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久遠の神話

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第五十四話 富の為にその十

「それもかなりな」
「みたいだね。料理は時間をかけるもの」
「腕のいい料理人がな」
「そして戦いは」
 この話に戻った。
「腕のいい剣士がすぐに終わらせるものだよ」
「戦いに時間はかけないか」
「こんなのに時間をかける趣味はないよ」
 王は己の口の左端を歪めさせてシニカルに言った。
「料理じゃないからね」
「俺もだ、戦いはするがだ」
「時間はかけないね」
「こんなものは早く終わらせるに限る」
 返答は素っ気無くさえあった。
「人が人を倒すものはな」
「刃物は食材を切るものだよ」
 王はこんなことも言う。
「人を斬るものじゃないからね」
「それは全く違うな」
「そう、違うからね」
「力もだな」
「力もね。僕は基本的に興味がないからね」
 このことについてもあっさりとしている王だった。
「欲しいものを手に入れたいだけだから」
「そう思っているか」
「お金が欲しいだけだからね」
 自身が欲しているもの、それも王は言った。
「ただそれだけだからね」
「金か」
「そう、富が欲しいんだよ」
「それは何故だ」
「お金があって困ることはないからね」 
 それでだというのだ。
「だから欲しいって思ってね」
「戦うか」
「うん、お金があれば何でもできる」 
 少し聞くと拝金主義だった、だが王はここでこうも言った。
「僕もしたいことも出来るからね」
「それは願いに入れなかったか」
「要はお金だからね」
 それで入れなかったというのだ。
「願わなかったよ」
「あんたの考えはわかった、ではだ」
「行こうか、地下室に」
「案内してくれ」
「こっちだよ」
 右手の親指で奥を指差して言った。
「こっちにあるよ」
「よし、それじゃあな」
 広瀬は王の案内についていった、そうしてだった。
 その地下室、コンクリートとの壁と床で造られやはりコンクリートの柱が並んでいる実に殺風景で暗い地下室の中に入った。
 そこに降りてまずはこう言う王だった。
「ここだよ」
「いい場所だな」
「戦うにはだね」
「ああ、いい場所だ」
 広瀬は自分の向かい側に来た王に述べた。
「殺風景でな」
「戦場っていうか墓場だね」
 王は今も砕けた調子で言う。仕草もそれに準じている。
「ここは」
「あんたの墓場だな」
「ははは、そう言うと思ったよ」
 もう読んでいたというのだ。
「ここでね」
「そう思っていたか」
「じゃあ私の言うことも読めるかな」
「死ぬのは俺か」
「そうだよ、生き残るのは私だよ」 
 こう笑って言うのだった。
「この戦い自体についてもね」
「最後の一人になるか」
「そしてそのはじめに」 
 まずはそこからだった。 
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