戦国異伝
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第百三十九話 千草越その七
飯を食い落ち着いた、そして茶を飲んでくつろごうとしていると。
今度は帰蝶が来た、帰蝶は平手とは全く違い静かに彼の前に現れた、そのうえで彼の前で三つ指をついてからこう言った。
「ようこそお帰りに」
「随分落ち着いておるのう」
「わかっておりました故」
だからだというのだ。
「殿が変えられるのは」
「それでか」
「はい、焦ることも不安になることもありませんでした」
それも全くだというのだ。
「ただお待ちしておりました」
「そうか」
「はい、それでなのですが」
「茶を淹れてくれるか」
信長はその帰蝶に微笑んでこう頼んだ。
「久し振りにな」
「では」
帰蝶もその言葉に応える、そしてだった。
信長は帰蝶が淹れたその茶を飲んだ、そのうえで微笑んでこう言った。
「しかし大変なことになりましたね」
「浅井のことか」
「はい、全く以て」
そうだというのだ。
「まさか長政様が裏切られるとは」
「あ奴が心からそうしておると思うか」
「いえ」
それはないとだ、帰蝶も読んでいた。
「それはないかと」
「そう思うな、そなたも」
「やはりこのことは」
「久政殿じゃな」
「あの方もまさかと思いますが」
「何かあるのやもな」
眉を曇らせてだ、信長は言った。
「浅井家にはな」
「そうかも知れないですね」
「しかし今それを確かめる術はない」
織田家には、というのだ。
「残念ながらな」
「読むことは出来ますが」
「しかしじゃ」
確かめることは出来ないというのだ、それはだ。
「そこが厄介じゃな、しかし」
「それでもですね」
「浅井は降すしかない」
信長は帰蝶に強い声で言った。
しかし言った言葉はこれだけではない、同時にこうも言ったのである。
「だが猿夜叉を死なせるつもりはない」
「あの方が裏切ってはおられないからですね」
「あ奴は人を裏切らぬ」
この確信もあった、それにだった。
「しかも天下の為に必要じゃ」
「それだけの方だからですか」
「何としても死なせはせぬ」
絶対にだおいうのだ。
「浅井家の者達もじゃ」
「では浅井家は降してもですか」
「織田家に入れて終わりじゃ」
無論長政には頭を下げてもらう、しかし信長はそれ以上のことは全く望んではいなかった、それで終わりだったのである。
「久政殿が問題ならな」
「久政殿だけがですか」
「腹を切ってもらうしかないが」
だがそれは彼だけだというのだ。
「市も他の家臣達も死なせはせぬ」
「では」
「そうじゃ、猿夜叉は何としても助けたい」
「ですが。考えてみますと」
帰蝶はここまで聞いて信長に言った、彼女も長政の性格を知っているがその性格はというのだ。
「長政様は非常に生真面目な方ですので」
「しかも裏切りは許さぬな」
「そうした方ですから」
だからだというのだ。
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