、暴走によって私はあなたを殺してしまいます……せめて心だけでも、幸せな夢の中で…!」

時は繋がり現在。フェイトが闇の書から脱出し、なのはと二人で管制人格と対峙していたその時、闇の書内部ではやてが完全に目覚め、すべての真実を知る。
だが眠りから覚めたはやての手を握り、再び眠るように説得する管制人格。

「…望むように生きられへん悲しさ、私にもわかる。シグナム達も私らも皆、よう似てる。寂しい思い、悲しい思いしてきて、一人だとできひんことばっかりで」
「………」

「―――でも、忘れたらあかん」

はやてはそう言って、管制人格の両肩に手を置く。

「あなたの(マスター)は今は私で…あなたは、私の大事な子や」
「……ですが、自動防御プログラムはもう、止められません!管理局の魔導師が戦っていますが…それも…」

それを聞いたはやてはゆっくりと目を閉じ、意識を集中させる。二人の足下には、真っ白な魔法陣が現れる。

「止まって…!」








なのはとフェイトが管制人格の動きに警戒する中、突如管制人格の様子が変わった事に気づく。

『外の方!えっと、管理局の方!こちら、え〜っと…そこにいる子の保護者、八神はやてです!』
「っ!?はやてちゃん!?」
『なのはちゃん!?ほんまに!?』
「はやて、無事なの!?」
『その声はフェイトちゃん!?なんで二人が…』

そして突如聞こえてきた女の子の声は、闇の書の内部で眠っていたはやての声だった。

「今色々あって、闇の書さんと戦ってるとこ!」
『ごめん、なのはちゃん、フェイトちゃん。なんとかその子、止めてあげてくれる!?』
「どういうこと?」
『なんとか魔道書本体からはコントロールを切り離したんやけど、その子が走ってると、管理者権限が使えへん。今そっちに出てるのが、自動行動の防御プログラムだけやから!』

いきなりのはやてからの説明に、面食らう二人。思わず顔を見合わせてしまう。

『なのは、フェイト!』
「っ、ユーノ君!」
『フェイト、聞こえる!?』
「アルフ!」

さらに二人の前にモニターが出現し、そこにユーノとアルフが映る。

『わかりやすく伝えるよ。今から言う事を二人ができれば、はやてちゃんも士も外に出られる!』
「ほんと!?」
「それで、方法は!?」
『どんな方法でもいい!二人の純粋魔力砲でぶっ飛ばして!全力全開、手加減無しで!』

本当に簡潔に述べられた方法。それを聞いた二人は、小さく微笑み顔をまた見合わせる。

「さすがユーノ…!」
「わかりやすい!」
〈〈 It`s so.(まったくです)〉〉

そう言ってそれぞれの相棒を構え、魔法陣を展開する。








「ここならいいな…トリス」
〈 All right. 〉

海鳴の海に隣接する公園まで来た俺は、トリスを起動させベルトに変える。

「お兄ちゃん!」
「っ…真希…」

どうやら追っかけて来てしまったらしい。肩で大きく息をしながら、不安そうな顔で俺を見つめてくる真希。

「どうして…どうして行っちゃうの!?私も…私も連れて行ってよ!」
「……それは、ダメなんだ真希…」

そう背中を向けたまま言い、ライドブッカーからカードを取り出す。

「お前は、元の世界じゃ生きられない。ここだけでしか、生きられない」
「だったら…だったらお兄ちゃんが残れば…」
「それも無理なんだ」

今度は顔だけを向けて、口を開く。

「俺は向こうで、やらなきゃならない事がある。それは俺にとって、大事な事なんだ」
「………」
「だから、お前とはいられない」

そして顔を戻し、カードを構える。

「変身!」
〈 KAMEN RIDE・DECADE 〉

いくつもの影が現れ、俺と重なり一つになる。変身した俺の姿を見て、真希は後ろで驚きの声を漏らす。

「だから…さよならだ、真希。ごめんな、最後まで悲しい思いさせちまって」
「……ううん。お兄ちゃんがそこまで言うんだったら、よっぽど大切なものなんでしょ?だったら、妹としてやる事は一つだよ」

そこで一拍置いて、真希は大きな声で言い放った。


「いってらっしゃい、お兄ちゃん!!」


「……あぁ、行ってくる」

たとえ帰って来ないとしても、この言葉の返事はこれ以外にない。

〈…マスター〉
「あぁ、わかってるよ」
〈 Sword mode 〉

トリスに急かされるように俺はライドブッカーを手に取り剣へ変え、逆手に持って振り上げる。

「我が剣よ、破壊者の名の下に、我が道を邪魔する者を打ち砕け…!」

魔力を剣へと集め、振り下ろす。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

地面に深々と刺さった剣は光を放ち、世界を破壊していく。
全てが壊れたと同時に、世界は閃光に包まれた。








「名前を上げる。もう“闇の書”とか、“呪われた魔道書”なんて、もう呼ばせへん。私が言わせへん」
「っ……」

管制人格の両頬に手を重ね、優しく声をかけるはやて。

「ずっと考えてた名前や。強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール…」

―――リインフォース

その言葉を呟くと同時に、世界は光に包まれ、砕け散った。








海から現れた触手はやって来たユーノとアルフがバインドで止めている。
そんな中、なのはとフェイトは魔力を高めていき、準備を整える。

「N&F、中距離殲滅コンビネーション!」
「“ブラストカラミティ”…!」

二人の周りに桃色と黄色のスフィアが複数展開され、なのはは砲撃を準備し、フェイトはザンバーを振り上げる。

「「ファイアァァァァァァーーー!!」」

二人のデバイスから砲撃が、周囲のスフィアからも魔力が放たれ、管制人格を呑み込んでいき、大きな音を立てて爆ぜた。








そこは先程とは打って変わって、真っ白な世界。
そこに一人の少女、はやてが浮かんでいた。

「新名称“リーンフォース”を認識。管理者権限の使用ができます」
「うん…」
「ですが、防御プログラムの暴走は止まりません。管理から解放された膨大な力が、時期に暴れ出します」
「ん〜…まぁなんとかしよ」

それを言うと、目の前に現れた書を抱きしめる。

「行こか、リインフォース」
「はい、我が主!」







管制人格が消えた海鳴海上。だがそこには不穏な空気が漂い、何かが振動するかのような音と黒い塊、そしてそれらとは別の白い塊があった。

『皆気をつけて!闇の書の反応、まだ消えてないよ!』

管制を任せられているエイミィの声が艦内にも響き、注意を促される。

「いよいよね…クロノ!そっちの準備は?」
『はい、もうすぐ現場に付きます!』

ブリッジの映像にクロノが映し出される。彼は今、全速力でなのは達の元へ向かっているのだ。
それを確認したリンディは、ふと手にある鍵を見つめる。

「……アルカンシェル、使わなければいいけど…」

  
 

 
後書き
 
最後がちょっとあれだけど、今回はここまで。
そんでまぁ、佳境に入っていきます。
  
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