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夜の影

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第七章


第七章

「この式神を一人で歩かせます」
「それで様子を見るのですね」
「はい、そうです」
 そういうことであった。
「つまりは囮です。そして囮から様子を見ます」
「それでは我々はそれを見て」
「事件について調べます。これで如何でしょうか」
 警視正に対して提案したのだった。
「これで」
「そうですね。それではです」
 警視正は彼のこの提案に確かな顔で頷いた。
「それで御願いします」
「はい、それでは」
 こうして三人は遠くからその式神を見て探ることにした。式神は一人で夜の街を進む。やがてその式神の身体が自然に宙にあがったのだった。
「空にあがった!?」
「遂に」
 三人はその式神の姿が上がったのを見てそれぞれ声をあげた。
「本郷君、上だ」
 ここで役は本郷に対して言った。
「上を見てくれ」
「上!?」
「そうだ。式神の上だ」
 その上を見ろというのだった。
「何が見える?」
「あれは」
 役の言葉に応えてその式神の上を凝視する。するとそこにあるものが見えたのだった。
「やっぱり。思った通りですね」
「といいますと」
「いましたよ」
 こう警視正に述べたのだった。
「上にね」
「その式神の上にですか」
「俺の目はね。特別なんですよ」
 不敵な笑みと共に警視正に告げた言葉だった。
「見えるんですよ、どんな闇夜でもね」
「それで何が見えます」
「悪魔・・・・・・いや」
 本郷はその彼の目に見えるものを凝視しつつ語る。目がかなり細まっている。
「あれは違いますね」
「悪魔ではない」10
「確かに似てはいます」 
 その姿を見続けての言葉だった。
「けれどあれは」
「では一体何なんですか?」
「悪魔みたいに真っ黒です」
 まずは色からだった。
「夜そのものの色で。完全に溶け込んでいます」
「だから見えないのですね」
「はい、俺でもなきゃね」 
 その色についての言葉だった。彼は引き続いてその何かを見ていた。彼にだけ見えており役にすらとても見えないものであった。
「それでです」
「それで?」
「頭には角が生えています」
「角がですか」
「はい、頭に二本生えています」
 それも見えているのだった。彼には。
「それに尻尾がありますね。先に棘が生えてメイスみたいになっています」
「メイスですか」
「そうですね。それに翼が生えていて」
 今度はそれであった。
「それは蝙蝠のに似ていますね」
「ではやはり」
 警視正はその姿を見てあらためてそれが何かをイメージした。彼にとってそこからイメージされるものは一つしかなかった。それは。
「悪魔ではないのですか?」
 彼はこう本郷に問うた。
「その姿は」
「似ていますけれどね」
「それでも違うというのですか」
「ついでに言えば人間みたいな手足があります」
 本郷は言い加えた。
「そういったものも」
「ではやはり」
「はい。悪魔に思いますよね」
 本郷は今度はかなり思わせぶりに警視正に問うてきた。
「普通は」
「それでも違うというのですか?」
 警視正にとってはそれはまさに悪魔であった。姿を聞く限りはそうとしか思えない。しかし本郷はそれは違うという。これが彼にはどうしてもわからないことだったのだ。
 
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