パーティから脱退し、階段を上り、2層の地面に立つ。
追ってくる者はいなかった。それで良い。
道が続いているので、歩く。先へと。
そうして街が見えて来て、はじまりの街にあった物と同じ、
“転移門”と呼ばれる物を見つけた。
これに触れば、プレイヤーが此処を通れるようになるはずだ。
軽く触れ、急いで走り去る。
プレイヤーが出てくる前に。
暫く走って、街の外に出て、更に少し進んだ時。
その時には何故か、目から涙があふれていた。
周囲を見渡しても、モンスターの影も、プレイヤーの姿も無い。
広い草原に、たった1人。
この世界に来た目的はなんだったっけ。
お兄ちゃんと一緒に遊ぶ為じゃ無かったのか。
これでは、自分から離れたも同然。
俯くと、更に涙が零れた。
後悔する必要は無い・・・はずなのに。
元々お兄ちゃんとは距離があった。
私が勝手に埋めようと突っ走って、失敗して、寧ろ広げてしまっただけ。
お兄ちゃん的には何も変わらないだろう。
寧ろ、βテスターだからと引け目を感じてそうなお兄ちゃんには良い方向だったはず。
そう考えれば、寧ろ良い事じゃない。少し間が広がっただけ。それだけの事。
小さな事。これからは、ひたすらクリアだけを目指して戦えば良い。
その前に、もしかしたら、犯罪者として捕らわれるかもしれないね。
せめて、全てに抗ってやる。
ゲームから出さないと言うなら、出れるように。
遊びじゃないと言うなら、遊べるように。
私を殺すと言うなら、殺されないように。
捕らえると言うなら、捕らわれないように。
全てに抗って、絶対屈しないし、あきらめたりもしない。
だから・・・今だけは、今だけは、最後に泣いても、良いよね・・・。
◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆
結局、私はアインクラッドの犯罪者となった。
私に襲われたと言うプレイヤーが名乗り出なかった為、
私自身を討伐などにはならなかったが、
犯罪者と言う悪評、
それを消すには至らなかった。
更に、私には“
鬼姫”と言う2つ名が付いた。
音だけは可愛いね、字面と意味はともかく。
まぁ、覚悟の上だけどさ。
βテスターについては、
彼らは被害に怯える人達と言う考え方が広まり、
βテスターは、持つ情報を出来る限り情報屋に提供してくれれば、
情報屋がβテスターに代わって広めると言う制度が作られた。
これは、誰がβテスターかを広めない為の処置である。
そして現在、アインクラッド7層まで攻略されている。
今までのボス全てにトドメを刺したのは、私である。
周囲からは、ラストアタック狙いの奴としか見られなかった。
別に構わない。
ラストアタックを一人で全て貰っているのは事実だし。
ボス攻略会議の度に、お兄ちゃんとは顔を合わせた。
話しかけようとしてくれたけど、私から避けた。
とても悲しそうな顔をして、俯いていたお兄ちゃんを見れば、
こっちまで悲しくなったけど。
ごめんね。お兄ちゃん。
私と関わってはいけない。お兄ちゃんにまで悪評が及ぶ。
私が誰かと仲が良い何て事、あってはいけない事だから。絶対に。
◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆
攻略組と言う、最前線で戦う人達。その中で。
私はソロプレイヤーと言う位置付けだった。
今のレベルは27。明らかに他とは異質だった。
階層+10が安全マージンと言われている。
その中で、階層+20を取っているのが私。
生き残らなくちゃいけない。一人でも。
今の私の武器は、6層のボスのラストアタックボーナス、“風迅薙”
静型の青白い刃に、黒い柄、鍔と石突は秘色色。鍔のすぐ下に、青系の組紐が結んである、
新たな薙刀。
長さは、刀身30cm 柄120cm、重さが2kg位だろうか。
装備は、萌葱装束に加え、
モンスタードロップの若芽色の羽織を羽織っている。
そして私は、午前中は迷宮区探索、午後は未踏破のフィールド探索で一日を潰していた。
