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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  八十八話:母の愛

「兄上たちには、『真実の姿を写し出す鏡』を手に入れてきて欲しいのです」

 デールくんが話を切り出し、ヘンリーが問い返します。

「書庫の日記にあった伝説の品か。……魔物の正体なら、ドーラが見破れるが。やはり、必要なのか?」
「はい。母上の周りには魔物が多く入り込んでいますが、事情を知らない人間もまた多くいます。魔物を倒すにしても、まずは正体を暴かなければ。謀反人扱いされて失敗するか、成功したとしても人間同士で傷付け合うことになってしまうでしょう。伝説の品が実在するかはわかりませんが、あるのなら手に入れておきたい」
「わかった。それなら、手に入れてこよう」
「ありがとうございます。では、この鍵を。鏡があると思われる南の塔への、近道になる旅の扉が城内にあります」

 デールくんがラインハットの鍵を差し出し、ヘンリーが受け取ります。
 ……よし、今だ!

「陛下!この鍵は、旅の扉の部屋に入るためだけのものなんですか?」

 急に口を挟んだ私に嫌な顔もせずに、デールくんが微笑んで答えます。

「どうぞ、デールとお呼びください。これは国王が管理する、この城のマスターキーの予備ですから。城内の全ての鍵を、開くことができます」

 ですよね!知ってた!

「そうですか!……あの。少しだけで、いいんですけど。装備品とかなにか、役に立つものがあったら。……お借りしても、いいですか?」

 ゲームなら問答無用で家捜しするところですが。
 現実なんだから、やっぱり許可を取らないとね!

 でも、もう子供でも無いんだし。
 さすがに図々しいだろうか。

 と、微妙に気まずい感じでくれとも言い切れず、ついつい上目遣いになる私。

 すると、またデールくんの顔が赤く。

「そ、それは……!勿論です!この国のために、お力添え頂くのですから!必要なものがあれば、何でもお持ちください!」
「本当ですか!ありがとうございます、デール様!」

 やった、流石はイケメン国王!
 太っ腹!

 と、超笑顔になる私をデールくんがさらに真っ赤になった顔で、まじまじと見詰め。

「……話は、もういいな。行くぞ、ドーラ」

 割り込んできたヘンリーに、視界を遮られました。

「え。あ、その。…………はい。……兄上も、ドーラさんも。どうか、お気を付けて……」

 ヘンリーが発する威圧感に、またデールくんがガックリなった雰囲気です。
 見えないが。

 済まないねえ、私が美女過ぎたばかりに。
 お兄さんの怖い一面を、何度も見せつけることになってしまって。

 あ、でも行く前に。

「デール様。私たちが、太后様にお会いすることはできますか?魔物退治は鏡を手に入れてからとしても、できれば少し様子を見ておきたいのですけど」

 顔が見えない状態でお話しするのも失礼かと思い、ヘンリーの肩越しに顔を出そうとしますが。
 それもまた阻まれて、結局デールくんは見えない状態で問いかけます。

「そ、そうですね。先に様子を見て頂いたほうが、対処もしやすいでしょう。それなら、この書類を。私の使いだと言って、母上に届けて頂けますか?」
「わかった。行くぞ、ドーラ」

 デールくんが、私に向けて差し出そうかどうしようかと迷いながら手にした書類をさっさとヘンリーが奪い取り、私の肩を抱いて歩き出します。

 いやいや、男装中なんですけど私。
 王様の使いの男が男の肩を抱いて歩くとかおかしいだろう、どう考えても。

「……ヘンリー」
「廊下に出たら離す」
「……わかった」

 どうせ離すならそもそもやらなくていいだろうと言いたいが、デールくんの前で騒ぎ立てるのも何なので。
 騒ぐ間に歩いたほうが早そうなので、そのまま黙って歩きます。

 後ろでコドランがピエールに愚痴ってます。

「なーなー。なんでおいらはダメで、ヘンリーはいいのー?おかしくねー?」
「あれとて、容認したわけでは無いのでござるが。やむを得ぬ場合というものもあり申す」
「ちぇー。ま、いいや。あとで遊んでもらうから」

