ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第47話 理不尽な世界
リュウキは、橋の方に向かって、あのロザリア達の方に向かって一歩踏み出すと、歩行速度を上げるた。そして、どんどん歩を進めていく。橋に差し掛かり、もう、殆ど連中は目の前だ。
それを見たシリカは、思わずもう一度声を上げた。
死地へと向かっている様に見えたから、或いは、化物の口の中に足を踏み入れていると錯覚したから。
「リュ リュウキさんっ!!!」
それは、シリカに似合わぬ大声で叫びを上げた。その声は、一番後ろにいたロザリアにまで届いていた。
―――その名前……どこかで聞いたことがある?
不意に、その時男達の頭を過ぎっていた。そして時間にして数秒後。リュウキが橋を渡り終えそうな所に到達した所で、完全に、思い出す事になる。
複数の男達が。
「リュウキ……?」
「あの……馬鹿長い剣……銀髪、白銀のコート……」
2人が、ポツリと呟いたそれが合図だった。
「まさか……《白銀の剣士》の……? そ、そんな……馬鹿な……!」
完全に思い出した1人の男が急激に顔を蒼白させ、数歩後退った。
「や……やばいよ、ロザリアさん。こいつ……βテスト上がりの……こっ攻略組だ……!」
男の言葉を聞いたメンバーの顔が一様に強張った。驚愕したのは……シリカも同じだ。
そして、シリカは思わずキリトの顔を見たけど、キリトは驚いた様子は無い。キリトも知っているようだった。と言う事はキリトも同じ攻略組?
「……残念だったな。オレはアイツの様には、……キリトの様に優しくは無いし加減をする訳もない……。 覚悟をしろよ」
無表情な筈なのに、そこには阿修羅がいた。
リュウキの背後には、《鬼》が見えてきた。そして、男達はリュウキの言っていたあのキリトについても聞き覚えがあった。
「なっ……キリト? ……キリトだとッ!?」
その《キリト》と言う名も知っていたのだ。
さっきまでは何とも思わなかった名前。だが、リュウキの存在を知った今。直ぐに連想させられた。
「盾無しの片手剣士。……黒の剣士!? ……コイツもβテスト上がりの攻略組だッ!」
「なんで、ここに攻略組が!? しかも、ソロで前線はってる攻略組が2人もいるんだよ!?」
後ろで控えている男も、ソロで最前線に戦線を置いている男。
こんな層とは比べ物にならない程の凶悪なモンスターが蔓延っている戦場を根城にしている連中。前人未到である前線を走破している男達。
これが本当ならば、2人の強さは……間違いなくその層+10以上、つまり、少なくとも70は あると言う事だろうか?
自分達より少なく見積もっても、20以上は、離れていると言う事だ。
シリカは、あっけにとられて、前に立っているキリトの決して大きくない背中を見つめる。
今までの戦い方を見ても相当な高レベルプレイヤーだとは思っていた。でも……最前線で未踏破の迷宮に挑みBOSSモンスターを次々と屠っている攻略組。
その真のトップ剣士だとは思わなかった。夢にも思ってなかった。
「あっ……! で、でも白銀……って………」
この名前、《二つ名》は、確かに聞いたことがあった。
それはいつだっただろうか、……アルゴの情報の本で見た事があるのだ。今は、回収? されてしまったのか、見る事が叶わなくなってしまった。それ程古いモノだ。
そこにあったのは、銀髪の勇者。
そこから始まって……、次には白銀の剣士で定着していたなんだか、面白おかしい剣士の話。
会える確立は凄く少なくて……でも会えればラッキーだとか。とても、素敵な人だって。素敵で……何よりも強い。まるで、それこそアニメなんかのヒーロープレイヤーみたいなイメージだろうか。
確かに、リュウキ顔はその、幼さが残るものだとシリカも思ったけれど。
(その《銀髪の勇者改め、白銀の剣士》がリュウキさん……? そして……キリトさんもそリュウキさんと同等のレベルの最前線の攻略組……?)
