私立アインクラッド学園
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第二部 文化祭
第40話 本当の気持ち
「……捜せ、と言われましても」
俺はぽりぽりと頭を掻きながら、一人呟いた。
どこをどう捜せばいいのやら。ていうか見つけた後どうすればいいのやら。
考え込んでいると、ふいに脳裏に響く声があった。
──答えは1つでしょ。
凛とした、女性の声。
もちろん自分のものではない。アスナでも、直葉でも、シリカでもリズベットでも、まりあでもない。では一体、誰なのだろう。
しかし、今はそんなことどうだっていい。今やるべきことは、とにかくアスナを捜すことだ。──と、何度も切り換えようとするのだが
「……捜せ、と言われましても」
また同じ思いに至る。
どこをどう捜せばいいのやら。ていうか見つけた後どうすればいいのやら。
「って、もういいよ!」
自分に自分でツッコミを入れるこの虚しさ。
──早く行ってあげて。
再び脳裏に響く声。さっきと同じものだ。
一体、誰?
そう思いながら首を傾げていると、後方から、ぱたぱたと走ってくる足音が聞こえた。
その音はとっても軽やかに、速いリズムで近づいてくる。
「……キリト君!」
響いたのは、さっきの声ではない。
これは、俺がよく知る声。よく通る、美しい声。
──俺が大好きな音色。
「キリト君……!」
そう言って、俺の右手を必死に、しかし優しく掴む。
俺はまだ後ろを振り返っていないけれど、相手が誰かくらいわかる。誰よりもわかる。
俺は振り返り、相手の名前を呼ぶ。
「……アスナ」
長距離を走り続けてきたのか、アスナは両膝に手をついて、息を切らした声で言う。
「わたし……すごく、寂しかった。このまま……二度と君の隣に……いられなくなっちゃうんじゃないかって」
「……」
「君に……ちゃんと想いを、伝えられなくなっちゃうんじゃないかって」
アスナは姿勢を正すと、細い手を俺の頬にあてた。
「わたしね、本当は君のことが大好きだよ」
可憐な顔に、にっこりと笑みを浮かべる。
「わたしと……付き合ってください」
俺の答えは決まっている。
「わ、わあ……言っちゃった。……わたし、こういうの初めてだから……ドラマとかで聞いたようなセリフしか言えないけど、それでもわたし」
「俺も、アスナのこと好きだよ」
瞬間、アスナの顔がぱあっと綻ぶ。
「じ、じゃあ」
「けど、断る」
「えっ……?」
アスナの顔が泣き出す寸前のように歪む。
「俺から言う」
しばしの間。今にも泣き出しそうだったアスナの顔は、呆気にとられたようにぽかーんとしている。
「は、はあ……?」
「女の子から言わせるとか、格好つかないだろ」
「う、うん……」
アスナが顔を紅潮させる。しかし、真っ直ぐにこちらを見つめている。
「……つ、付き合ってください」
アスナが見せた最上級の笑顔を、俺は生涯忘れないだろう。
「……はい」
そっと頷いたその頬を、一粒の大きな涙が流れた。
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