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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第90話

時の遡る事、数時間前。
人通りが少なく車が全く通らない道路に一台のキャンピングカーが止まっていた。
中には四人の女性が座っていた。
一人は秋物の明るい色の半袖コートを着込み、足をストッキングで覆っているこの女性の名前は麦野沈利。
土御門達が所属する暗部の組織とは別の暗部の組織「アイテム」のリーダーでありこの学園都市第四位で「原子崩し(メルトダウナー)」という能力者でもある。
その隣に座っているのが金髪碧眼の女子高生で名前はフレンダ。
その向かいに座っているのが絹旗最愛という、ふわふわしたニットのワンピースを着た。一二歳ぐらいの大人しそうな少女だ。
だが、彼女は大能力者(レベル4)で「窒素装甲(オフェンスアーマー)」という能力者でもある。
絹旗の隣に座っている肩の辺りで切りそろえられた黒髪の女性の名前は滝壺理后という名前だ。
彼女も大能力者(レベル4)で能力名は「能力追跡(AIMストーカー)」という能力の持ち主。
彼女らは「アイテム」という学園都市の暗部の組織で主な業務は学園都市内の不穏分子の削除及び抹消である。
海原がもう一つの暗部の組織に協力してもらうと言っていたのはこの「アイテム」の事である。

「つまり、この学園都市を崩壊させようと企んだ「外」の連中が入り込んでいる訳よ。」

運転席の後ろにある壁の中にはテレビが設置されていてそこから音声だけが流れていた。
この声は「アイテム」の直属の上司である。
いつも彼女らに依頼するときは音声だけを通して依頼するのだ。

「しかも、「中」の研究者のバックアップも兼ねているから装備に関しては対能力者用と考えてもいいらしいわ。」

「らしいわ、という事は誰かから情報を貰ったこと?」

「麦野の言う通り、あんた達に武器商人の所に行かせたのも、もう一つの暗部の組織からの依頼。
 それで、その暗部からの情報によると敵がいる施設が分かったらしくてそこに向かってほしいらしいわ。」

「えぇ~、面倒くさい。」

足をジタバタさせながらフレンダは子供のように駄々をこねる。

「駄々こねないの、今回は上層部の方からも協力するようにって言われているから、従ってちょうだい。
 一応、言っておくけど依頼料はなかなかいいわよ。
 なんせ、その暗部の組織からと上層部からと二つから報酬を貰えることになっているのよ。」

「やるやる!!
 私、頑張っちゃうって訳よ!!」

「全くお金が関わると途端に超やる気になりますね。」

「大丈夫、私はそんなフレンダが大好き。」

絹旗は少し呆れ、滝壺は少しぼ~っとしながら言う。
麦野はそんな彼女らを見て小さくため息を吐きながら聞いた。

「でも、場所が分かっていてどうして自分達で行かずに私達に依頼を?」

「何でもその施設が二つあるらしくて自分達の組織では対応するのに時間がかかるって言ってたわ。
 まぁ、相手は何が目的かは分からないけどロクな事を考えてなさそうだし早めに決着をつけたいんじゃない。」

「確かに今は大覇星祭中です。
 何か問題が起きれば父兄の人達に超不満を与えてしまいますからね。」

「そういうこと。
 それでどうするの?
 まぁ、今回は拒否権はないみたいだけど。」

「ギャラも良さそうだし、受けるわ。
 みんなも異論はないわよね?」

麦野は他の三人の顔を見回す。
誰も首を横に振る者はおらず、それを見た麦野は小さく笑った。

「それじゃあ行きますか。
 「外」から来たクソ野郎どもに後悔させてやらないとね。
 この学園都市の闇を甘く見た事を。」

施設の場所を聞いた麦野は近くまで車を走らせる。
元々、麦野達がいる所は父兄や一般生徒は寄り付かない所なので目立つことなく目的地まで移動する事が出来た。
キャンピングカーから降りようとした時、テレビからさっきの女性の声が聞こえた。

「そうそう、一つ言い忘れてたわ。」

キャンピングカーを降りようとする麦野の足が止まる。

「何でも学園都市の生徒の一部が行方不明らしいのよ。
 さっきの連中の事もあってか調べてみると寮には居らず、行方不明。
 おそらく、「外」の連中が拉致した可能性が高いからその生徒達が幽閉されている所をちゃんと吐かせてね。」

それだけ言って通話が切れる。
麦野はただ殺すだけだは駄目な依頼になった事に少し苛立つ。
その事を三人に話すと、面倒くさそうな顔をする。

「別に気にしなくても良いでしょ。」

「駄目よ、そうじゃなきゃギャラが無くなる可能性があるわ。」

「首謀者でも捕まえて超尋問すれば分かるでしょう。」

「絹旗の言うとおり。
 それじゃあ、さっさと終わらせるわよ。」

四人は目の前にある施設に向かって歩き出す。
おそらく研究施設だったのだろうが今はその面影はない。
ボロボロで廃工場にも見えなくないくらいだ。
中に入る扉があるが、麦野の能力でレーザーのような光線を出して破壊する。
麦野の「原子崩し(メルトダウナー)」は本来「粒子」又は「波形」のどちらかの性質を状況に応じて示す電子を、その二つの中間である『曖昧なまま』の状態に固定し、強制的に操ることができる。
操った電子を白く輝く光線として放出し、絶大なる破壊を撒き散らす。
正式な分類では粒機波形高速砲と呼ばれる。
「曖昧なまま固定された電子」は「粒子」にも「波形」にもなれないため、外部からの反応で動くことが無い「留まる」性質を持つようになる。
この「留まる」性質により擬似的な「壁」となった「曖昧なまま固定された電子」を強制的に動かし、放たれた速度のまま対象を貫く特殊な電子線を高速で叩きつけることで、絶大な破壊力を生み出す。
四方八方へ同時に放つこともでき、それら一つ一つが金属すら紙のように容易く貫き溶解させる。
なので、鉄の扉など簡単に破壊する事が出来る。
四人が中に入った瞬間だった。
ガチャン!、と三〇ほどのマシンガンの銃口が一斉に麦野達の方に向けられる。