だが、1つの事実もある。彼ら攻略組の力はSAO攻略にのみ注がれ中層のフロアには下りてくることは滅多に無い筈と言う事実だ。だが、現に2人はこの場所に立っていた。
この事には、ロザリアもたっぷり数秒間ぽかんと口を開けていた。その姿は、随分滑稽な姿に溜飲下がる思いだ。
だが、ロザリアは直ぐに我に返ったように甲高い声で喚いていた。
「馬鹿言っちゃいけないよ! こ……攻略組がこんな所をウロウロしているわけないじゃない! それに、あのぼーやが、有名な≪白銀≫? はっ!ありえないね! どうせ、名前を語って、びびらせようってコスプレ野郎に決まっている。それに……万が一にでも本物だったとしても、こっちは15人もいんのよ! この人数なら、白銀だろうが漆黒だろうが余裕だわ!」
流石は腐ってもギルドのボスの言葉だ。メンバーを鼓舞する事に成功し、その声に更に勢いづいたようにオレンジプレイヤーの先頭に立つ大柄な斧使いも叫んだ。
「そ……そうだ! 攻略組ならすげえ金とかアイテムとか持ってる! それがたった2人だぜ!? オイシイ獲物じぇねえか!!」
口々に同意の言葉を喚きながら賊たちは一斉抜刀した。
「き……キリトさん……、やっぱりっ無理ですよ! 人数がっ! リュウキさんを……助けて逃げようよっ!」
シリカは、懐にあるクリスタルを握り締めながら叫ぶ。ロザリアの言うとおりいくら強くたって、数の暴力という言葉もある。物量で押し切られてしまえば、2人でも勝てないと思ったのだ。
だが、キリトはただ、大丈夫とだけ言う。
そして、リュウキも脚を止めず、そのままの足取りで止まらない。賊の連中は皆がソードスキルを発動。猛り狂った笑みを浮かべ我先にと走り、短い橋の上で。
「オラアアアアッ!!!!」
「死ねえええええ!!!!」
「くたばれやあああ!!!!」
その怒声と共に、リュウキの身体縦横無尽に斬りつけた。その攻撃は、一度では無く、何度も何度も切っ先がリュウキの体を貫いた。
デフォルト技だけじゃなく、時にはソードスキルも使う。そしてプレイヤー間の遅延を防ぐ為にスイッチを繰り返しながら1人1人が攻撃、示して、秒間およそ10連撃以上をリュウキに叩き込んでいた。
シリカには、その剣筋から生まれた赤い筋がまるで、血の後のように思えた。
「だめえええええ!!!!! リュウキさぁぁぁぁん!!!!!」
思わずシリカは両手で顔を覆いながら絶叫をした。だけど、キリトが優しく 両肩を掴んで言った。
「シリカ、落ち着いて……。ほら、見て リュウキのHP。判るか?」
キリトの言葉に、僅かずつ、ながら落ち着きを取り戻したシリカは震えながら、リュウキのカーソルを見つめた。あれだけの攻撃を受けたんだ。もう、どれだけ減っているのかわからない。
シリカは見る事すら怖かった。ピナの時の様に硝子片になってしまうリュウキを見たく無かったから。
どうにか、リュウキの事を見る事が出来たその時、ある異常に気がついた。
「あ……あれっ? い、いったい、どういう……こと?」
見てみたリュウキのHPゲージ。それが、全く減っていないのだ。いや……動いているように見える。
でも……減少の幅は1mmにも満たなく、減っているのも、まるで目の錯覚では無いか? と、思える程の減少だった。
やがて、攻撃を加えていた男達もこの異常な状況に気がついた。そして、ロザリアも戸惑いを隠せなかった。
「あんたら! なにやってんだ! さっさと殺しな!」
苛立ちを含んだロザリアの命令に再び剣を構えたが。
「……無駄だ」
そう言葉を発した直後にリュウキの身体が一瞬ぶれた。シリカにはそう見えた。
それは、リュウキと対峙していた男達も同様だった。消えた様に見えたのだ。
そして、リュウキの姿に気づいたその時には。
複数の金属音が響き渡ったと同時に、前方にいた4人の武器、それらが全てへし折れていたのだ。へし折れた剣は、その全てが硝子片となって消え去っていた。
「なっ……、い、いったい 何しやがった?」
横で見ていた男はわからない。本当にただ、消えただけにしか見えなかった。そして、消えた次の瞬間、武器を全て壊された。
ロザリアも、その異常な光景にただ絶句していた。
リュウキは、ふうっとため息を吐くと。
