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お白粉婆

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第一章

              お白粉婆
 東北にはある話が伝わっている、その話はというと。
「お白粉ですか」
「ああ、これは知ってるよな」
「ええ、まあ」
 若田部悟は上司である王島球児に応えていた、今二人は大阪の本社から秋田の支社まで電車で向かっていた、仙台までは新幹線である。
 その新幹線の中でだ、若田部は王島と隣同士にいるのだ。黒髪を少し伸ばしてスーツはダークブルーである、対する王島はやや額が後退しておりグレーのスーツを着ている。二人共痩せており背は一七五を超えている。
「付けたことはないですけれど」
「普通男は付けないだろ」
 お白粉は化粧に使うものだ、それで普通のサラリーマンの男は使うことはない。
 それでだ、王島も話すのだ。
「女の人が使うだろ」
「ですよね」
「昔はあれだ」
 王島は若田部に話していく。
「女の人の化粧には欠かせなかった」
「今で言うファンデーションですね」
「それだよ、今になるとな」
「ですよね」
「肌を白く見せる為に使ってたんだよ」
「やっぱり肌は白くですよね」
 若田部は日本の伝統的な化粧のことから話した。
「それは欠かせないですね」
「ああ、ただな」
「ただ?」
「白く化粧する人ってな、昔はな」
「花魁ですか」
 若田部は時代劇の知識から察した、肌を白く化粧するといえばこれだ。
「ああいうのですか」
「東北だとな」
「身売りとかありましたよね」
「娘をな」
 このことをだ、王島は若田部に話した。
「そんな話が多かったんだよ」
「らしいですね」
「俺達は関西人だからそういう話はあまり知らないけれどな」
 あるにはある、昔は貧しかったので身売りの話もあったのだ。だから夜に笛を吹くなと言われたのだ、これは人買いが合図で吹く笛だからだ。
 それでだ、今もなのだ。
「東北にはこんな話が多いんだよ」
「そうなんですね」
「ああ、だからお白粉はな」
「東北ではですか」
「色々な逸話があるみたいだな」
 こう話すのだった、若田部に対して。
「学生の頃民俗学の先生に講義で聞いたよ」
「ううん、東北っていうと林檎とかお米とかですけれど」
「そういう話もあるからな」
「ですね、それで秋田にも」
「あるよ」
 そこにもだというのだ。
「色々とな」
「そうですか」
「ああ、そうだよ」
 また言う王島だった。
「東北の逸話はあるからな」
「妖怪とか出そうですね」
「かもな、ナマハゲの話もある場所だからな」
「ですね」
 二人で話すのだった、そしてだった。
 二人で秋田県に着いた、そこに着くとすぐに仕事場である支社に行った、そこで仕事をしてそれからだった。
 支社の面々と楽しく飲んだ、その秋田の酒場でだった。
 若田部は秋田の日本酒を飲んでだ、そしてこう言った。
「いや、いいですね」
「秋田の酒は美味いな」
「はい、かなり」
 こう王島にも返す。
「いい感じです」
「そうだよな、魚も美味いしな」
「ですね、この鍋も」
 鱈の鍋を肴にして飲んでいるのだ、鍋の中には豆腐や葱、白菜もある。そうしたものも食べながら言うのだ。 
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