とある英雄の逆行世界
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幼年期編
第2章
美琴ちゃんの彼氏(暫定)を餌付けしよう by 美鈴
前書き
かなり期間が開いてしまいましたが、続きです。
今回は基本大人たち視点の話となります。
「ムニャ…」
美琴は自分の膝の上で眠る男の子を見てやさしく微笑む。
そこには当麻に会えた驚きと安堵、そして当麻に対する慈しみや愛情など様々な感情が入り乱れていたのだがそれでもその笑みはとてもきれいで優しい物だった。
“上条当麻”御坂美琴の思い人。ここに来る前の世界では死んでしまっていた人。美琴にとってたぶん“世界”より大事な人。それは世界が変わっても変わらない。
ただ美琴は一つだけ心に決めていることがある。それはこの世界の上条当麻とあの世界の上条当麻を別々の人物として扱おうというものだ。
だからいま自分が向けている恋心は“あの”上条当麻の向けた物であって“この”上条当麻へのものではない。
それでも当麻が今この世界に生きてくれていることが嬉しい。美琴はそれだけでいいと思っている。
でも将来、“あの”上条当麻に向けていた感情と“この”上条当麻にむけている感情が重なる時が来たら素直になる。
後悔をしないように。またあんな思いをしないために。それだけは美琴は心に決めている。
(だからそれまではそばにいさせてよね?できればそれからもずっと…)
「美琴ちゃんいる~?」
そんな風に思っていると公園の入口の方から美鈴がやってきてきょろきょろしていた。
美琴としては当麻を起こしたくないため大きな声を出したくないし出させたくもないのだが。
しばらくきょろきょろした後、美琴を見つけたのか美鈴はベンチの方へと歩いてきていた、ちなみに背もたれに隠れて当麻は美鈴からは見えてなかったりする。
「美琴ちゃん寝てるの~?」
「ママ、しー!」
「あら?美琴ちゃんこの子どうしたの」
当麻を見つけた美鈴の顔は驚きからどうしようもなくやさしいものへと変わったのだった。
とある番組で特集があった。番組の目玉は“疫病神”。とても運が悪い子が世の中にはいるらしく小学生であるらしいその子を“見せ物”にした番組だった。
テレビをつけるとたまたまその回が放送されていた。もちろん胸糞悪くてすぐにチャンネルを変えた。
子供を守るべき大人が子供を守るどころか、それを見せ物にしているという事実が無性に悲しかった。
ママ友の話だとその番組は生の声を聞くためとして取材はアポを取らずに行い、無神経にそして無遠慮に根掘り葉掘り聞き、それを番組で流すようなものだったらしい。
そしてその番組の視聴率は他に番組に比べてだいぶ高い、というのが私はとても悲しく感じた。そしてその子の両親の心情を考えると無性に悲しくなった。
それ以降、そのテレビ局の関わる番組は一切見ていない。
美琴ちゃんに膝枕されていた男の子、名前を上条当麻というらしい。
ツンツンした髪の毛に小学生くらいの男の子、この子に私は見覚えがあった。あのテレビに映っていた子だ。
いまの時刻は午前11時半、小学生である彼が平日のこの時間帯になんでこんな場所にいるのだろうか?
