| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

役者は踊る
  第四八幕 「アリーナの中の戦争」

 
前書き
12/30 ミス修正 ライフルの口径が小さすぎました 

 
前回のあらすじ:病弱少年、変革の時?


獲物に食い掛かる時を今か今かと待ち構える4の鋼鉄の巨人達。その手に持つ無骨な武具と周囲を囲む他の人間たちの熱狂する姿はさながら古代ローマの剣闘士の戦いのようだ。野蛮で原始的、暴力と血によって退屈に殺された市民たちを魅せるそれと本質は同じだ。違うところがあるとすれば、その鋼鉄の巨人の存在そのものと、そして基本的に血が流れないことくらいのものだろう。

この星で唯一大量殺戮を行うといわれている生物、人間のみが喜ぶであろう戦い。彼らの持つ武器がひとたび振るわれれば、あるいは火を噴けば、たとえ相手が象だろうと熊だろうと案山子よりも簡単になぎ倒すことのできるだけの力を持ちながら、それでも人類はその先にある強さを求めようとする。
では、その闘争の先にあるものとは。人類全てを死滅させてなおあり余る核の炎の、その先を得た人類は何を成し、どこへ向かうのか。

「やってみなきゃ結果はわからない、っていうセリフ・・・真理だよね」

そう呟く佐藤さんの目には、彼女にしては珍しく相手を射抜くような鋭さがある。その言葉に応えるように、今まで腕を組んで目を伏せていた箒が口を開いた。

「それについては同意するぞ、佐藤さん。だから貴方にも一夏にも油断をする気はさらさらない」
「当たり前だろ箒!手ぇ抜いたら・・・後ろからバッサリだ!」
「ふむ、背中の傷はブシの恥、だったか?怖い怖い・・・せいぜい斬られんようにうまく立ち回るとするか」

嘯くラウラは一見リラックスしているようにも見えるが、実際には少し違う。軍人として自然体で戦いができるよう自分の感情をコントロールできているがゆえの余裕である。こういった部分でも彼女がIS同士の戦闘に慣れていることが伺える。

≪試合開始5秒前。4・・・≫

「打ち合わせ通りにね、織斑君」
「そっちもしっかり頼むぜ!」

佐藤さんチームの作戦立案は全て佐藤さんがこなしている。頭脳労働を全部任せてしまった手前、戦いでは自分がきっちり佐藤さんを勝ちに導かなければならない、と一夏は展開した雪片弐型を握る手に力が籠る。

≪3・・・2・・・≫

「では、手筈通りにな」
「善処するよ、篠ノ之」

対する箒、ラウラチームは事前の打ち合わせは多少したが作戦よりもより直接的な連携の動きを重点に置いている。戦いは生き物、だから臨機応変に動くために細かい作戦はあえて立てなかった。


≪1・・・試合開始!≫


戦いの幕が開いた。会場中の全員の意識がたった4機のISに集中する。



瞬間、白式が弾けるように箒の打鉄に突っ込んだ。その速度、まさに風の如く。瞬時加速を上回るほどの爆発的加速に箒とラウラの目が驚愕に見開かれた。

「・・・速いッ!!」
「どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

想像を絶する速度で切り込んできた一夏。並の相手ならこの一撃で致命傷であるこの斬撃に、しかし箒はきっちり防いで見せた。振り下ろされた剣と防ぐ剣が激突し、衝撃を殺しきれないと察した箒が後ろに飛ぶ。

それと時を同じくして佐藤さんがラウラに対して対IS爆雷を無造作に放り投げた。対IS爆雷はその爆発範囲が大きすぎることからあまり使用されることのない武器なのだが、これは相手のフォーメーションを分断するには非常に効果的。予測効果範囲から逃れるためにラウラは箒から離れざるを得ない状況になった。
瞬間、アリーナ中心に大爆発が起き、モニターに焦げ付きを残しそうな閃光と爆風が荒れ狂った。結果、箒対一夏・ラウラ対佐藤さんの構図が完成する。

((上手くいった!))
((先手を取られたか!))

