ソードアートオンライン VIRUS
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女顔の男
バギーで総督府に入るといろいろな人の視線が集まる。乗り物に乗っているプレイヤーが珍しいのであろう。だがそんなの特に気にすることもなく、そのまま奥にある大会参加者の集まるであろう待機場所にエレベータに乗り込んで向かう。B20Fで降りると、そこには大会に参加するであろうプレイヤーたちが各々の散っていた。
やはり、もう少しで予選があるだけあってどこか空気がぴりぴりしている。そしてその中一際目立つのが武器を隠さずに見せびらかすように整備しているプレイヤーたち。
(まだ時間があるのに武器を見せびらかすなんて相手になる奴に自分の情報を与えてるようなもんだぞ。フェイクを使うならまだしも強力な武器をおもむろに整備してるなんてほぼ確実に対策されるのにな)
強い武器を整備しながらちらちら見ている奴らの顔を見ながらそう思う。自分も人のことをいえないだろうがバギーはこの予選には使うつもりはない。もとより予選は一キロしかないのだ。そんな中をバギーで走ったところで大して意味をなさないだろうと思う。遮蔽物の代わりにはなるだろうが次の時もダメージは残るため使いたくはない。だからと言ってここまで持って来る必要はなかっただろうが一応、総督府の入り口の前に止めるのは入るのに邪魔だと思ったからと最初にも言ったとおり使うと見せかけるフェイクである。ドームの端っこまで来るとバギーにロックを掛けて止めた。
「さてと、後数分間何するかな……試合前に点検もいいけど、昨日に整備は終わらせてるから特にすることないし、マジで何しようかな……」
そんなことを呟き、あたりを見渡す。特にやることもないので知り合いがいれば話そうと思ったのだが自分の視界には知り合いらしき人物の姿は見えなかった。アウラあたりならいそうだと思ったがこの背の高そうな男ばっかりで見つけることは難しかった。
どうせならこのまま集中するために目を閉じておこうと思い目を閉じた瞬間にメッセージが飛んできた。
「一体誰からだよ。人が丁度集中しようとした矢先にメッセを送ってきたのは……」
そう思って誰が送ってきたかを確認するとそこにはシノンとかかれていた。シノンから連絡を送ってくるなんて珍しいと思いながら内容を確認する。
【さっきここまで来た時にもう一人乗せてきた奴がアンタに会いたがってるから入り口付近に来なさい。もうすぐで始まるからすぐに】
ほぼ半ば命令に近いような感じのメッセージが送られてきたので嫌だと送信する。これで集中できる、そう思い再び目を閉じた瞬間にまたメッセージが来た。どうせシノンだろうと思い無視してそのままでいる。と、今度は顔の辺りに何かが向いている気がする。誰だと思い目を薄く開けて見るとドラグノフの銃口が自分の額に向いていた。
「シノンがゲツガを呼んできてって言ったから来た。何眠っている」
「起こすのにもドラグノフ構えるなんてどういう教育受けてんだよ、アウラ。しかも眠っているとは失礼だな。集中するために瞑想してるんだろうが」
「とにかくシノンが呼んでいる」
そう言われて溜め息を吐くと、バギーのシートから降りて、アウラに着いていく。そこまで広くないすぐにシノンのところまで着く。そして来た瞬間にシノンから蹴りを入れられそうになったがそれを避ける。
「来たのに手荒な歓迎だな、シノン」
「アンタが遅いからでしょ!アウラが呼びに行かなかったらこないつもりだったでしょ!」
「もちろん。集中に専念してたかった」
「ゲツガはいつもどおりだ」
シノンは蹴りが入らなかったことに少しいらだちながらも周りの視線が集中しない度合いの声音で怒鳴る。だが、それぐらいでは反省などしない。そしてそれが自分のいつもどおりとアウラは言った。そして用件があるなら早く済ませようとシノンと一緒にバギーに乗せてきた少女に話を聞く。
「で、何でお前が俺を呼んだんだ?俺とお前は今日初めてあったはずだから何も聞くようなことはないはずだけど?」
「いや、一つだけ聞きたい事があるんだけど……あのゲツガ?」
そう聞かれた瞬間、身体が勝手に動いてベレッタを額に向けて構えていた。あまりの出来事にさすがに反応できていないだろうと思っていたが、あちらも反応していたようだ。しかし、銃を構えられるとは思っていなかったようである程度はなれて背中に腕を回すというような構えをとった。たぶん、ALOなどの剣士だったのであろう、そしてこの反応速度からするとあいつだと思うが念には念を入れておく。
しかし、今日はこの単語に対しては妙に敏感な気がする。元はといえばあのガスマスクの男のせいだ。あんな言葉を言うから疑い深くなっている。
「お前、ガスマスクの仲間か?」
「……何のことだ、俺はただお前が俺の知っているゲツガか確かめたかっただけなんだけど……いきなり銃を向けてくるなんてないだろ」
「悪いね。俺も普通ならこんなことしないだろうけど、今日はあのとかつけられた後に自分の名前が来ると妙に反応してしまうんでね。お前が誰だか予想は付いたけど一応、質問に答えるから内容をくれ」
「……ALOでケットシー、今から数十分前に分かれたって言えばわかるよな?」