そこまで考えて私はある推測に行き着いた。あの番組、不幸なことが起きる、そして学校に行かずにこんな場所にいる。
(いじめ…でしょうね)
子供は自分と違うものは排斥する傾向がある。多分に想像が含まれるが少年のクラスメイトの親御さんたちは少年に関わるなとでも言っているだろう。
そしてそんなふうな対象にされた少年が周りからいじめの対象にされるのはある意味必然であったのかもしれない。
そしてこれも推測だが少なくとも教員は静観の構えでいるのではないだろうか。
味方してあげたいけれどこの子だけ特別扱いできない、という類のほうであると信じたいところではある。
そんなことを考えながら私は美琴ちゃんと美琴ちゃんに膝枕されている当麻くんのほうをみる。
当麻くんの方は安心しきった顔で寝息を立てていた。そんな当麻くんを美琴ちゃんは私がいつも美琴ちゃんにしてあげている見よう見まねだろうか、やさしく彼の髪を撫でていた。
そんな美琴ちゃんの表情はかなり大人びて見える。
今年6歳になる娘に抱く感想ではないと思うがそう思ったものは仕様がない。まぁ普段から大人びた行動をとる子ではあるのだが。
…?そう考え少し違和感を感じたがそれはすぐに消えていった。
(これじゃ当麻くんとどっちが年上かわかんないわね~)
「あれ、みこと?」
「あ、起きた?」
そんな風に考えているうちに当麻くんが目を覚ましたみたいだ。
「おれねてたのか…」
「うん、ぐっすりとね」
当麻くんはそういうとゆっくりと美琴ちゃんの膝から起き上がる。そして私の方に気が付いて少しおびえたような表情をした。
(こりゃ、友達のお父さんお母さんたちからもいろいろ言われてたんでしょうね…。ひょっとすると両親からも…)
「えっと、おねえさんだれ?」
「美琴ちゃんのお母さんの御坂美鈴よ。上条当麻くん」
わたしは当麻くんを脅えさせないように努めてやさしくこえをかけた。それにしてもわたしのことをお姉さんとは、この子よくわかってるじゃない。
「みことのおかーさん?」
「うん。わたしのママ」
当麻くんは美琴ちゃんの方を向くと確認をとる。というか美琴ちゃんにはこんなに信頼しきった表情を向けるのかこの子。
いったいわたしのいない1時間くらいの間に何があったんだろうか。
「ねえ当麻くん1つ質問なんだけど」
「えっと、なんですか?」
すこし怯えた感じに返された。うん、すっごいショックだ。だがこれくらいで挫けてはいけない。
「おなかすいてない?」
私のその言葉に返事を返したのは目の前の二人の『ぐぅ~』というおなかのなる音だった。
「みこと、これすっげぇうまいな」
「まぁ、ママは料理上手だしね。ママ、当麻がおいしいってさ」
「ありがとねー、当麻くん」
当麻くんは私がそう言うと少しかたい表情だけどこちらに笑いかけてくれていた。
(私に直接言ってくれると嬉しいんだけどなぁ)
美琴ちゃんと当麻くんを見ながら、わたしは心のなかでそうこぼした。
あれからお腹をすかせた二人を連れて家に帰り大急ぎで昼食の支度をした。
本当は当麻くんをお家のほうに送ってあげた方がいいのだが、当麻くんと美琴ちゃんの様子を見ていると引き離すのは気が引けたのだ。
なんだかんだそんなことを考えているうちに二人は昼食を完食してしまっていた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま、ママ」
「はい、おそまつさまでした」
当麻くんは思っていたよりしっかりと教育されているらしい。
なんでこんなことを言うかというと食べ方が結構ていねいだったのだ。
まぁあえて言うと上品でもなく下品でもなくといったところだが、この年代の子と比べるとしっかりとできているように感じた。
「なぁなぁ、なんかしてあそぼうぜ!!」
「えっと…」
美琴ちゃんは当麻くんにそう言われて私の方を見る。これは遊んでいいかという意味だろう。
「いいわよ、美琴ちゃんは当麻くんと遊んでて。ママちょっと出かけるからお留守番よろしくね?」
「ママ、どっかいくの?」
「ちょっとね。付いてきても楽しくないから当麻くんと遊んでてね?」
「あ、うん」
「みことーなにする~」
「はいはい、ちょっと待ちなさいよ」
本当に美琴ちゃんと当麻くん、どっちが年上かわからない。そう思いながら私は家を出た。
家を出ると私はまず携帯電話を取り出した。今回行くところにおいて必要な番号は当麻くんからさっき聞いていた。
その番号を入力するとわたしは通話ボタンを押した。
1コール目――でない。
2コール目――『はい上条です!!』でた、というか早すぎだ。そのこえからは焦った感じが伝わってきて、私はさっき考えていた『両親からも』説を打ち消す。
