少年は魔人になるようです
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第75話 少年は運命と出会うようです
Side ネギ
「よし、準備完了!」
「随分重装備でやすねぇ、アニキ。」
「まぁ、一応ね。剣とか魔法銃とかなんて使わないって言うか今更使えないけどさ。」
昨日の最終試練から一夜明けて、魔法世界に行く当日。
何とかお目溢しを貰って試験に合格した僕達は、一週間+α分の荷物をそれぞれ用意していた。
僕はと言えば、生活必需品よりも魔法道具が多い有様。・・・これでいいんだろうか?まぁ良いか。
「何と言うか………お前は無駄に無駄と言うか、遊び慣れてないと言うか。そんなもんよりこれ持ってけ。」
「うわ!?っとと、愁磨さん。これなんですか?」
「全員分の抗魔のお守りだ。B級程度の上級魔法なら一発は耐えられる。」
「そ、そんな物を全員分………ありがとうございます。」
「いや、それなりに無事に帰って来てくれんとジジイに祟られるからな。こうしておけば一応恰好がつくだろ?」
『首都から出なければ安全だろう』、そう言って愁磨さんは、今まで入った事の無い魔法陣に乗って何処かへ
転移してしまった。・・・出なければ、か。出た先は自己責任って事ですね。
・・・あれ?これってフラグとか言うものじゃ・・・。
「いやいやいやいや、不吉な事は考えないようにしよう。」
「そ、そうですぜアニキ。メガロメセンブリアって言やぁ、元老院お抱えの魔法警備隊が四六時中巡回、
そもそも入国審査の時点で怪しい奴はトンボ帰りか地下牢いきでさぁ!」
「待ってカモ君、それ以上言わないで!なんか言うほどフラグが強化されていく気がする!!」
ああ、危ない危ない・・・。只でさえ不安なんだから心労を増やさないでよね。
荷物を持って集合場所に行くと、既に皆が準備万端と言った風で待っていた。
「皆さん早いですね!もう準備は済んだんですか?」
「おっそいわよネギ、あんたが一番最後!女より準備長いなんてモテない……心配いらないわね、あんたの場合。」
「一言余計ですよ!と言うか千雨さん。まさかあなたが、その、進んで来てくれるなんて。」
「べ、別にあたしはそこの連中と違うぞ。あの意味不明教師に聞きたい事が山ほどあるってだけだ。」
「……全く、騒がしい奴等だ。散々騒いだのだから、出発する時くらいパッと行けないのか?」
「エヴァちゃん、そう言うものではありませんよ。」
「ネカネ!貴様エヴァちゃんと呼ぶなと何回言ったら分かるのだ!」
僕達が騒いでいたら、珍しい組み合わせ――エヴァンジェリンさんとお姉ちゃんが歩いて来た。
・・・五月蠅いと言いつつ、あの二人も騒いでるんだけどな。
と言うか、エヴァンジェリンさんを『エヴァちゃん』呼ばわり・・・ああ、お姉ちゃんが遠いよ。
「コホン。まぁいい、私達がお前らを魔法世界へ連れて行く。正確にはゲートまでの道を開くだけだがな。
観光の準備は整ったか?」
「「「おーーー!!」」」
「元気の良い事だ………。と言う訳で、行って来い。」(パチンッ
と、エヴァンジェリンさんの指パッチン一つ。何の風情も感慨も無い様で、目的地へ送られる。
着いたのは忘れもしない・・・ウェールズ、僕とお姉ちゃんの第二の故郷。
「……すごく、久しぶりな気がするな。アハハ、たった半年なのに。」
「ええ、そうね。私なんてつい一週間前なのよ?フフフ、あの人達といると時間間隔おかしくなっちゃうわね。」
「お姉ちゃん、それはダイオラマ球の中にずっといるからだよ………。
皆さん。出発まで大分時間ありますし、魔法世界の前に此処の観光でもどうですか?」
「「「さーんせー!!」」」
出発する夜中まで20時間強・・・久しぶりの故郷を見回ろうと思っていたし、観光も兼ねて皆で出発する。
僕達の家、アーニャと通った学校、タカミチと少しだけ修業した場所・・・。
あった事を今でも事細かに思い出せる。思い出せる分だけ・・・ちょっと遠い。
そして、散々騒いで回った夜。
「ネギ、久々じゃのう。」
「おじいちゃん!お久しぶりです、帰って来ました!」
「……中国には『男子三日合わざれば括目して見よ』と言う諺があるが………成程、見違えたぞネギ。
