紅き微熱と黒き蓮華
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プロローグ
前書き
どうも、なんかこの組み合わせが見たくなったので書きました。
拙い文章&不定期ですが、よろしくお願いします。
どこかの湖に彼女はいた。少なくとも彼女の知るラグドリアン湖ではないらしい。辺りを見回すと蓮の花托が水面から突き出ているのが見えた。
“…かな…ず……に…”
目の前の彼がそう告げる。途切れ途切れに聞こえ内容は分からない。
彼の身体は黒のコートに包まれ胸には十字架が縫い付けられていた。だが、首から上はもやがかかって見えず、声の低さから男性だと判断することができた。
“ほんとに?おじいさんとおばあさんになっちゃってもよ?”
自然と彼女も呼応して言葉を発していた。
“…………”
とうとう、彼の声は聞こえなくなってしまった。雰囲気から辛うじて何かを言っていることが分かる。
“待ってるわ。…ずっと待ってる”
彼の声が聞こえることがなくなっても彼女の言葉は続けられる。
顔も分からないが、彼を見ると不思議と愛しいという気持ちが溢れ出てくる。
唐突に彼女以外のものが霧散していく。彼も例外ではなく、次第に消えて行く。
(待って…おねがい。消えないで)
彼女の願いもむなしく、彼は顔を残すのみとなり、それも粒子となって消えてゆく。
しかし―――
“………愛してる”
最後にはっきりと聞こえたその言葉は彼女の心を温かくした。
(私も……愛してる)
「……ケ」
彼女一人となった暗黒の空間に誰かの声がきこえてきた。
「キュ…ケ」
どうやら彼女の名を呼んでいるようだ。徐々に意識が覚醒していくのがわかる。
「キュルケっ!!」
その言葉と共に彼女は閉じていた目を見開いた。
「全く、今日はサモンサーヴァントを行う大事な日だってのに寝坊するなんて…ってあら?泣くほど強く言い過ぎちゃったかしら?」
「また見たの?」
彼女の目の前に立っていたのはルイズとタバサだった。
ルイズがご立腹なのは彼女の寝坊が原因らしかった。
それなら放っておいて先に行けば良いのにと思うキュルケだが、そこは真面目なルイズらしく、ライバルの寝坊は許せなかったようだ。タバサも友人の寝坊が心配でついてきたようだった
「ええ、実はまた見たのよ。最近、見る回数が増えてきているわ」
「それってゲルマニアのエピソードでしょ。あなたも意外と乙女チックなところがあるのね」
「うーん。でもそれとは少し違うような気がするわ」
ルイズの言うゲルマニアのエピソードとは初代皇帝が后妃と蓮の花が咲き誇る時に永遠の愛を誓う約束をしたが、初代皇帝は東方遠征の際、エルフに殺されとうとうその約束は果たされなかったという悲恋のエピソードだ。この話は老若男女問わず絶大な人気を誇っており、ゲルマニアを毛嫌いするトリステインでも人気がある話だ。
実際にこの事があったかは定かではないが、ゲルマニアの国花は蓮とされている。
「そんなことより、さっさと食道行かないと遅れちゃうわよ。私は先に行くけど、ツェルプストーともあろう者が遅れるんじゃないわよ!」
「はいはい。タバサ、あなたも先に行っておいて、すぐに向かうから」
「分かった」
二人が退出したあと、彼女は布団から出て着替え始めた。
彼女の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
赤毛とダイナマイトなボディが特徴のゲルマニア帝国の貴族の娘である。
二つ名は、微熱――その名の通り彼女の色恋沙汰は情熱と称して複数の男子生徒を股にかけているのである。
ところが、最近はそんなことも一切なく、普通に学院生活を送っている。原因は先程見た夢である。しかも、今回が初めてというわけではなく、もう何度も見た夢。
幼い頃からその夢を見ており、その事を周りに話すと、乙女ねと冷やかされたものだ。
近年はその夢も見なくなり、すっかり忘れていたのだが、サモンサーヴァントが近づくようになって再び見るようになった。
(何かの暗示かしら?…まあ、気にしても仕方がないわ)
キュルケは鏡台の前で身だしなみを整え終わると、急いで部屋を飛び出した。
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