戦国異伝
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第百四十一話 姉川の合戦その六
一旦素早く退いた、式部が五郎次郎に言う。
「若し少しでも受ければじゃ」
「そうじゃな、終わりじゃな」
「あれはまさに化物じゃ」
そういった存在が使うまでのものだというのだ。
「下手に攻めてはやられるだけじゃな」
「まさにな、ではどうする」
弟は兄に問うた。
「ここは」
「ふむ、そうじゃな」
兄は弟の言葉を聞いてそのうえで考えるコアになった、そしてだった。
弟に対して目配せをした、弟もその目配せに応えた。
それでだった、一気に。
彼等はまずは狙う、式部が前に出る。
すると真柄がその刃を式部に向けた、その瞬間だった。
式部はその刃をかわしてみせた、そこに隙が出来た。
五郎次郎はそこに縄を放り投げた、丁度真柄の首にかかった。
「むっ!?」
「よし、今じゃ」
五郎次郎はその瞬間に縄を思い切り前に引いた、真柄から見て後ろだ。
丁度式部に向かって刀を振っていた真柄の重点は揺れていた、そこで引っ張られては彼の怪力でも適わなかった。
それで後ろにもんどりうって倒れた、そこにだった。
式部が素早く駆け寄り二人で真柄を縛った、そのうえで家康に向かって叫んだ。
「殿、やしましたぞ!」
「真柄直隆生け捕りにしました!」
「うむ、よくやった」
家康も二人を見ていた、そのうえで笑顔で言った。
「これで憂いはない」
「はい、それではです」
本多がその家康にすぐに言う。
「あらためて全軍で」
「そうじゃな、この機会を逃さずにな」
家康も本多の言葉に頷く、そうしてだった。
徳川家の軍勢はいよいよ波に乗った、倍はいる朝倉の軍勢を大いに押していた。こちらの勝敗は明らかだった。
そして織田家はというと、彼等は。
今も陣を破られていた、一段一段と破られていっている。
その有様を見ても信長は動かない、本陣に座っているだけだ。その信長に左右を守る毛利と服部が言って来た。
「殿、それではですな」
「このままですな」
「そうじゃ、動くでない」
こう言ったのである。
「慌ててはならぬ」
「浅井殿の勢いは衰えませぬが」
「それでもですな」
「猿夜叉を止めることは容易ではない」
それは到底だというのだ。
「突き進む馬は人で止めるものではない」
「では策通りですか」
「そうしてですか」
「そうじゃ、そうしてじゃ」
「馬は、ですな」
「その馬にしても」
「坂道では足が鈍る」
そうなるというのだ。
「そして疲れもある」
「だからこそここに布陣されて」
「十二段にされましたか」
「そういうことじゃ。それにじゃ」
さらにというのだ。
「疲れた浅井の前にな」
「全てはそう進んでいますな」
「流れもよく」
「浅井の兵は少ない」
信長はあえてこのことをここでも言った。
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