一夏は第一段階がこちらの思惑通りに事が運んだことに安堵する。最初の狙いは箒とラウラを分断させること。しかし本当に大変なのはこれからだ。なぜならば、一夏は今から”一人で”格上の剣士を打ち破らなければいけないのだから。



~前日~

「いい、織斑君?これからラウラちゃんの専用IS、『シュヴァルツェア・レーゲン』についておさらいするよ?」
「おう、お願いするよ」

佐藤さんがモニターに調べ上げた情報を表示していく。とはいっても情報の殆どが学園内で撮影されたものなのだが。それでものほほんさんに協力してもらって手に入れたらしい・・・代償に大量のお菓子を買ってあげたために財布が切ないことになったそうだが。
機体デザインは黒を基調としたシンプルな構造。足の接地面積が少ない所は少し風花に似ている。非固定浮遊部位に武装(アタッチメント)を装着するための部位あるらしく、画像の一つにはそこにどでかい砲台をつけている。 額当てはどこか兎を連想させる2本のアンテナがピンと空に向かって伸びている。

「今のところ確認されてる武装がドイツ軍の公開演習で装備してた大型レールカノン、ワイヤーブレード、プラズマ手刀の3つだね。訓練では使ってない装備があるかもしれないけど」
「ふーん・・・遠、近、中と一通り揃ってるのか・・・厄介だな」
「うん。ついでに第3世代ISだから当然第3世代兵器も積んであるんだ。しかも白式とは相性最悪のやつ」
「マジかよ・・・」

表示されたデータに目を走らせて思わず嘆息する。それは飛び道具のない白式にとって絶望的に相性の悪い極悪機能だった。

「ぶっちゃけ1対1ではラウラさんに勝てる可能性が低すぎます。よってモッピーを倒してから二人掛かりでラウラさんを倒す作戦で行きます、つーかほかに勝ち目ありません」
(もっぴーって箒の事か?)
「というわけで織斑くん、私が時間稼ぎするからその間に箒ちゃんをサシで討ち取ってね?」
「おう!・・・おう?」

セイウチみたいな聞き返しをしたせいで佐藤さんに大笑いされ、暫く”セイウチくん”という不名誉なあだ名でからかわれた。

~side out~



「やるものだな。教官の弟とは知っていたが、既に”踏出瞬時加速”を習得していたか」
「あれができないとラウラさんたちに勝ち目がないからね~。ジョウさんに無理言って教え込んでもらったんだ!ぶい!」

既に銃撃戦に突入している二人。佐藤さんは不規則な軌道でレールカノンの照準を避けつつライフル片手にVサインをして見せる。対するラウラは円状制御飛翔(サークルロンド)を用いつつ徐々に距離を詰めようとする。しかしその距離は完全に佐藤さんに掌握されている。佐藤さんは67口径セミオートマチック狙撃銃≪アバレスタ≫を器用に使いこなし、箒への援護射撃ができないように適度に牽制弾を放ちながら一定の距離を保っていた。

「フッ・・・さすが教官のお眼鏡にかかっただけの事はあるな。その慧眼は見事だと言っておこう」

一夏が開幕で使った加速はその名を踏出瞬時加速(ステップイグニッションブースト)という。これはISの操縦技術というよりは肉体の技術であり、発案者は織斑千冬。地上始動の加速であり、ISのパワーアシストを全開、かつPICによる慣性減退を抑えるためにPIC出力をギリギリまで落としつつ体を踏み出し、足が地面から離れる瞬間に瞬時加速を発動させる。踏み込み分の加速のトップスピードと同時にエネルギーを噴出することによって初速が爆発的に速くなるというわけだ。
だがこの加速は格闘技などの心得がない人はまず使わないし覚えない。なぜならPICのマニュアル操作をしながら寸分違わないシビアなタイミングで加速しなければならない上に、発動時の体勢が崩れていると地面にめり込むことになる。更に言えば地上始動であるので空中で使えないことがネックになり、現在この加速を使っているのは世界でもごく少数である。

「ホラ、白式はあんな感じだから。織斑君には必要でしょ?」
「だろうな・・・だが篠ノ之は一筋縄ではいかんよ。そしてその一手もお前が落されれば無駄になる訳だ、佐藤!
 ・・・さん!」
「言い直した!?」
「呼び捨てで呼んだら皆に”さんをつけろデコ娘”と怒られた」
「なにこれラウラちゃんじゃなくて私がイジメられてんの?」

顔が(´・ω・`)になりつつも佐藤さんの牽制弾は的確であり、お喋りしながら片手でバンバン撃ち込んでいく。性能で勝るシュヴァルツェア・レーゲンを相手に量産型のラファールが速度で戦っては勝ち目が薄い。かといって火力押しではこちらが先にスタミナ切れしてしまう。よって佐藤さんが考えた作戦が以下のものだった。
ひたすら箒と一夏の方に行かせないように位置取りしながら後退し続け、その間相手の動きに合わせて狙撃銃を撃ち込む。無駄弾は撃たず、しかし相手に休む暇も与えずに絶えず誘導を続ける。そして接近は許さない。
常に背後に照準を向けたまま相手の攻撃を避け、なおかつ位置取りや機体間距離を一定に保ち続けるその手際はこの3日間この状況を想定してひたすら練習していた成果だ。・・・というか一撃でも食らえばその時点で佐藤さんのリタイヤが決まるようなものなのでそういう戦法を取らざるを得ないのだが。

