インフィニット・ストラトスの世界にうまれて
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ルームメイトは緑髪の眼鏡っ娘 その三
「では午前の実習はこれまでだ――」
と織斑先生。
午後は使った訓練機の整備をすると言っていた。
当然だが、専用機持ちは訓練機の他に自分の機体も面倒を見ることになる。
午後はISの格納庫にグループごとに集まれとのことだった。
先生たちは連絡事項を俺たちに伝えるとすぐに引き上げてしまう。
午前中を振り返れば、起動テストは途中までは順調だった。
だが、のほほんさんが言い出したあのお姫さま抱っこが予定を狂わせた。
次々とお姫さま抱っこのリクエストに俺は応えることになり、おかげで時間ぎりぎりになってようやくグループ全体のテストが終わった。
アレがなければ余裕で終わっていたはずだ。
「本当はデュノアくんか織斑くんがよかったけど……脳内で変換するから大丈夫」
なんて言ってた女子もいたなあ。
それはもういい、終わったことだからな。
ISを格納庫に戻すことになったのだが、ここで男子三人の明暗が別れることになる。
ISを運ぶためには専用のカートを使うのだが、それには動力がついていない。
ではどうするのかというと、ISを使用しての運搬は禁止されているので、残る方法はなんと人力である。
俺と一夏のグループは自分たちがメインになって運び、シャルルのグループだけは、
「デュノア君にそんなことさせられない!」
と皆で運んでいた。
一夏のグループはまだいい、手伝ってくれる女子がいたからな。
俺のグループは誰も手伝おうとしないので、のほほんさんにお菓子を買ってあげるからと買収、手伝ってもらった。
世の中の理不尽さをひしひしと感じた瞬間だ。
それにしても、俺があんなに力自慢だとは知らなかった。
ひょっとしてアレか? 危機に陥ると自分でも知らない力に目覚めるってやつ。
まあいいや、とにかく腹が減った食堂で昼食を食べることにしよう。
ところ変わって昼休みの屋上。
「飯は皆で食ったほうが美味いからな」
一夏のその一言で皆はここにいる。 メンバーは一夏ハーレム、ラウラ・ボーデヴィッヒ抜き、プラス俺だ。
今日はシャルル目当ての女子たちが食堂に殺到しているのだろう。
昼休みともなればいつもは賑やかな屋上は人影もなくガラガラだ。
俺は食堂に行こうと思ったのだが、肩をがしっと掴まれた。
「アーサーさん、どこへ行くおつもりですの?」
理由を聞けば、俺が食堂に行くと自分たちの居場所がバレ、屋上に人が殺到し静かに食事が出来ないかららしい。
これを言ったのは一夏ではなくセシリアだが。
「ねえ、アーサー。何か僕、君に嫌われるようなことしたかな? ちょっと目が怖いよ」
「すまん。たださ、世の理不尽さってやつを嘆いていたのさ」
「世の理不尽さって……ああ、アレのこと?」
俺はISを載せたカートを格納庫にしまう時のことを言いたいのだが、それを理解したシャルルは、あはははと笑い声を上げ、がんばりなよと励ましてくれた。
視線を移せば、一夏以外の篠ノ之箒、セシリア、凰鈴音の三人はどうするのかというと、それぞれが持参した手作りの弁当を手に睨み合い、視線の交わる場所で火花を散らしつつ牽制し合っていた。
女子三人が大事に抱えているものは、一夏への貢ぎ物だ。
とりあえず篠ノ之箒と凰鈴音の弁当は大丈夫だろう。
原作でも一夏は美味しいと褒めていたからな。
問題はセシリアの弁当だろう。
見た目は美味しそうなのに、食べるな危険のステッカーを貼りたくなるほど危険な味らしい。
セシリアは料理を作るのにISのビット兵器を使った挙句、料理を爆発させるくらいだからな。
アニメ版での一夏は、セシリアの手によって差しのべられた卵サンドらしき物体を、一口食べて顔を青くした挙句、汗をだらだらと流しながら食ってた気がする。
それをこんな間近で見れると思うと、なんか胸が熱くなるな。
「そっちのはいいとして、なんでこいつまでここにいるのよ」
凰鈴音が言っているこいつとは俺のことで間違いないだろう。
ロクに話してもいないのに、この嫌われようはなんなんだろうな。
「そういうなよ、鈴。アーサーは転校してきたばかりで……っていうか、シャルルもそうだけど、右も左も解らないだろう」
「一夏がいいならあたしは文句ないけど……でも、何でニヤニヤしてんの? 気持ち悪いわよ、アンタ」
これから始まる展開を想像したら嬉しくなり、どうやらそれが顔に出ていたらしい。
「すまん。セシリアさんの弁当がどんなもんかと気になっていたもんでな」
そう言った俺の言葉に気を良くしたのかセシリアは、