「武器破壊だ。……知らんみたいだがな。まあ、それは良い。お前らの攻撃10秒で大体300って所だ。 それがお前らが与えるオレへのダメージ。そして、オレの今のレベルが90。HPが21500だ。ん……、そうだな。お前らは武器を無くした様だから。さらに威力半減だな」
そう言うと、リュウキは軽く笑った。
「ああ、後 オレには戦闘時自動回復スキルもついている。それが自動回復で10秒で600。……さて、計算をするまでも無いよな? お前らが与えられるダメージは300前後、武器を変えたとしてもそれは変わらないだろ。 ……つまり、何年かかっても俺は殺れない。それにオレは、シリカやキリトと一緒に探索に来ても そんな馬鹿な事に いつまでも付き合ってやる程 暇でも優しくないんでな」
リュウキのその宣言に、男達は戦慄を覚えた。
それは無限ループだ。否……、無限地獄だ。不死身の男を相手にするも同然なのだから。例え、毒系の力を使ったとしても、無駄だろう。ダメージの総数が600も超えるとは思えない。
そして、何より、さっきの今の見えない攻撃もそうだ。
「ばかな………っどうやって武器を壊したってんだ……」
男達の一人。サブリーダーらしき、斧使いが、掠れた声でそう呟いた。
「別に大した事じゃないだろ? この剣で、だ。まあ、敏捷値が950を超えているからかだろうな。……お前らの目では認識できなかったんだろう」
つまり、見えない攻撃のその正体は、文字通り目にも止まらぬ、映らない斬撃なのだ。
「目に映らねぇ……攻撃?」
「そんな、そんなのアリかよ。無茶苦茶じゃねえか……反則だろ……?」
動揺を隠す事が出来なかった。不死身の上に、その攻撃を見る事さえが出来ないのだから。
「それはそうだろう。……何を言ってるんだ?」
リュウキは、呆れながら男達の顔を見た。
「ここは現実とは違う。……強さの数値が上がれば上がる程、強くなる。そして、差があるのであれば、強者相手にその差は決して、短時間では縮まらない。……絶望的にな。それがレベル制のMMOだろ。ここは、ある意味 理不尽な世界だ。だが」
リュウキは、その極長剣を思い切り大地に叩きつける。その衝撃で、思わず男達は仰け反りそうになってしまう。
「……その世界で、理不尽な事をしてきたお前らには似合いの結末だろ?」
その声の奥では、無表情だと言うのに、はっきりと怒気にも似たものを孕んでいた。後ろで……プレイヤーの影に隠れ脱出しようとした男がいたが。
「逃がすと思うか……?」
ヒタリ、とまるで 首筋に刃を突きつけられているような感覚が襲った。いつの間にか、すぐ後ろにキリトがいたのだ。その脱出しようとした、所作を初見で見破ったようなのだ。
「化物……」
そう呟くのも無理も無い。抗う事すらできず、掴み上げられ。そのままキリトは、リュウキの傍にまで戻す。
完全に2人で 15人全員を包囲したのだ。
最早……何処にも逃げられないと悟ったのだろう。怒気・殺気が入り混じっていた男達が静かになっていった。
「チッ……!」
戦況は絶望だと悟ったロザリアは素早く転移結晶を取り出した。
「転――「……それは言わない方が良いな。オレの一撃の方が早い」ッッ!!!」
ロザリアのカールさせた赤髪の間を縫って……背後から剣の切っ先が出てきた。その刃は……ロザリアの目線上。寒気が一気に体を支配し、動けない。
間違いなく、この男は何mも離れたところにいたのに、一瞬でその距離を縮めた。先ほどと同じ、見えない攻撃。今度は、見えない移動速度だ。
圧倒的強者による搾取。
弱肉強食の世界で自分自身が、喰われる側だと感じた。
「試してみるか? お前が唱え終わり、そして転移するのが早いか オレの筋力値に追従した剣の一撃を受けるのが早いかを」
リュウキは、そう言っていたのだが、ロザリアは言葉を返す事が出来なかった。リュウキは、そんなロザリアを掴み上げた。
「っっ! は……はなせっ! 何をする気だ畜生!!」
漸く正気に戻ったロザリアだったが、掴まれてしまい、もうどうする事も出来ない。
圧倒的な筋力だった為、抗う事が出来ないのだ。まるで、子供と大人の差、いやそれ以上。
リュウキは、そのままロザリアを男達の中心へと放ったのだった。
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