今日の迷宮区探索これで終わりだから、パンを食べながらフィールドに向かう。
今日は8層の林にするか。
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そうして、未踏破の林を、出現するモンスターを薙ぎ払いながら進む。
此処のモンスターは、動きが速いけどHP量も防御もそんな高くない。
攻撃力は・・・喰らって無いので知らない。
そうして暫く歩いて行く。
すると、索敵に5人のプレイヤーの反応があった。
驚くべきは、そのうち4人が、犯罪者の証、オレンジプレイヤーだった。
・・・見に行くか。
――――――――
そうして見たのは、信じられないと言うか・・・
1人のプレイヤーが倒れていて、周りには大量のアイテム。
そして、倒れているプレイヤーを4人が取り囲んで蹴ったりしていた。
倒れているプレイヤーのHPはレッドギリギリのイエロー。
その倒れているプレイヤーの顔を見た時、
薙刀を4人に向けて振り払った。
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━━━━━━━━━━side:Kirito━━━━━━━━━━━
死ぬんだと、分かった。
飛んできたナイフに気付かず、麻痺毒の付いたナイフを喰らってしまった。
そのまま、勝手に4人のプレイヤーにアイテムストレージを弄られ、
全てのアイテムを地面に落とされ、
拾う前に俺を嬲り殺そうと、蹴られたりでHPを減らされて行った。
そして、HPがレッドゾーンに入った瞬間、
俺の事を攻撃していたプレイヤーが、纏めて横に吹き飛んだ。
吹き飛ばしたのは、青い紐の付いた青と黒の薙刀。
それを持つのは、緑の服を纏った明るい茶色の長い髪を持つ女性プレイヤー。
そのプレイヤーは、感情を一切消し去った様な表情で、4人を見据え、
「逃げるか死ぬか、選べ。」
と、抑揚の無い、平坦且つ冷たい、感情の無い声で言い放った。
「鬼姫・・・? 何でお前が此処にいる!!
第一、なぜ俺らの邪魔をするんだ! お前と同じ事をしているだけじゃないか!」
4人の中の一人がそう反論する。
そう、彼女は、第一層攻略時、全ての汚れ役を一人で背負い、
犯罪者と言う汚名を被った。
「煩いんだよ。 此処にいる理由? 狩りだよ。ただ単純にね。
それに、同じ事をしている? 邪魔するな?
そうだねぇ・・・ムカついたから。とでも言って置こうか。
・・・さて、消えないなら死んで貰うけど、良いね?」
彼女は、現実世界で一緒にいた時の、良く笑っていた頃とは全く違った、
今まで見た事も無い様な雰囲気を纏っていた。
その威圧に耐えられなくなったのか、4人は逃走した。
そして、いなくなったのを確認した後、俺の方を振り向いた顔を見て。
心配と安堵が混じりあった表情は、今までの無機質な顔とは全く違った。
・・・だけど、その表情は直後に氷付いた・・・。
俺は、あの4人に、装備を全てオブジェクト化され、地面に落とし、麻痺で倒れている。
“全て”落としたのである。
・・・俺の装備していた服も・・・全て・・・。
・・・つまり・・・俺の今の装備は・・・。
・・・不味いんじゃないか・・・色々。
しかし、彼女の取った行動は、
一つため息を付いて、俺に羽織っていた羽織を掛けると言う物。
そしてその後、自分のウィンドウを何やら弄ると、
黒い布地を取り出し、一言
「ちょっとゴメン」
とだけ言って、俺の指を勝手に動かし、それを装備させる。
羽織で良く見えないが、黒い全身を覆う装備の様だ。
「あ・・・ 「飲む。」 ・・・」
何か話しかけようとしたら、無理やり口にポーションを突っ込まれた。
そう言えばHP、レッドゾーンに入ったんだっけ・・・。
「その麻痺を回復するアイテムは持って無いから時間経過まで待って。」
そう、無機質に言われて・・・
「・・・はい・・・」
としか言えなかった。
そして、彼女は立ち上がり、地面に散らばったアイテムを拾い集め、
俺の指を操作して、それら全てを俺のアイテムストレージに入れた。