「あら、アーサーさん。そんなにわたくしのお弁当が気になりますの? 見るだけならよろしくてよ」
ってなことを言いながら、膝の上に抱えていたバスケットを開き自慢げに中身を見せてくれた。
うん、確かに見た目は美味しそうに見えるな。
原作一夏の言ったまさに『写真通り』の出来映えだろう。
見本としてならパーフェクトだろ、これ。
携帯電話で写真を撮っておきたいくらいだ。
セシリアの特製弁当の中身を見た一夏の表情は硬くなり、凰鈴音は目を細めている。
凰鈴音は俺の目を見ると何かを訴えかけているようにも見えた。
たぶん言いたいことはこんな感じだろう。
『アンタ、セシリアの料理の味を知ってるなら何とかしなさいよ!』
と、こんな感じだろうか。
だから俺はこう返した。
『何とか出来るわけないだろう? あれはセシリアが一夏に食べさせるために持ってきてるんだぞ?』
『解ってるわよ。でも、一夏に食べさせたくないから言ってるんでしょ。アンタが代わりに食べなさいよ』
恐ろしいことを言うな、凰鈴音。
『俺を殺す気か!』
『一夏が死ぬよりマシよ。ちゃんと看取ってあげるからセシリアのお弁当全部根性出して食べなさいよ!』
『セシリアの料理は精神論でどうにかできるか! そんなレベルはとうに越えてるんだよ』
『それでもアンタ男なの?』
「どうしたんだ? 鈴。アーサーと見つめ合って」
一夏を見れば、意外そうな顔で俺と凰鈴音を見ていた。
「えっ? な、何でもない、何でもない」
凰鈴音はそう言いながら一夏に向かって手をぶんぶんと振り、目は俺に対しこう語っていた。
『セシリアのお弁当食べなきゃ、あたしがアンタを殺すわよ』
俺を脅しやがった凰鈴音の背後には黒いオーラがゆらゆらと立ち上っているように見えた。
抜き刺しならないとは、まさにこういう状況だろうな。
行くも地獄、戻るも地獄である。
俺は背水の陣を配し、敵陣に突入するしかない。
覚悟を決めた俺は、凰鈴音にセシリアの気を逸らすように依頼し、大事そうに抱えている弁当をセシリアの手から奪いとる機会をうかがう。
凰鈴音の合図を確認した俺は、セシリアの弁当を素早く奪い去る。
セシリアは何かを叫びながら追いかけてくるが俺は気にしない。
食べても死ぬのだろうが、食べなくても死ぬことになるのだ。
何も考えず、ただひたすら逃げ、バスケットの中からサンドイッチを取り出すと口に詰め込んでいく。
数分後に弁当をすべて食べ終えた俺は、達成感など微塵も感じず屋上の地面に倒れこみ、意識がだんだんと遠退いていく。
俺は胸を押さえ、うめき声を上げながら、胃からこみ上げてくる何かを口から出ないよう必死に耐えた。
最後に聞こえたのは凰鈴音の「よくやったわ」だった。 そして俺は意識を手放した。
のちに俺は勇気を称えられ一夏から二つ名を賜った。
まったくありがたくもないのだが、せっかくくれるというので貰っておこう。
『挑戦者』これが一夏から貰った二つ名である。
目を覚ますとそこには知らない天井があった。
どうやら俺はベッドで寝ているらしい。
ここはどこだろうと頭を動かすと、そこには椅子に座り俺を見下ろしている凰鈴音がいた。
「やっと気がついたみたいね。具合はどう?」
「良くはないな。ところでここはどこだ?」
「医務室に決まってるじやない」
「そうか。約束通り、俺の最後を看取りにきたのか?」
「んなわけないでしょ。お礼よ、お礼。あんたのおかげで一夏が助かったから」
凰鈴音は照れるような表情を見せると、そのあとに顔を逸らす。
「そのおかげで俺はこのザマだけどな。ところで今の時間解るか?」
「もう夕方の六時よ」
俺はそんなに寝てたのか。
顔を窓の方に向けると、確かに日は傾きかけた太陽が空をオレンジ色に染めていた。
椅子が床を滑る音がする。
見ると、凰鈴音は椅子から立ち上がっていた。
「先生呼んでくるから」
そう俺に告げると医務室の入り口へと向かう。
そしてドアを開け廊下に出るとこちらに振り返る。
「あたしのことは鈴って呼んでいいわよ。あたしもアンタのことはアーサーって呼ぶから」
微笑を浮かべ、じゃあねと言って手を振り、俺の前から去っていった。
鈴の微笑を見るためにずいぶんと大きな犠牲を払ったもんだ。
しばらく待っていると織斑先生と山田先生がやってきた。
織斑先生は俺の顔を覗きこむと、
「具合はどうだ」
と聞いてくる。
「まだ胃がムカムカとしてますけどね」
「凰さんから話は聞きました。あまり無茶はしないでくださいね」
山田先生は真剣な顔で言ってくる。
「了解」
「ところで、ベインズ。これからのことだが……」
「これからのこって何ですか? 織斑先生」
「お前の部屋のことだ」
「そういえば、まだ聞いてなかったですね。俺の部屋はどこです? 一夏と同室ですか?」
