吸血花
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第四章
第四章
「成程、確かに変わった花ですね。ところでもう一つお聞きしたいのですが」
「はい、何でしょう」
「先程話が出た候補生学校で草花を決める方は一体どなたでしょうか?」
「それですか?それでしたら勝手事務官ですね。経理課におられますよ」
「経理課ですか。何処にありますか?」
「あの建物ですが」
ここへ来る時に本郷が学校の校舎みたいだと思った建物を指差した。
「少し解かり難い位置にありますからね。案内させて頂きます」
「あ、有り難うございます」
かくして本郷は伊藤二尉に案内され経理課へ入った。
「花?最近購入していないですけれどねえ」
少し細長い顔の色の白い若い男性が電話で話をしている。
「あちらです」
伊藤二尉が手で指し示したのはその色の白い男性だった。見れば薄い黄色の作業服を着ている。
「まあこっちで調べておきます。またお電話差し上げるので暫くお待ち下さい」
若い事務官はそう言って電話を切った。
「勝手事務官」
伊藤二尉が彼に声を掛けた。伊藤二尉の声を聞き彼はこちらに顔を向けた。
「あ、アルファじゃないですか。どうしたんですか?」
「アルファ?」
聞きなれない言葉に本郷が反応した。
「自衛隊用語です。アルファベットをそれぞれ独特の言い方で読むんです。Aだと
『アルファ』、Bだと『ブラボー』というふうに。同じ役職が複数あるとABCで表すんです。例えば幹事付は私がAになります」
「へえ、そうだったんですか、成程」
伊藤二尉の説明に本郷は納得し首を縦に振った。
「お疲れ様です。私に何か御用ですか?」
伊藤二尉が説明をしている間に勝手事務官がこちらに来ていた。
「うん、こちらの方が君に聞きたい事があるというので」
「本郷です。探偵をやっております」
「こんにちは。勝手といいます。探偵というとやっぱり・・・・・・」
「うん、その通りだ」
伊藤二尉は暗い表情で本郷の代わりに答えた。
「そうですか。それではよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ」
伊藤二尉は自分の受け持ちの講義の時間がきたので帰っていった。本郷と勝手事務官は応接間に入った。
「ご用件は何でしょう?」
「はい。実は先程面白い花を見つけまして」
その言葉に勝手事務官の眉がピクリ、と動いた。
「また花ですか」
「また?」
その言葉に本郷も反応した。
「ええ。さっきも一術校の方から電話があったんですよ。最近赤いダリアに似た花を見かけるが何時何処で購入したのかと」
「赤いダリアに似た花ですか」
本郷は表情を変えずに言った。
「それならさっき私も見ましたよ。赤煉瓦の前で」
「えっ、本当ですか?」
勝手事務官が驚いて声を出した。
「はい。宜しければ見に行きますか?」
「はい、是非とも」
二人は応接間を出て赤煉瓦の前に行った。そしてその赤い花のところへ来た。
「この花です」
花を見る。そして勝手事務官が首をかしげた。
「やっぱりこんな花注文した覚えは無いですねえ」
「やはり」
「はい。それにうちは景観を大事にしますから。赤煉瓦の前に一つだけ置くなんて事はしないんですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。花を植えるとしたら一つの場所に集めて植えます。一つだけ植えるなんて事はしません」
「そうですか。だとすれば雑草ですかね」
「多分そうでしょう。おそらく明日の朝には候補生の人達が清掃で抜いてくれますよ」
「だったら問題ありませんね」
「ええ。後は幹事付の方でやってくれます」
勝手事務官は安心した顔で言った。彼は早速伊藤二尉に電話をし伊藤二尉の方もそれを了承した。こうして赤い花の話は終わった。かに思われた。
「あれ、赤い花なんて無いよなあ」
翌日の朝清掃に来た候補生の一人が言った。
「ああ。ダリアに似た花だろ?そんなの無えぞ」
別の候補生も言った。
「けど報告はどうするよ。無いなんて言ったら話がこんがらがるぜ」
「適当に言っておこうぜ。抜きましたって」
「そうするか。無いものは仕様が無いしな」
こうして例の赤い花は抜かれ捨てられた事になった。こうして赤い花の話は一先終わり本郷はその日は自衛官達への聞き込みに当たっていた。
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