ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
九十話:神の塔の幻影
修道院を出て。
マリアさんには馬車に乗ってもらって、護衛兼話し相手としてコドランを付けることにします。
「コドラン。マリアさんのこと、よろしくね」
「おっけー!ドーラちゃんのお友だちのおねーさんなら、優しくしないわけにいかないよね!おいらに任せてよ!よろしくね、マリアちゃん!」
「まあ、楽しい方ですね。よろしくお願いします、コドランさん」
マリアさんにも飛び付いて、保護者たちとまた揉めるのかとハラハラしながら見守ってましたが。
別にそんなことは、無かった。
コドランは普通に紳士的に接してるし、ヘンリーもピエールも特に気にした様子もありません。
……私だけか。
やってないけど、きっとマリアさんならコドランに飛び付かれても、もしかして一緒にお風呂入ったり添い寝したりしても、余裕で見逃して貰えるんだ。
主として崇められたり、腐れ縁で保護されたりしてるがゆえに、同じ美女でも片や見逃され、片やガチガチにガードされ!
なんという、理不尽!!
むううう、ヘンリーはもうすぐお別れだからまあいいとしても、ピエールのほうはもうちょっと何とかならんものか。
主とか言いながら行動制限されるとか、おかしいんじゃないのか。
後日、よく話し合ってみよう。
などという決意を固めつつ、馬車の中でマリアさんとコドランがキャッキャウフフしてる気配に和んだり羨んだりしながら、魔物を倒しつつ南に進み、神の塔にたどり着きます。
祈りを捧げて貰うため、マリアさんを馬車からお呼びします。
緊張した様子で佇むマリアさんの背中に手を添えると、はっとしたようにこちらを見てきたので、微笑みかけます。
「大丈夫です。あの場所にいた時ですら、あなたの心は美しく輝いていた。そのあなたの祈りが、聞き届けられないわけがありません。自分を、信じて。あなたを信じる、私を信じてください」
マリアさんの頬が赤らみ、不安が晴れたように明るく微笑みます。
「……ありがとうございます!私、やってみます!」
私もまた微笑み返し、扉に向かうマリアさんを見送ります。
少し後ろに控えていたヘンリーが隣に並んできて、囁きます。
「……おい。……なんだ、今の」
「なんだって、なにさ」
「修道院でもそうだったが。……口説いてるのか?まさか、本気で」
ある意味、いつでも本気ですが。
口説こうとか落とそうとか、そんなつもりでは別に無かった。
普通に感謝を述べたり、励ましたりしただけで。
……まあ、女性が恋愛対象で無いというのは、もう言ったし。
その上で誤解するなら、もうそれでもいいや。
「そんなことより。マリアさんの邪魔になるから、静かに」
「そんなことって」
「静かに」
二回目を強めに言ったことでヘンリーも黙り、マリアさんが捧げる祈りに応えるように光が降り注ぎ、照らし出された扉が開きます。
マリアさんが弾かれたように立ち上がり、こちらを振り向きます。
「ドーラさん!私……!」
「はい。やはり、開きましたね」
「良かったですわ……。お力になれて、本当に……」
涙ぐむマリアさんに、また微笑みかけます。
「ありがとうございます、マリアさん。それと、おめでとうございます」
祝福の言葉に、マリアさんが涙を吹き飛ばすような笑顔を見せます。
「……ありがとうございます!では、参りましょう!」
ヘンリーが、隣でまたなんか言いたそうですが。
君がきちんとフラグを立てておけば、今のこのポジションは君の物だったのに。
そして、蚊帳の外なのは私だったのに。
折角譲ってあげようとしたイケメンポジションを受け取らないから、そういうことになる。
今さら文句言われても、知らん。
という気持ちでヘンリー以外の仲間たちに目で合図し、マリアさんの先に立って塔に入ります。
「コドラン。ここから先は、私がマリアさんを守るから。戦闘、よろしく」
「りょーかい!」
非戦闘員を守るというのも、慣れないと結構難しいからね。
体を張って守らせたりしたら、コドランまで危なくなるかもしれないし。
他に任せた上でマリアさんが怪我でもしたら、全員が気まずくなりそうだし。
色んな意味で、ここは私がマリアさんを守るべきだね!