レーゲンのレールカノンは遠距離砲撃用。弾丸にはドイツ謹製特殊徹甲弾が詰まっているため直撃を受けたら最悪の場合一撃でテーレッテーである。ワイヤーブレードは6本もある上にうっかり捕まったらそのまま引き寄せられてプラズマ手刀確定だ。当然接近戦を挑めばプラズマ手刀の餌食であることは言うまでもない。
プラズマと言えば電気の仲間みたいなイメージがあったりなかったりかもしれないが、実際には固体・液体・気体に続く物質の第四の状態の総称である。
で、何が問題かというとその温度だ。プラズマは超高温。業務用のプラズマ切断機でもプラズマの当たった部分は数万度を超えてあっという間に対象を溶解してしまうし、核融合とかで使われるプラズマは1億度を超える。それがIS用にされたとあってはその威力は計り知れない。そんな物騒なものを刀身として固定させるというのは第3世代には届かずともとんでもない技術である。
早い話が、手刀を食らったらISの装甲が溶断されて戦いどころかISそのものがおじゃんになるのだ。

(さすがに競技用に出力落としてあると思うけど・・・レーゲンそのものは軍用機、威力がシャレにならないのは変わりないからね・・・あーヤダヤダ)
「ふーむ・・・いい動きだ。レーゲンの長距離武装がレールカノンしかない事に加え、後で織斑と合流するまでのエネルギー・弾薬温存も加味している・・・ううむ、佐藤さん。ハーゼに来ないか?待遇は応相談だぞ?」

レールカノンを撃ちながら顎に指をあて勧誘を始めるラウラに佐藤さんは苦笑しつつアバレスタの弾丸とともに返答する。残念ながら軍人などという責任と義務の伴う職業は御免だ。

「や、意外と日本に愛着あるもので。ゴメンネ?」
「・・・ならば、こういうのはどうだ?私がこの試合で私が佐藤さんを倒せたら一考するということで」
「えーヤダよー、だってラウラちゃんの武器はどれも一発で私を倒せるのにそんなの不平等ジャン?」
「フム。ならばそれを解決しよう」
「ほへ?」

その言葉と同時に佐藤さん操るラファールが警告を放ち、その脇を熱量と破壊力を持った”何か”がすり抜ける。やや遅れて、ラファールの優秀な戦闘補助システムはそれが超高圧ビーム兵器による射撃であったことを告げた。・・・佐藤さんの知る限り、ドイツ軍では粒子砲の開発はそこまで進んでいなかったはずである。それに原作のレーゲンもそんなものは使っていなかった。

(”そんなのが”あるなんて聞いてないんですけどぉ!?)

額からだらだらと脂汗を流しながら佐藤さんが見た先には、ライフルと大型拳銃を比率7:3で混ぜたような黒い銃が握られていた。カラーリングはレーゲンに合わせて所々に赤と黄色が入っている。どう見ても専用装備です本当にありがとうございました。

「む・・・少々ずれたか?・・・ああ、紹介してなかったな。この銃は『ドルヒ・カノーネ』といって、連合王国のレーザー技術に対抗意識を燃やした同志たちが組み上げた新型ライフルなのだ。少々扱いに慣れていないのだが・・・これなら一撃では落ちんだろう?」
「・・・あ、当たらなければどうということはない!」
「まぁそう言わず2,30発持っていけ!!」
「ひぃー!?ご勘弁をぉぉぉ!!」

したり顔で説明するラウラの手にあるドルヒ・カノーネからエネルギー反応。間一髪で射線から逃げた佐藤さんの顔にもはや余裕はなかった。

「織斑くーーーん!急いで箒ちゃん倒して助けにきてぇぇぇ――――!!!」

そんなにすぐに来れないことは分かっているが、それでも叫ばずにはいられない佐藤さんであった。
 
 

 
後書き
最近またいくつか誤字を発見、修正しました。ケータイでチェックすると発見が速いのでこの中に執筆者の方がいらしたらぜひ試してみてください。などと誰でも知ってそうな事をしたり顔で語ってみたり。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