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戦国異伝

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第百四十一話 姉川の合戦その四

「そうなればな」
「はい、では」
「勝ちましょうぞ」
 家臣達も応える、そして。
 浅井家の軍勢はただひたすら織田家の十二段の陣を一つ一つ突き破っていく、彼等は全員が死兵となって紺色の火球となっていた。
 織田家は押されている様に見えていた、その別の場所では。 
 徳川家の軍勢は浅井家と戦っていた、家康もまた自ら抜いた刀を手にそれを軍配の代わりとして指揮を執っていた。
 朝倉の兵は弱い、だが数は多かった。それでだった。 
 家康は声を枯らさんばかりに命令を出していた、そして言うことは。
「まずは我等は勝ちじゃ」
「はい、そしてですな」
「すぐに信長殿をお助けするぞ」
 そうするというのだ。
「よいな」
「では朝倉の軍勢はこのまま」
「押し返しますか」
「そうせよ、退いても追うな」
 追撃は功を挙げる絶好の機会だ、だがその時もだというのだ。
「織田殿をお助けに向かうぞ」
「今織田家はかなり危ういですぞ」 
 如何にも頑固そうな顔の男が家康に言ってきた、三河武士の中でもとりわけ忠義の心が強くしかも頑固者として知られている大久保彦左衛門だ。
 大久保は家康の傍にいて彼を護り迫り来る朝倉の兵達をその手にしている槍で次々と追い払いながら言うのだ。
「陣が次々と破られています」
「そうじゃな、あれではな」
「どうもここから見ると破られた陣の動きが妙ですが」
 しかし危ういことには変わりがなかった。
「それでも。十二段の陣が一方的に破られております」
「長政殿しか出来ぬな」
 家康はここで長政に感心の言葉を述べた。
「あれだけ果敢に攻められることは」
「まさに武士の鑑ですな」
 大久保も長政をこう評した。
「今は敵同士ですが」
「全くじゃ、しかし今はな」
「はい、このままですな」
「押すのじゃ」
 朝倉の二万の軍勢をだというのだ。
「よいな、このままじゃ」
「殿、ではです」
 本多正信もここで言う。
「このまま突き崩していきましょうぞ」
「そうじゃな、このままな」
 家康も本多のその言葉に頷き兵を攻めさせる、だが。
 その彼等の前にだ、思わぬ敵が現れた。
 巨大な刀を縦横に振るい迫る徳川の兵達を次次に吹き飛ばしていた。それはもう斬っているのではなかった、
 その剣で叩きまさに吹き飛ばしているのだ、それを見てだ。
 家康は目を見張ってだ、本多にその武者のことを問うた。
「あれは何者じゃ」
「はい真柄直隆ですな、あれは」
「真柄と申すか」
「朝倉家に一人とてつもない武辺者がいると聞いたことがあります」
 本多はこう家康に話していく。
「五尺三寸の刀を振るい」
「五尺三寸か、あれ位じゃな」106
 家康は目の前の武者の刀の大きさを見て述べた。
「丁度な」
「はい、それがしもあの刀の大きさから見てです」
 それでだというのだ。
「間違いありませぬ」
「その真柄か」
「あの男、噂通りです」
 本多は唸る様にして述べた。
「やはり相当な武辺の者です」
「そうじゃな。当家であの男の相手が出来るのは」
「ではそれがしが」
 まず大久保が出ようとする、だが彼は本多が止めた。 
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