マッドライバル
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第一章
マッドライバル
池上英世と倉田一恵は自他共に認めるライバル関係にある。ただ二人はそのライバル関係にある分野が問題だった。
二人共天才とさえ呼ばれている位の科学者だ、それこそノーベル賞なぞ手が届くどころか欲しいと言えば向こうから差し上げてくれる位だ。
だが二人は普通の科学者ではない、ノーベル賞は人類の発展に貢献した場合に貰えるものだが二人にその発想は全くない。
二人はマッドサイエンティストなのだ、それで。
今日もだ、対峙しつつ腕を組みこう言い合っていた。
「今日こそは勝つぞ」
「あら、それはこちらの台詞よ」
二人共東京ドームの前で対峙していてそのうえで言い合うのだった。
「今日のわしの発明は凄いぞ」
「私のもよ」
「それこそ動けばこの場は焦土になるわ」
「こっちは百年はその場が使えなくなるわ」
「ほほう、ではそのことを確かめさせてもらうぞ」
「その目で見て驚くといいわ」
こう言い合いそしてだった。
池上は巨大なロボットを出して来た、見れば何処かの十七番目のロボットの様な姿をしている。倉田も倉田でその後ろに生物を思わせる弐号機そっくりの赤いものを出してきた。
それぞれを出してだ、そうしてだった。
池上はそのマシンに顔を向けてこう命令した。
「行け大鉄神セブンティーン、御前の力を見せてやるのじゃ!」
「江藤二番目、貴女を今解放するわ!」
倉田も負けていない、そしてだった。
お互いの開発したマシンを戦わせる、ビームとミサイル、拳と槍が交差し。
その場にあった東京ドームは完全に破壊された。幸い試合前でありしかも明らかに大騒動だったので誰も場に近寄っておらず避難していたので犠牲者はいなかった。本拠地をなくした某ならず者球団が一年中地獄のロードを過ごすことになりその疲れから最下位になってしまうという人類にとっての朗報が届くことになった位だ。
だが勝負は引き分けだった、それでだ。
池上はその細面で量がやけに多い白髪頭を掻き毟りつつ言うのだった、場所は自身の地下の秘密基地である。
その場でだ、自分と同じ白衣を着ている助手の青年坂上君にこう言ったのである。
「不愉快じゃ」
「倉田博士と引き分けたことがですか」
「そうじゃ、不愉快じゃ」
まさにそうだというのだ。
「全く以てな」
「今まで何勝何敗ですか?」
「五百戦やって五百引き分けじゃ」
つまり全く勝ってもいないし負けてもいないというのだ。
「常にじゃ」
「それも凄いですね」
「何故か勝てぬ」
しかも負けてもいないというのだ、一度も。
「どうもな」
「実力伯仲ですか?」
「思えば学生時代からだったわ」
ここで過去を懐かしみ言う池上だった、目に郷愁が宿っているのが坂上君にもわかった。
「尋常学校の頃からか」
「尋常学校って何年前ですか」
「うむ、昭和の初年入学じゃった」
その頃の話だというのだ。
「その頃からじゃったな」
「あれっ、けれど倉田博士って」
坂上君はここで倉田の容姿を思い出した、倉田は濃い眉が印象的で睫毛が長く丸い目を持っている細面の顔立ちだ。綺麗な長い黒髪を後ろで束ねていて長身で胸が大きく均整の取れたスタイルだ、どう見ても三十程だ。
それでだ、尋常小学校と聞いてこう言ったのである。
「昭和一年って一九二五年ですよね」
「そうじゃよ」
「それじゃあ博士って一九一九年生まれですか」
「第一次世界大戦終了の翌年じゃ」
池上本人からの言葉だ。
「その歳に同じ浅草で生まれたのじゃよ」
「倉田博士どう見ても三十歳位ですが」
「ああ、容姿はな」
「何かあるんですか?」
「若返りの薬を使って美容にも気を使っておるからじゃ」
それで容姿は若いままだというのだ。
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