その後、横向きで倒れてる俺の傍まで来て、しゃがんだ。
「あの・・・?」
そう聞いてみれば、
「置き去りにしていっても良いけど、そろそろモンスター出るよ・・・
・・・ほら。」
そう言って、彼女が薙刀で指す方を見ると、確かにモンスターがポップして、
此方を発見、戦闘態勢になった。
そして、此方に敵が向かって来る前に・・・
薙刀による高速の5連打を喰らって消滅した。
・・・剣先、見えなかったぞ・・・ソードスキルも無しに・・・。
「こういう事になるから、いてあげたのに。」
そう言って、少し拗ねたような顔をして笑いながらこちらを見たのは、
現実世界と同じ、同い年の少女。
・・・何も変わってない。
俺と彼女は、偶然誕生日が同じなだけの関係。
笑いながら“お兄ちゃん”と話しかけて来るその笑顔と声に、
何度顔を背けただろう。
家族とは何なのかの距離感が分からなくなって、距離を置こうとした俺に、
必至で話しかけて来た。
その度に、そっけなく返し、顔を背け、
何度、落ち込んで俯くその姿を見た事か。
この間、この世界で話しかけた時、そっけなく返され、踵を返された時、
俺はどんな事をして、どれだけ彼女が傷ついたかを知った。
俺は彼女が1層の時に言った言葉を、何一つ信じてはいなかった。
だけど、彼女の言動は、あまりに現実と違いすぎていて。
何が変わったのかと思った。
だけど、何一つ変わって無かった。
何の事無い、全てを押し込めて、仮面をかぶっていただけだった。
何も変わらない、優しいだけの少女が、全てを背負う為に自分自身を押し込めて、
耐えうるだけの虚像を作り出し、それを演じているにすぎなかった。
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━━━━━━━━━━side:Snow Leaf━━━━━━━━━━━
結局、全ては無事に終わった。
今、お兄ちゃんの麻痺が解けたから。
「助けれたのはただの偶然。ソロなら気を付けなね。
・・・後、もう話しかけないで。」
「・・・セツ・・・。」
私の忠告に対して・・・
とても久しぶりに、名前を呼ばれた。
鬼姫としか、呼ばれてなかったから。
「ココでは“スノー・リーフ”だよ。
・・・まぁ、愛称で
雪なら有りだろうけど。
・・・じゃあね。
・・・ごめんね。」
それだけ伝えて、逃げるようにその場を去る。
・・・すごく怖かったその場所から、逃げる様に。
この世界で、唯一探し求めた、“家族”であり“お兄ちゃん”
・・・何に変えても。失いたくない人だから。
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「スーちゃんっ!」
「・・・アルゴか・・・いい加減私に付き纏うのやめたら?
あなただけだよ? 私に接触してくるの。」
「全く・・・友達と思ってるのはオイラだけなのカ?」
「そうだね、あなただけだね。」
バッサリ切り捨てる。
「・・・それはそうと、スーちゃん。
キー坊と何してたんだ?」
・・・落着け、索敵使いっぱなしだったけどあの場に人はいなかった。
私の索敵を破るほど高ランクの隠蔽をアルゴが所持してる・・・?
有り得ない。いくらなんでも。
するとあれだ、フレンドか?
私とお兄ちゃんをフレンド追跡したら、同じ所にいたのを見つけた・・・とか?
「・・・驚かないのカ?」
驚いてますよー
とは言えない。
「別に、やましい事した訳でも犯罪行為働いた訳でも無いしね。
現に、殆ど喋ってもいないよ。」
「・・・怪しいナ・・・どんな関係なんダ?」
「どんなって言われても・・・襲われてたのを助けた。以上。
詳しい事は本人に聞きな・・・。」
あとはとっとと離れるに限る。
あと少しで次のボス部屋も見つかるだろう。
その時までに、もう少しレベル上げをしたい。
生存率をあげる為に。
他の人を護れる位、強くなる為に。
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暇だったから描いた。
反省はしている。後悔もしている。