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アップル

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第二章

「時間をかけても大丈夫なとかここぞという時はね」
「ここぞは、という時とは」
「わかるでしょ、女のそうした時は」
「ああ、そういうことですか」
 優樹も察した、そうした時はどうした時かというと。
「そういうですか、アメリカでも」
「そうよ、うちの娘も一緒よ」
「キャロルちゃんも」
「あの娘もハイスクールよ」
 高校生だからだというのだ。
「もうそろそろね」
「そうした相手が出来てですね」
「そう、そうした時になるから」
 だからだというのだ。
「もうね、自分でね」
「そうですか、いよいよですか」
「ええ、今にでも来るかしらね」 
 そうした時がだと、デボラさんはにこりと笑って優樹に話す。
「楽しみにしてるわ、ただその相手がおかしな奴だったら」
「その時はどうなるんですか?」
 そうした時でもその時は、というのだ。
「一体」
「私と旦那でその相手をノックアウトよ」 
 でっぷりと太ったデブラさんと身長二メートルのご主人の二人でだというのだ。
「それこそヘビー級チャンピオンでも負けないわよ」
「フットボーラーでもですか」
「ええ、その時は容赦しないから」
 一切、というのだ。
「そうしてやるわ」
「娘さんの為ならですか」
「そうよ、まあとにかくね」
「キャロルちゃんもですね」
「そろそろだと思うわ」
 デボラさんは考える、未来を見ている目で優樹に話す。自分が作ったアップルパイとアップルティーを食べながら。
 二人がそのセットを食べ終えるとだ、家に明るい只今の挨拶が入って来た。そして黒い縮れた髪を長く逃した褐色の肌の少女が来た。
 黄色いシャツに青いジーンズという恰好だ、目は黒く大きいはっきりとしたものだ。厚めの小さな唇がアフリカ系独特の雰囲気を醸し出している。背は高くすらりとしたスタイルである。この娘がキャロル、デボラさんの娘だ。
 そのキャロルがだ、二人を見てこう言って来たのだった。
「あれっ、ひょっとしていつもの」
「そうよ、アップルパイとアップルティーよ」
 デボラさんも娘にすぐに答える。
「その二つ作ってね」
「それで食べたのね」
「ええ、あんたの分も置いてあるわよ」
「そうなのね、アップルパイとアップルティーね」
 その話を受けてだ、キャロルは考える顔になってだ。
 自分の席に座って出されたそのアップルパイとアップルティーを見てそのうえでデボラさんにこう言ったのだった。
「この二つね」
「どうした?何かいつもと違うわね」
「うん、今度ね」
 少し躊躇した感じでだ、キャロルは言う。
「私も作ってみようかなってね」
「言ったらすぐだったわね」
「そうですね」
 キャロルの今の言葉にだ、デボラさんはにこりと笑って言い優樹はまさか、という顔で応えた。
「これはいいわ」
「いや、まさか」
 二人は二人の会話をした、しかしそれはすぐに終わってだった。
 デボラさんはあらためてだ、娘にこう言うのだった。
「じゃあ今度なのね」
「うん、自分で作ろうってね」
 そのアップルパイとアップルティーをだというのだ。
「そう思ってるけれど」
「幾つずつ作るのかしら」
「二つよ、それで作ったものを持っていくから」
 このこともだ、キャロルは話した。 
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