おお、近右衛門と愁磨殿からよろしく聞いとるぞ。中々難儀した様じゃのう。」
「いえ、その…………ハイ、凄く。」
再度学校に来ると、校長先生(今更ながら名前を聞いた事が無い)が待っていてくれた。
・・・ここに来る前、どうしてもやっておきたい事があったから、手紙を出しておいたんだ。
「その目を見れば、覚悟が見て取れるがの。……あの娘っ子達、見たぞ。さぞ良い学園なんじゃろう。
過去を見ずあの子らと楽しく生きる道もあろう。誰も責めんぞい。」
「……それは、僕には出来ません。それに、他の誰でもない僕が許せない。」
「くっくっく、頑固じゃのう。若い頃の頑固は美徳には成り難いぞ?」
「うぐっ………愁磨さんにも言われました。努力します。」
「……………さて、ついて来るとよい。」
「……………ハイ。」
出会いと久しぶりの挨拶を済ませ、校長先生について行き地下へ続く螺旋階段を下りて行く。
その先にあるのは―――
「スタン、おじいちゃん………コロナおばさん………。」
「あの事件の後、お前の村の者達は皆ここへ運ばれた。愁磨殿が態々不変の魔法をかけての。」
「………スタンさん、コロナおばさん、僕です。ネギです。
……あれから6年も経つのに、あなたはあの時のままなんですね。」
目の前に広がる、石像、石像、石像。しかし、そのどれもが見た事のある顔をしている。
・・・僕の、本当の故郷。あの雪の夜、悪魔達に石化させられそのままになった、村の人達。
「おじいちゃんとおばさんが助けてくれなかったら、僕も皆と一緒に………。
あなた達のお陰で、僕は、今ここに居ます。今日はその報告と………謝罪に来ました。」
謝罪は、心の中だけで。『あなた達の仇の悪魔を目の前にしながらも、何もできませんでした』と。
「ネギよ、今日お前にここを見せたのは一歩前に進めるようにと願ってだ。
決してお前の小さな背に、重荷を背負わせようなどとは………。」
「分かっています。この半年で、一人で出来る事は本当に少ないと散々思い知ってきましたから。」
「なーに分かったような事言ってんの!結局一人で来てんじゃないのよ!」
「あ、アーニャ!?それに、皆さんも……。」
報告も終わり帰ろうかと思った時、アーニャが皆を連れて階段を下りて来た。
・・・こんな場所を見せるなんて何のつもりなんだ。
「何よ、皆協力してくれてんじゃない。あんたの目的?ってのを見る権利あるわよ。」
「ネギ、これが…………ネギの?」
「……はい、僕の村の人達です。」
「あーもー!相変わらず辛気臭いとこねぇ!ポーズ取ってるのネットで売れば儲かるんじゃないのー?
あ、ホラ明日菜。このオジサンなんてどうよ、好みじゃない?」
「た、確かにカッコい……って、ちょっとアーニャちゃん、不謹し―――ね、ネギ?」
そんな事を言いつつ、トコトコと奥へ歩いて行くアーニャ。
文句を言いに行こうとする明日菜さんの袖を掴み、止める。・・・その先に居るのは―――
「…………あの石像、アーニャのお母さんです。」
「え……!?そ、そっか、アーニャちゃんも………。」
「僕よりも先に、校長先生に教えて貰ってたらしいです。それで、ここに来てはああやっていたそうです。
……校長先生、ありがとうございました。僕達はそろそろ戻ります。」
「そうか。では、今夜遅れんようにな。」
それだけ言って、校長先生は階段を上って行った。僕達も少しして階段を上って村に戻る。
皆で暫時の宿舎である僕達の家へ歩いて帰っているんだけれど・・・どうも、皆沈んでいる。
嫌だなぁ、こうなると思ったから見せたくなかったのに。
「……あんた、大丈夫なの?その、今更だけどさ。村の皆があんな事になって………。」
「大丈夫です!………って、言えたら良いんですけれど。アハハ、やっぱり改めて見ると辛いですよ。
でも、それでいいんです。あの場所こそ僕の出発点で、終着点なんです。
………だから、皆に会えてよかった。スタンさん達に笑われないようにしないと!」
「ネギせんせー………。わ、私達も、精一杯頑張ります!」
「そうアル!もう自分だけの問題と思わない事アル!」
「あ、ありがとうございます、皆さん。」
・・・やっぱり、誰かと居るって言うのは心強い。こんな皆だからこそ、余計に。
愁磨さん、ノワールさん。あなた達くらい強くても、僕と同じ気持ちになるんでしょうか?
