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第十四章
第十四章
「ですがそれは」
「何か」
「そしてです」
警部は今は二人の質問に答えずにそのうえで今度はアンジェレッタについて話すのだった。
「アンジェレッタさんはイタリアですね」
「ええ」
アンジェレッタもそれに応えて頷いた。
「そうですが」
「日本もイタリアも食べ物には定評があります」
そのことを話してきたのである。
「ですが我が国はです」
「そうではないと」
「そう仰りたいのですね」
「流石にイギリスよりはましです」
ここでイギリスを話に出して来るのが如何にもアイルランド人だった。アイルランドはイギリスに八百年もの間苛烈な支配を受けてきた。その最たるものがクロムウェルのアイルランド植民地法であり十九世紀のジャガイモ飢饉である。とりわけジャガイモ飢饉では百万もの餓死者を出してしまった。そうした経緯からアイルランドはイギリスという国を深く怨んでいるのである。それを警部も出してきたのである。
「あの国の食べ物は食べ物ではありません」
「そこまでだというのですね」
「御存知ですよね」
本郷に対してあらためて問うてきた。
「それは」
「はい。イギリスでも仕事をしたことがありますから」
「ではおわかりですね」
「日本であの味で出したらかえって繁盛しますよ」
何と潰れるというのではないのだ。
「あまりものまずさで怖いもの見たさというやつで」
「日本人は変わってますね」
今の言葉を聞いた警部の偽らざる感情である。
「まずいものが繁盛するのですか」
「あまりにもまずいとかえって人気が出ます」
本郷は笑いながらそうした事情を話すのだった。
「それだと」
「その怖いもの見たさですね」
「はい。アイルランドではそれはありませんか?」
「少なくともイギリス料理についてはありません」
ここでイギリス嫌いを見せる警部だった。
「イギリス料理を食べるとアイルランドではアイルランド自体に喧嘩を売っていると認識されますのでそのことは御注意下さい」
「そこまでなのですか」
「はい。ですから」
ここまで話してであった。
「御注意を」
「わかりました。それではです」
「はい。それでなのですが」
あらためて三人に言ってきた。
「アイルランド料理は宜しいでしょうか」
「寿司を食いに行こうと思っていたのですが」
「私もです」
本郷に役、二人共であった。
「寿司を食べたくなりましたので」
「ですから」
「寿司ですか」
警部は寿司と聞いて今度は微妙な顔になった。
「それはどうも」
「お嫌いですか、寿司は」
「生の魚は」
こう言うのである。
「どうもです」
「そうですか。だからですか」
「はい、それに高いですし」
経済的な理由もあるのだという。
「アイルランドではかなりの御馳走です」
「素材がないからですね」
「この辺りでは日本人が食べる魚はかなり少ないですし」
警部は今度は残念そうに述べた。
「あるのは鱈に鮭位です」
「ですね。いや、俺はですね」
本郷は戸惑いながら話していく。
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