夜の影
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第九章
第九章
「しかしそうした存在がですか」
「何らかの事態でこの世界に出て来たのでしょう」
役はこのように分析したのだった。
「おそらくは」
「そうなのですか。それがあのナイトゴーントですか」
「はい。彼等の世界の住人の一つです」
役はまた言った。
「あれは」
「それで役さん」
話が終わるとすぐに本郷は険しい顔で役に問うてきた。
「そのナイトゴーントですけれど」
「ああ」
「あいつ、それでどうすればいいんですかね」
「答えはもう出ている」
本郷に返した言葉はこれだけだった。
「もうな」
「ということはいつも通りですか」
「そうだ。倒す」
やはりこれしかなかった。確かに答えはもう出てしまっていた。二人の仕事はこれである。それならばこう言うのも当然のことであった。
「ここでな」
「行きますか」
「もうこれで罠は終わりだ」
その言葉と共にそれまで持ち上げられていた式神が消えた。そうして一枚の札になってそれはすぐに闇夜の中にひらひらと舞った。二人はそれを見ることなく同時に前に出た。
「仕掛けるがな」
「はい」
「注意することだ。敵は空を飛ぶ」
「ええ、わかってますよ」
本郷は不敵な声で役に応えた。応えながらも前に出続ける。駆け足だった。その駆け足でナイトゴーントの前に行く。そのうえで背中から刀を出していた。日本刀だ。
「空を飛ぶ相手とやるのも多かったですからね」
「慣れているというのだな」
「それは役さんだって同じでしょう?」
不敵な言葉はそのままだった。
「空を飛ぶ相手も海を泳ぐ相手も。毎度のことじゃないですか」
「それはその通りだ。ならば」
「ええ。別に気にすることはありませんよ」
言いながらナイトゴーントの下に出た。二人並んで立ちその魔物を見上げる。
魔物の姿は完全に闇夜の中に溶け込んでいる。その姿は見えない。しかし本郷の目にはその魔物が見えていた。彼の目は誤魔化せなかった。
「俺には見えますよ」
「先程と同じか」
「ええ。役さんはどうですか?」
「残念だがな」
まずはこう言うのだった。
「私の目は君のそれ程よくはない」
「そういうことですか」
「そうだ。しかしだ」
だからといって何もしないわけにはいかない。何もしなければ倒される。それが魔物との闘いであり二人はそのことをよくわかっていた。
「それでもやることはできる」
「どうするんですか?」
「これもいつも通りだ」
言いながら懐から茶色の札を出した。二枚ある。その二枚の札を天に投げるとそれは鷲の翼になった。その翼はすぐに彼の背につき羽ばたきだしたのだった。
「こうするだけだ」
「いいですね。俺も欲しいですね」
「当然君の分もある」
言いながらまた茶色の札を出してきた。それを投げるとまた翼になり彼の背に着いた。本郷はそれを身に着けるとすぐに羽ばたきだした。二人はその翼を使って羽ばたきナイトゴーントに向かうのだった。
本郷は右から向かう。しかし役の動きはたどたどしい。それがどうしてなのか本郷にはわかっていた。相手の姿が見えないからだ。
「見えないんですね」
「残念だがな」
「じゃあどうします?」
「それでも方法がある」
また言いながら懐から札を出す。今度は青い札だった。札はまた投げられそれは無数の青い羽根になった。それを周りに漂わせるのだった。
「まずはそれで覆ってですね」
「これで護りはいい」
彼は護りを確かにしたのだと言った。
「これでな」
「言っている側から来ましたよ」
姿が見えている本郷が彼に告げた。
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