だったら―――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
subSide フェイト
『フェイト、首尾はどうだ?』
「愁磨の真似をするなら、首尾は上々あとは結果を御覧じろ・・・って所だよ、ツェル。」
『お前もお巫山戯が入るようになって来たな……。喜ばしい事ではあるが。
段々と警戒も強まり、警備も強くなっている。一応気を付けるがよい。』
「・・・自分の"友"くらい信じなよ。じゃあ、また後でね。」
旧世界のある地点・・・魔法世界と繋がるゲートの一つ。こちらではストーンサークル、とか言うらしいね。
準備が第二段階に入った時点からツェルに頼まれてた事だけれど・・・いい加減面倒になって来た所だ。
態々旧世界側から入らないと、扉を閉じられないと言うんだ。
「・・・まぁ、これを終わらせればあと二つ。魔界化したオスティアとケルベラス渓谷の最奥。
どちらも旧世界人が一分と生きていられない場所だ。つまり―――」
―――ここを閉じれば、計画が成った後の憂いはほぼ無くなる。
僕の愛する人の悲願の為に。今日偶然居合わせた者達には、悪いけれどついでに死んで貰う事になる。
「・・・僕には関係無いね。行くよ、『不可能を冠する者』『可能を関する者』。
我らが"王"の為に。」
Side out
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やぁネギ君、皆さん、待っていましたよ。」
「クウネルさん!?と、あなたが案内役ですか?」
「巫山戯た名前かましよってからに……。其奴の本名はアルビレオ・イマ。
ワシはお初じゃな。名はゼクト。お主の父の師匠をやっとった。」
「と、と、父さんのお師匠さん!?あ、初めまして。ネギ・スプリングフィールドです。」
村から暫く歩くと、言われた通り大きな岩が見えて来て、そこに武闘大会て戦ったクウネルさんと小さい人が。
自己紹介され、皆さんの紹介もしておく。・・・ま、まさか魔法世界に行く目的の半分の目処が立つなんて。
でも、楽観視は出来ない。彼らが教えてくれるとも限らないし。
「フッ、ナギの息子とは思えん礼儀正しさじゃな。ああ、エr……おっと、愁磨に怒られてしまうな。
まぁ世間話はこれくらいにしておくかの。」
「ええ、そうですね。そろそろ……霧も晴れる頃です。」
「霧が急に……?って、こ、これは!!」
「ストーンサークル……!?こ、これほど巨大でしっかり形が残った物が現存してるですか!?」
クウネル・・・もといアルビレオさんの言葉とほぼ同時。辺り一帯を覆っていた霧が一気に払われ、
僕達がいた岩を中心にストーンサークルが現れた。
校長先生の話だと、所定の儀式をしながらじゃないと来れない筈なのに・・・。
「ええ、面倒でしたので、失礼ながら遠距離から儀式を済ませて頂きました。」
「そんな大雑把でいいのでござるか?魔法世界へと通じる重大施設までの道でござるよ?」
「なに、ワシとアルの腕と許可があって初めて出来るのじゃ。許可無しでこんな芸当が可能なのは、
阻害魔法特化のS級魔法使いか……愁磨くらいじゃろうな。」
またあの人は・・・って、そんな事はどうでもいいとして。僕達が話していると、段々人が集まって来た。
それも10人20人じゃない。・・・僕が思ってたよりも、魔法世界って開けた場所なのかも。
「ん………?」
「お?何アルかネギ坊主?」
「あ、いえ、なんだか変な空気を感じて。……アルビレオさん、ゼクトさん。」
「私は何も感じませんね。ゼクトは?」
「……………いや、ワシの方も異常無しじゃ。敵意その他、攻撃的な意思は何も検知にかからん。
それに、ここの結界は大魔導士達が創ったのじゃぞ。入り込めるとしたら………いや、それこそ有り得ん。」
「そうですか………すみません、緊張しているだけだと。気のせいですね。」
さっき一瞬感じた重い雰囲気を払う様に、頭を二、三度振る。
きっと、魔法世界に近い場所だから魔力が濃い・・・とかそんなところだろう。
カラ―――ン カラ―――ン カラ―――ン
「おや、漸く移動出来るようですね。」
「おおっ!やっと魔法世界に行けるんだね!!」
「全く……もう少し融通が利いても良いと思うがの。そら、中心におらんとどこに飛ぶか分からんぞ。」
「えぇっ!?そう言う大事な事は先に言いなさいよね!」
ゼクトさんの突然の言葉に、僕達は慌てて中心へ向かう。皆が中心周辺に集まると、大岩から天空へ向かって
幾重にも重なった巨大な魔法陣が延び、ストーンサークルはどんどん光を増して行き、辺りを霧の様に白く包む。
そして収束し―――
ドンッ!!