 それなりに馴染んでるようです。

 済まないねえ、ピエール。
 あとで遊ぼうね、コドラン。
 そしてスラリンの動じないことと言ったら。
 実は一番、大物かもしれない。


 玉座の間を出たところでヘンリーが名残惜しげに手を離し、廊下で待機していた衛兵さんに挨拶して、太后様の執務室に向かいます。

 近付くにつれ、濃くなっていく邪悪な気配。
 うん、駄々漏れですね。

 ……この雰囲気の中で十年近く、太后様は一人で頑張ってるのか。

 執務室の前に立つ衛兵さんは人間で、見慣れぬ者(ていうか私たち)の姿に一瞬警戒を高めますが。

「ああ、陛下の使いか。今日はモンスター使いか。確かに、物珍しいな。よし、通れ」

 割とよくあることらしく、用件を伝えたらあっさり通されました。


 執務室の中では、太后様をはじめとして忙しく立ち働く人間たちに、偉そうにふんぞり返る魔物たち(人間に擬態)。

 ……うん、わかりやすい。
 引き離すも何も最初から分かれてるから、正体を暴いたあとに庇うのもやりやすそうだ。

 厳しい表情で書類に向かい、指示を飛ばしていた太后様が顔を上げます。

「なんじゃ、お主ら。陛下の使いかえ?……モンスター使いか。珍しいの」

 太后様の言葉に、他の人間たちも仕事の手を止めて私たちに注目します。

「……よし。いい折りじゃ、少し休むとしよう。(わらわ)はこの者らと、話がしたいゆえ。皆の者、外せ」

 太后様の指示で、人間も魔物(人間に擬態)もぞろぞろと部屋から出て行きます。

 ……って、だからいいの?
 この国の最高権力者を、こんな不審者と、そんな簡単に。

 ……と思ったら、入り口付近に数名の魔物(人間に擬態)が残り、見張りに付いてます。
 私たちもだけど、太后様のことも見張ってるんだろうなあ。

 太后様が、改めて私の顔を眺めます。
 十年前は綺麗に着飾って、手入れも行き届いて、女として輝いてるみたいだったのに。
 飾り気も無く動きやすい服装に身を包み、すっかりやつれて白髪が増え、眉間には深い皺を刻み、厳しい表情が固定されてるみたいです。

 年齢的には、まだまだお若いんだろうに。
 色んな重圧が、こんなにも彼女を老けさせたのか。

 見詰める私をじっと見詰め返し、太后様が呟きます。

「……美しい若者じゃの。……何処ぞで、会うたことがあるかの?」
「……いえ。……いえ、もしかしたら。昔、お目にかかっていたかもしれません。……十年前に」

 私の言葉に、また太后様が私をじっと見詰めます。

「……十年、か。あの頃に、この国を訪れたのか。そうじゃの、()(なた)程に若ければ。幼い子供であったろうから、記憶に無くとも仕方が無い」

 太后様が、私からヘンリーに視線を移します。
 そして一瞬、目を見開いて呟きます。

「其方は……。……いや、そんな訳が無い。少し、似ているかと思うたが。……今更、こんな希望に縋るとは。全てを割り切ったつもりであったが、まだまだ……」
「……私が。……誰かに、似ていますか?」

 ヘンリーが静かに問いかけ、はっと我に返った太后様が答えます。

「いや、気のせいであった。それより、其方ら。なかなかに、見所がありそうな若者たちじゃの。どうじゃ?この国の国王、我が息子たるデール陛下に、仕えてみる気は無いかえ?」
「我々のようなしがない旅人に、勿体無いお言葉です。しかし申し訳ありませんが、目的のある旅の途中で」
「そうかえ。残念じゃの。差し支え無ければ、目的とやらを聞かせては貰えぬか」
「……家族を。大切な人を救い、守るための旅を。今も、この先も。続けるつもりです」

 真っ直ぐに語るヘンリーを、太后様も真っ直ぐに見返して、その表情に驚愕の色が浮かび。

「其方……!……いや、何でも無い。そうか、そのような目的あってのことであれば。無理強いは、出来ぬの」

 声を上げかけて口に手を当てて抑え、取り繕うように言葉を続けます。

「……しかし、その救いたい家族とやら。仮に親であれば、仮にも親であるならば。何より、子の幸せを願うものじゃ。この国に仕えず、旅を続けるというならば。居心地が良いとも言えぬであろうし、早々に立ち去るが良かろうの」
「お心遣い、痛み入ります。当然、目的を果たしさえすれば。すぐにも、立ち去るつもりです」

 あくまで真っ直ぐに太后様を見詰めて淡々と語るヘンリーと、込み上げるものを押さえるように、胸に手を当てる太后様。

「……妾は、少し、疲れた。もう、用は済んだであろう。下がるが良い」
「はい。太后様におかれましては、どうぞご自愛くださいますよう」

 一礼し、踵を返して立ち去るヘンリーに私も続き、背後から太后様の振り絞るような声がかかります。

「……もう。来るで無いぞ」

 一瞬足を止めるも返事はせずに、すぐにまたヘンリーが歩き出します。


 ヘンリーを追いかけて、太后様の執務室を出て。
 廊下を少し歩き、角を曲がって人目が無くなったところで、立ち止まったヘンリーに抱き締められます。

「……ヘンリー」
「……頼む。少しでいいから」
「……わかった」

 背後でまた愚痴ってるコドランとそれを宥めるピエールと、いつ通るかもしれない人のことが気になりますが。

 母親として愛してくれた人の、あんな姿を見てしまったら。
 例えば私が、ママンがあんなになってる姿を見てしまったら。
 それでも自分を優先して、気遣ってなんて貰ったら。
 きっと、平気ではいられないから。

 もう少しだけ、このままで。 
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