ヘンリーが、またなんか言いたそうですが。
言いたいことがあるなら、言えばいいのに。
内容によっては受け付けないが。
まあ、無視しても雰囲気悪くなるだけなので。
「ヘンリーも、戦闘。よろしくね?」
まさか今さら、マリアさんを守りたいとは言い出すまい。
「……わかった。そっちには、行かせないようにするから。……無理、すんなよ」
「うん」
どのくらいのことを、無理と呼ぶんだろう。
例えば仁王立ちして盾になったとしても、死ぬことは無いと思うんだが。
そこまではしない、ってかする意味が無いとは思うが。
まあ、何がどうでもマリアさんに傷ひとつ負わせる気は無いので!
私が無理することになるかどうかは、他のみんなの活躍にかかっていると言っても過言では無い!
言わないけどね、そんなこと!
とか思いながら塔の中心部に向かって歩いて行くと、人影が。
凛々しく逞しい男性と、美しくたおやかな女性の姿が。
……ああ、そうか。
こんなイベントが、あったんだった。
うっかり忘れて、油断してた。
周りの仲間の存在を一瞬忘れて、食い入るように二人の姿を見詰めて、駆け寄ろうとしたところで。
幸せそうに抱き合った二人の姿が、掻き消えました。
消えてしまったことで我に返り、守ると言った側から離れてどうすると、踏み留まって。
でも振り返ったり、仲間に声をかけたりはできなくて、その場に立ち尽くして俯きます。
……あんな顔、してたんだ。
一瞬しか、見えなかったけど。
私に、ドーラに、似てただろうか。
……あんなに幸せそうに、笑うんだ。
ママンだけでなく、パパンのあんな顔も。
見たこと、無かった。
「……ドーラ」
「……ドーラさん?」
背後に歩み寄るヘンリーと、立ち尽くして戸惑うマリアさんの気配。
他のみんなに目立った動きは無いけど、きっとみんな困ってる。
……よし、大丈夫。
もう、大丈夫。
気合いを入れて振り返ろうとしたところで、ヘンリーに後ろから抱きすくめられます。
「……ヘンリー?……大丈夫だから、離して」
今、気合いを入れたところなのに。
特に今は、マリアさんもいるんだし。
「……本当に?大丈夫か?」
「うん。勿論」
むしろこのままでいられるほうが大丈夫じゃなくなるから、早く離せ。
断言したのにまだ離そうとしないヘンリーの腕を、強引に振りほどきます。
ヘンリーが溜め息を吐き、マリアさんが呟きます。
「……神の塔は、魂の記憶が宿る場所とも言われているそうです。そのために、全てを見通す不思議な鏡が祀られる場所とされたとか。……今の幻影も、もしや誰かの……」
誰かの。
ここにいない誰かなら、きっと死んでしまったパパンか、もっと他の誰かの。
ここにいる誰かなら、私の。
魂の、記憶か。
それなら、まともに見たことも無いママンの顔が見られても、おかしくは無いのか。
パパンの、あんな表情も。
私の記憶には無くても、居合わせた魂が、記憶してるかもしれないのか。
……前世のことは、どうなんだろう。
出てこなかったなら、もう消えてるのか。
弱いから、出てこないだけなのか。
人も魔物もこんなにいるのに、私のあの記憶だけが出てきたんだとしたら。
私じゃない他の誰かの記憶だとしても、いくつも宿った中からあれが選び出されて、現れたんだとしたら。
それほど私があの記憶に、あの二人に。
こだわってるのか。
……うん、こだわってる。
あの二人を助けるためなら、他のことはどうでもいい、とは言わないけど。
優先順位で言ったら、比べ物にならない。
あの二人を助けるために、他の誰かをはっきり見捨てるとか、犠牲にするなんてことは無くても。
振り捨てなければ進めないなら、全てを振り捨てても、私は進む。
私の足を止めてしまう可能性のあるものを、私は受け容れられない。
あの二人のことだけは、どうしても。
諦めたくない。
油断してて、感情が揺らされたけど。
見られて、確認できて、良かった。
気持ちをしっかり立て直し、決意を固め直して、笑顔で振り返ります。
「ごめん。大丈夫だから、もう行こう。早く鏡を探さないと、遅くなる」
マリアさんはほっとしたように微笑み、他の仲間たちにも安心した空気が漂う中、ヘンリーはまだなんか言いたげにこっちを見てますが。
何か聞かれても答える気は無いので、ピエールたちに先に進んでもらい、マリアさんを伴ってさっさと歩き出します。
あんまりのんびりしてると遅くなって、幼女と遊ぶ約束が果たせないからね!
マリアさんを遅くまで連れ回すわけにもいかないし、それなりに、急がないとね!
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