「やぁ、暗部の諸君。
 初めまして、私は八雲静流という者だ。」

その三〇の拳銃を構えた中で唯一銃を構えず、警備員(アンチスキル)のような対能力者用防具服に身を固めた男が立っていた。
年齢は二五歳程度で、髪は黒髪の短髪だ。

「その口調に、この歓迎。
 私達が此処に来ることは知っていたみたいね。」

「ああ、優秀なハッキング能力を持った研究者が居てね。
 彼から暗部の情報はほとんど筒抜けだったよ。」

八雲は余裕の態度を崩さない。
おそらく、勝てると思っているのだろう。
麦野の方もこの程度で勝ったと思っている八雲の思考に思わず笑みを浮かべる。

「たかが、マシンガン程度の拳銃を向けて勝てると思っているの?」

「無論、そうは思わない。
 君達の能力を調べさせてもらったが、この程度では足止めが精々限界だろうな。
 だからこそ、対策は既に考えてあるのだよ。」

その瞬間だった。
麦野達全員に強烈な頭痛を感じたのは。
あまりの頭痛の痛みに片膝を折り、右手でこめかみを押える麦野。
後ろの方では同じように頭を手で押えている絹旗やフレンダ、滝壺に関してはうつ伏せに倒れている。
拳銃を構えている男達の後ろには登山用の様なリュックサックを背負った男達が一〇人ほど立っていた。

「AIMジャマーという装置でね。
 簡単に説明すると、君達の身体から流れるAIM拡散力場に干渉して乱し、混乱させる装置だそうだ。
 後ろに倒れている黒髪の女の子の能力は「能力追跡(AIMストーカー)」だったかな?
 だとすると、君達より影響がずっと大きいかもしれないな。」

麦野達が膝を折り、苦しんでいる所を見て嬉しそうな笑みを浮かべる。
滝壺の能力である「能力追跡(AIMストーカー)」は能力者から流れるAIM拡散力場を記憶して、追跡する能力だ。
記憶すれば、たとえ太陽系の外に出ても追い続け検索・補足出来る。
その為か能力を発動しなくても他のAIM拡散力場を感じているらしく、AIMジャマーは彼女にとって天敵の一つだろう。

「調子こいてんじゃねぇよ!!」

麦野は激しい頭痛を覚えながらも、そのまま走って八雲の所に向かう。
そのまま右手で拳を作り、八雲に殴りかかる。
他の男達は引き金を引きかけるが、八雲がそれを止める。
八雲は麦野の拳をかわすと、右の肘で麦野の腹に向かって突き出す。
真っ直ぐ向かって来ていた勢いと、突き出される勢いが加わり、麦野はコンクリートの地面に転がる。

「君は能力以外でも腕に覚えがあるようだが。」

八雲は肩を回しながら、腹を押えて倒れている麦野に近づく。

「君達こそ私達を甘く見るなよ。
 能力というハンデがなければ君達は少し腕っぷしが強い女だ。
 そこいらの不良には勝てても、実戦経験や訓練を積んだ私には到底勝てないよ。」

今度は脇腹を思いっきり蹴り上げ、絹旗達のいる所まで蹴り飛ばす。

「ちょ・・う・まずいです。
 このま・・まじゃあ・・・・・はちのすです。」

「わたした・・・ち・・しんじゃ・うってわけ?」

絹旗はこの状況をどうやって打破するか考えるが、頭痛が考える事を邪魔をして上手く考えられない。
麦野は脇腹を押えながら、ゆっくりと起き上がる。

「おまえ・・・は・・・わたしがぜったいに・・・ころす。」

「まずはこの状況を抜け出してから言うんだね。
 もういい、射殺しろ。」

八雲は麦野達に背負向け、そう指示する。
それと同時にマシンガンを持った男達は照準を合わせ直す。
その時だった。
ドオオオン!!!!という音と同時に施設の壁が吹き飛んだのだ。
いきなりの爆発にその場にいた全員が驚く。
マシンガンを構えた男達は、粉塵が巻き上がる土埃のカーテンに向けて照準を合わせる。
その土埃のカーテンから声が聞こえた。

「あの野郎、絶対に俺に恨みかなんか持っているだろう。」

それは男の声だった。
徐々に土煙のカーテンが晴れていく。
そこには一人の男が立っていた。
黒のロングコートに黒のジーンズに黒のスニーカー。
髪は短く色は白髪だ。
男は頭をかきながら独り言を呟いていた。

「まぁ、海原の予想も当たっていたみたいだしな。
 さっさと終わらせて帰るとするか。」

面倒くさそうな表情を浮かべた男、麻生恭介が土煙のカーテンからそう呟きながら現れたのだった。 
 

 
後書き
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