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いないけれどいる

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第三章

「どう考えても」
「ここは寒いしね」
「うん、寒いよ」
 スコットランドは緯度的にも北の方にある、しかもネス湖は山の中にある湖だ。それで寒くない筈がないのだ。
 ネス湖の水もだ、これも。
「冷たいだろ?」
「そうね、この湖の水もね」
「恐竜が変温動物か恒温動物かは」
 実はこのことには諸説がある、爬虫類だから恒温動物ではないかというとその辺りはまだ完全にはわかっていないのだ。それでヘンリーもこのことには断言せずこう言ったのである。
「わからないけれどね」
「それでもよね」
「絶対に恐竜はいないよ」
 ネッシーは、というのだ。
「どう考えてもね」
「じゃあネッシーの目撃例は何なの?」
 山程あるそれはと、キャサリンはそのことを問うた。
「写真も一杯あるけれど」
「だから見間違いとかね」
「嘘とか?」
「合成写真だってあるしね」
 心霊写真でも多い、イギリスは幽霊の国でありこの手の写真も多いがかなりの割合でただのピンボケだのそういうものだ。
「だからね」
「いないっていうのね」
「本当にどう考えてもね」
 ネッシーはいない、何度でもこう言うヘンリーだった。
「まあここにいるのは魚位だよ」
「鮭はいるそうね」
「うん、魚はいるよ」
 ヘンリーはこのことは確かめている、ネス湖は決して沈黙の湖ではない。
 しかしだ、海から遠くしかもその気候故にだ、とてもだというのだ。
「ネッシーはいないよ、そう言う君はね」
「私は?」
「そう、どう思っているのかな」
 こうキャサリン、人生のパートナーにもなろうとしている彼女に問うたのだ。
「一体」
「そうね、私も同じ生物学者だけれどね」
 その同業者としての言葉は。
「それでもね」
「うん、どうかな」
「あまりね」
 どうかとだ、ここでこう言ったキャサリンだった。
「そう否定するのはね」
「じゃあネッシーはいるんだ」
「諸説あるじゃない」
 キャサリンはヘンリーに言う。
「ネッシーについては」
「恐竜説だけじゃないっていうのかな」
「そう、だからね」
「ううん、どうなのかな」
 ヘンリーはキャサリンの言葉を聞いて歩きながら腕を組んだ、そのうえで知識人らしく理知的に話すのだった。
「その辺りは」
「恐竜じゃなくてもね」
 それでもだというのだ。
「色々といるでしょ、海には」
「それはそうだけれどね」
「じゃあネッシーを否定してもね」
「いや、だからね」
 ヘンリーの言葉はいささか弱くなっていた、これまでの学者が研究の成果を語る断言ではなくなっていた。 
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