「いや、お前の故郷、イギリス本国からの要請で一夏とは一緒の部屋に出来ない」
「理由を聞いていいですか?」
俺の質問に答えてくれたのは山田先生だ。
「はい。警備上の問題だそうです。男のIS操縦者は貴重ですからね。いくら警備の厳重なIS学園でも、もしものことがあるからってことです。リスク回避の観点からもそうしたほうがいいとIS学園側も判断しました」
「俺は一人部屋ですか?」
「それなんだが……悪いが寮の部屋の調整が上手くいっていない。いかなり転校生が三人来たからな。まあ、仕方がないだろう」
「じゃあ、どうするんです? 俺」
「山田先生の所で世話になれ。教師の寮ならイギリスも文句を言ってこないだろう。寮の調整が済むまでの間だ、長くはかかるまい。今はそれで我慢しろ。それに、あの茶番をやらかすほど山田先生のことが好きなんだろ? 今日から同室なんだ、仲良くやるんだな。言っておくが、いくら大好きだからといっても間違いだけは起こすなよ。部屋へは今から山田君に案内させる」
一気にまくし立てるように言った織斑先生は、呆気に取られている俺を、からかうような笑みを残して去っていった。
とある日の朝。
山田先生の部屋には当然ながらベッドが一つしかない。
そこで俺は床に布団を敷いて寝ることになったのだが、山田先生は気を利かせたのか、俺がイギリスから来たもんだから床に寝るのは慣れなくて大変だろうということで、ベッドを使いなさいと言ってくれたが断っていた。
この世界に産まれる前は日本人だったから気になどならない。
朝、布団の中で目を覚ますと、俺以外のぬくもりを感じ取る。
どうやら何者かが俺の布団に侵入したらしい。
上半身を起こし恐る恐る布団をめくっていく。
そこに何があるのか確認した。
見れば、俺の布団にもぐり込んで丸くなり寝息を立てる山田先生がそこにいた。
何でここにいるんだ? まったく。
山田先生を起こそうと肩に手をかけると、ドアを三度ノックする音が聞こえた。
「山田君、起きてるか?」
声の主はどうやら織斑先生のようだ。
何てタイミングで来るんだ? もしかしてこの状況になるのを狙ってでもいたのか?
今の状態をどう取り繕おうかと考えていると、部屋の鍵が開く音がする。
住人の了解を得ずに織斑先生は突入してきた。
部屋の鍵はロックしてあったはずだが、どうやって開けたんだよ。
マスターキーでも持ってるのか? 織斑先生は。
「ほう、昨日はずいぶんお楽しみだった様だな」
俺と山田先生の有様を見た織斑先生は不適な笑顔でそんなセリフを言ってくる。
「似合いませんよ、そんなセリフ」
「冗談だ、許せ。どうせ山田先生が寝ぼけてお前の布団にもぐり込んだ、とそんなところだろう」
「でしょうね」
「山田君。いつまで寝ているつもりだ」
「うーん」とうなりながら目を擦る。
そして、むくりと起きると赤ちゃんのようにハイハイしながら移動し、いつもかけている眼鏡をかけ、また布団の上に戻るとペタンと座り込んだ。
「おはようございます……織斑先生」
まだ半分寝ている様な声で、かけた眼鏡は微妙にズレ、目はほとんど瞑ったままだ。
しばらくぼっとしていたが、自分のいる場所がベッドの上でないとようやく気づいた山田先生は、
「どうして私はベインズくんの布団の上にいるんでしょう?」
なんてことを言っている。
「山田君、それはこっちが聞きたい」
織斑先生の言葉に反応せず、山田先生はふらふらとした足つきで立ち上がる。
何をするのかと見ていると、おもむろに寝ていた時に着ていたものを脱ぎだした。
着替えるなら眼鏡をかける必要はなかったんじゃないか? というか、ここで着替えちゃマズいだろ。
女性らしさを存分にアピールしている豊かな胸を覆い隠すしている布製の下着が丸見えである。
上を脱ぎ終わると、今度は下に手がかかる。
「ああ、山田君。この部屋には年頃の男子がいるんだ。ここではなく別の場所で着替えたらどうだ」
「そうですね。そうします」
山田先生は着替えを持つと、まだ寝ぼけているようで、ふらふらとした足取りでどこかに向かった。
バスルームとかそっち方面に行ったんだろう。
「ところで、お前も遅刻するなよ。遅刻したらペナルティとしてグラウンド十週だからな」
俺は立ち上がると欠伸をしながら両手をのばす。
振り返ると織斑先生の姿はもうそこにはなかった。
俺は窓のカーテンを開けると部屋に朝の光が差し込んでくる。
その光は俺の身体も包み込み、あまりの眩しさに手をかざす。
今日もまたIS学園での一日が始まった。
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