光の柱となって天に消えて行った。
Side out
Side ―――
―――パシィッ
「………………あれ?もう着いたんですか?」
「ええ、着きましたよ。ここが魔法世界です。」
「早っ!もう少しなんかあるかと思って期待してたのに!」
「フフ、あそこを上れば入国審査前に外を見られますよ。」
「よっしゃ、一番のりぃーーー!!」
「あ、パルずるい!待ってよー!」
ネギ達を包んでいた光は一瞬で晴れ、次の瞬間には同じ形のストーンサークルが現れた。
しかし周囲は草原ではなく、白を基調とした、如何にも"異世界のワープゲート"と言った場所だった。
アルビレオの進言に、居てもたってもいられないと言った様子で図書館島組三人とまき絵が階段を駆け上がり、
展望テラスへ飛び出る。そこに広がる風景―――
「すっ……ごー……い!」
「わっひゃぁー!いい、いいね!!流石ファンタジー世界!いやぁ来て良かった!
修業とかも面白かったけど、こういうのが見たかったんだよ!!」
「クジラが!超でっかいシャチとかイカも空飛んでるよ!マジ凄い!!」
「へっ、なんだこんなもんか。もっと現実離れしたメルヘンチック満載な場所かと思ったぜ。」
「何言ってんの千雨っち!この目の前に広がる光景を見てメルヘンだと思わないの!?」
「それこそ今更だ、何言ってやがんだ。あの学園も十分メルヘンだったろうが。
それに……あの街並み見りゃ分かる。ここは現実と同じ厄介で面倒なメルヘンの欠片も無い世界があるだけだぜ。
どっちにしろくだんねぇ。」
後から歩いて来た千雨も加わり、周囲の人に見られながらもギャーギャーと騒ぎ立てる。
同時、階下に残った者は全員入国審査のカウンターへ向かい、手続きを進めていた。
・・・そのカウンターで、ネギが受け付けのお姉さん達に握手を求められ、小太郎が蔑んだ目で見ている。
「ホンマお前っちゅー奴は………修業以上に女共とイチャコラせんと気ぃ済まんのかいな。」
「い、いや僕は何もしてないよ?少なくともこの件については――」
「「「「―――――!!」」」」
握手し終え話していたネギと小太郎、そしてアルビレオとゼクトの四人が、同時にそれに気づく。
「この、感覚は………まさか!」
「オイオイオイ、まさかんな訳無いやろ?一大事なんてもんやないぞ!!」
「くっ!ゼクト、上に行ったお嬢さん方を!!」
「アレ相手に三人か……!死なぬ事だけ考えよ!」
「ちょ、君達!此処での魔法使用は禁止されているんだよ!」
ネギ・小太郎・アルビレオはその場に留まり防衛、ゼクトはテラスに行ってしまった四人の護衛へ急行する。
その僅か100m離れた場所、気配を消していた内二人はフードを脱ぎ捨て、詠唱を始める。
そしてもう一人・・・フェイト・アーウェルンクスは憮然としながらも納得がいかない様子で―――
「………気配は消していたつもりなんだけれどね。まぁ仕方ない。
英雄二人と彼らがいるのは想定外だけれど…………ツェルへの良い手土産だ。」
ドゥッ!!
石の槍を、無詠唱で放った。
Side out
ページ上へ戻る