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戦国異伝

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第百四十話 妻としてその五

「兄上の見事なところだ、わしには到底及ばぬ」
「そうですか」
「やはり天下人に相応しいわ」
「ですが」
「よい」
 市が知らせたことはだ、不問に伏した。
「妹として当然のことだ」
「左様ですか」
「うむ、気にするな」
 妻に再び告げた。
「そなたは間違ってはいない」
「有り難きお言葉」
「では行って参る」
 市を許しそのうえでだ、長政は立ち上がった。
 部屋を出ようとする、だがここでだった。
 市に背を向けて振り向いた時にだ、こう市に告げた。
「次の生でも会いたいな」
「はい、そして」
「そのうえでまた夫婦になろう」
 市に顔を向けての言葉だ。
「必ずな」
「私もそう思っています」
 今生の別れを覚悟しての言葉だった、そうして。
 長政は出陣した、小谷城の前にはもう朝倉家の軍勢がいた、長政はその彼等を見ていぶかしむ顔で周りに言った。
「これはどういうことじゃ」
「朝倉殿の軍勢ですな」
「そうじゃ、これはどういうことじゃ」
 こう周りに問うたのである。
「義景殿のお姿が見えぬぞ」
「それにですね」
「そうじゃ、しかもじゃ」
 長政は目の前の二万の軍勢を見て言っていく。
「宗滴殿もおられぬ」
「次の戦はまさに家の存亡を賭けたものですが」
「当家にとっても朝倉家にとっても」
「しかしそれでも主が出られぬとは」
「これは一体」
「義景殿はどう考えておられるのでしょうか」
 このことがどうしてもわからなかった、それでだった。
 浅井家の者達は朝倉家について首を捻るどころではなかった、何を考えているのかと真剣にいぶかしんだ。
 そのうえでだ、彼等は長政にこうも言った。
「これでは朝倉家の軍勢はどうしようもありませぬ」
「戦に勝てませぬぞ」
「朝倉殿は徳川殿の一万の軍勢を相手にされるのですが」
「半分の相手でも主がいなくては」
「宗滴殿もおられぬとなれば」
「負けるな」
 長政は一言で言った。
「どう考えてもな」
「ではこの度の戦も」
「これでは」
「いや、勝つ」
 朝倉が負けてもだというのだ、長政はここで意地を見せて言った。
「必ずな」
「我等だけで、ですか」
「そうされますか」
「狙うは一つだけじゃ」
 それだけでだというのだ。
「我等は勝つ方法がある」
「では右大臣殿をですか」
「何としても」
「あの方を討つ」
 絶対にだとだ、そうするというのだ。
「そうする」
「狙うはただ右大臣殿だけですか」
「あの方だけだというのですね」
「十万の兵には目もくれるな」
 織田家の大軍にはだというのだ。 
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