「ああ。悪かったな、いきなり銃を向けて。女の子になったキリトよ。でも、俺は悲しくなってきたぜ。まさかシステムにもお前は男とみられないようになったなんて……」
銃をホルスターに収めると苦笑しながら今のキリトを見て言った。脳波の影響で性別が逆になるとは聞くには聞たが、まさかこんなに身近になる奴がいるなんて。だが実際は最も女性の容姿に近いアバターであろう。確か、前にサイトを見ていたときに何番系がそんな感じだった気がする。しかし、ここでキリトをからかうのも面白そうだろうと思う。
「ちょっとおま、何で女の子になったってなってるんだ!俺はこんななりになってるが男だぞ!?」
「嘘だー、俺は信じないぞ」
「男?そうなのか?」
「まあ、初見で信じろといわれても信じられないでしょうね。ていうか、あんたら知り合いだったの?それならわかるってるでしょ?」
「まあな。でも、俺の知っているキリトは完全に男だぞ。こんな女々しい姿をしてない」
アウラは本当にこんななりなのに男なのかと首をかしげ、シノンは冷静に答える。
「誰が女々しいだ!確かに容姿が女見たいかもしれないが男だって、証拠見せてやろうか!?」
そう言ってキリトはウィンドウを操作する。そして、すぐに透明のカードを取り出すと自分に向かって投げつける。それをなんなくキャッチするとそのまま自分のウィンドウに消した。
「あーあ、もうちょっとからかおうと思ったのに面白くねえな。まあいいや」
「俺は良くない」
「そうかい。まあ悪く捉えんなよ。ただの遊び心を刺激されただけだから」
「だからそれが良くないんだろ!ったく」
キリトはどうやら反論もする気もないらしくそれ以上は食いついてこなかった。
「じゃあ、用はもうないな。じゃあ俺はバギーのところに戻っておくから」
「わかった、悪かったわね」
「……シノンから謝ってくるなんて、この大会は何かが起きるな……」
「……そんなに脳天ぶち抜かれたいわけ?」
「遠慮しときます。じゃあ、お前等頑張れよ~」
そう言って、その場を離れた。その時、視界の端に丁度シュピゲールが来るのが見えたので先ほどの会話の内容を詳しく聞こうと思ったがやめておく。どうせ、何も喋らないだろうからだ。まあ、シノンといるなら何かしら口を滑らせて聞けるかもしれないがやめておく。
そして、そんな話をしているうちにすでに時間はそこまで残っていなかった。いい感じの暇つぶしにもなったし、キリトとの会うことも出来た。後で情報を交換するかと考えながらバギーの位置まで着くとシートにまたがる。
「さてと、自分の対戦相手の確認とえっとCブロックの一番か……特に要注意人物って思う奴は……アウラか。つうかアウラと同じかよ……マジでヤバイって。俺、スナイパーが一番苦手なのに……でも当たるとしても決勝か……もしも上がれば何とかなるか……それまでに何とか解決策を考えてみるか」
「ゲツガと勝負か……本当に戦うのは初めてな気がする」
「ああ、ってお前こっちにいたのかよ。てっきりシノンたちのところにいると思ってたのに」
「自分の信頼していない奴と長く居たくない。あの女みたいな容姿はゲツガと結構仲がいいからギリギリだけど、あのシノンの知り合いの男はどうもニガテだ」
「確かにシュピゲールは俺もニガテだな。なんか少し不気味な感じがするからな」
どうやらアウラも苦手らしい。アウラの場合は信頼できないと近くに居たくないという、なんか我儘な気がするが、今はいいだろう。
「で、お前のとこは上がれそうなのか?見たとこ、知ってる奴はいないし、ほとんどがわからない敵だけど大丈夫なのか?」
「ゲツガが心配することじゃない。そこら辺は、調べてもらった」
「調べてもらったって……ああ、あいつか。つうか、あいつの情報網ってどうなってんだよ」
あいつとは、武器屋の店主である。あの強面ながらかなり広い情報網を持っているから意外にも結構自分たちに教えてくれたりする。この前のベヒモスのことも店主から教えてもらった。
「だから心配ない。ゲツガこそ大丈夫なのか」
「大丈夫かもな、今回は武器とかしらないし対策も一個も出来てないからな。勝てる見込みがあるとしたら地形が自分の好みの奴なら何とかなるかもしれないな。それ以外だったら勝算は五分五分。まあできる限り勝って行きたいな」
「じゃあ、本戦まで言って私がゲツガより順位が上だったら一つ言うことを聞くこと」
「何でそうなるんだよ……まっ、行けたらな。そんじゃあ、俺が勝ったらとりあえず今まで奢った分の鍋の代金だ」
「うっ……」
それを聞いた瞬間、ほとんど前髪が僅かに揺れる。顔が見えないから表情は読めないがこうやって髪の毛がどう動くかで大体は予想できるようになっている。つうか、前髪スナイパーのときに邪魔にならないのかとか今思った。
「そろそろか……じゃあ互いに頑張って決勝で会おうぜ」
「うん」
いつもどおりの短い返事。だが、その返事には何か強い意志を感じる。何かあるのだろうか?そんなことを考えるが全く思い浮かばない。そしてそんなことを考えている間に自分の視界が青い光で覆い隠された。
(さて、初回から飛ばしていくか。アウラには悪いがお前の約束よりもこっち追っている事件の解決のほうが優先度が高いからな。今回だけは本当に悪い)
そう心の中で呟くと光が収まるほんの僅かな時間を待った。
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