「あの、わたくし御坂美鈴という者ですが、上条当麻くんのご自宅であっているでしょうか?」
『はい!わたしが当麻さんの母です。…あの御坂さんでしたか?当麻は…』
「あ、今は私の娘と一緒の遊んでます。
本当はご自宅の方に送ってあげれば良かったんですけれど、うちの子と当麻くんが妙に仲良くなってしまっていたんで引き離すのも忍びなくて」
『…良かった。無事ならいいんです、あの…あとで当麻のことお迎えに上がりますんでいつごろなら都合いいでしょうか?』
「そのことなんですけど。いまからどこかで話せないですか?」
『…わかりました。喫茶佐天なんてどうでしょうか』
「あ、そこなら家から近いですし、OKですよ。じゃあ30分後にそこの一番奥の席で、奥があいてなかったらその手前というかんじでいいですか?」
『あ、はい。わかりました』
とりあえず約束を取り付けた。時間は早く付いてしまうが問題はないだろうと思い喫茶佐天に向かう。
喫茶佐天は個人経営のこじんまりとしたお店だ。
ただこの辺の主婦の皆さんからは結構人気のあるお店でおやつ時の3時ぐらいはいつもにぎわっている。
今の時間は午後1時過ぎ、まだ込んでいない時間帯なのでたぶん座れるだろう。そんなことを考えているうちに店の方に着いた、所要時間は5分といったところだろうか。
「いらっしゃいませ~、ってあら美鈴さんじゃないですか?」
「あけみさんお邪魔するわね。あと紅茶よろしく!葉の種類はマスターのお勧めでお願い」
「了解です。いつものようにしときますね」
「うん、それでお願い」
私は店に入るとこの店のマスターの佐天あけみさんに声をかけ、注文をしてから席へと向かう。やはりこの時間はガラガラでお客さんは一人も入っていないようだ。
私は迷わずに一番奥の席に向かうとそこ腰掛ける。そこで一回伸びをした後バックを開けそこからノートPCを取り出した。
「さて確認、確認っと」
私はノートPCを起ちあげるとあるソフトを起動した。そのソフトはあるカメラから送られてくる映像を見ることができるというものだ。
(さぁこれで美琴ちゃんと当麻くんの様子でもみとこうかしらね)
ちなみに繋がっているのは御坂家に仕掛けた10個ほどのカメラだ。もちろんマイクもいろんなところのに仕掛けてあるのでちゃんと音もとることができる。
「はい、どうぞ」
そんなことをしている内に紅茶を入れ終わったのかあけみさんがこちらにやってきていた。カップを二つ持って。
「えっと?」
「暇だから相手してくださいよ。普段なら涙子たちがいるんだけど、いまお昼寝しちゃってて」
「まぁいいけど」
自分の隣に座ってくるあけみさんを見て、いやそれでいいのかマスターとか思わないこともない。
「ん、それなんですか?」
「美琴ちゃんとその彼氏の様子よ~」
「ふむふむ、美琴ちゃんが男の子と仲良くなっていたと。いや最近の子は進んでるんですね~」
「いや、そういう関心の仕方はどうなのよ…」
あなたのとこの娘さんだって連れてくるかもしれないわよ。
「ほらほら、そこのコンセント使って」
「…いや、まぁありがたいけどさ」
~しばらくおまちください~
「美琴ちゃん可愛いですね~」
「でしょ~、あ、こんど涙子ちゃんも遊びに連れてきなさいな。弟くんもいっしょでいいいわよ」
~さらにしばらくお待ちください~
「この当麻くんでしたっけ?この子は将来無自覚の女たらしになりそうですね~」
「…同感だわ。美琴ちゃん将来苦労しそうね~」
~またまたしばらくおまちください~
「あらあら当麻さんったらやっぱり刀夜さんの息子ですねぇ、あんなかわいらいい子をたらしこんで」
「これは涙子はあわせるべきじゃないかしらね…」
「ていうか、誰?」
~もう一回だけしばらくお待ちください~
「すいません、自分から誘っておいて放置してしまって」
「いえいえ、おかげで久しぶりに当麻さんの生き生きとしているところを見れましたし」
というか熱中しすぎた。自分から誘ったにもかかわらず当麻くんのお母さん、上条詩菜さんに気付かないとかちょっとどうかと思う。
「……お客さんが来たのに気付けないなんてわたしマスター失格です」
「あけみさんはさっさと紅茶用意する!!」
「は、はい~~!!」
あけみさんはもっと重症なのでわたしは大丈夫。自分よりの緊張している人を見ると緊張できないのと同じ原理だろうなと思う。
とりあえずは詩菜さんを呼び出した目的から単刀直入に言おうと思う。
「で、話したかったことなんですけど………という提案なんですけど」
「そうですね。明日から連休ですしいいかもですね。あ、それならわたしもそちらにいっちゃおうかしら」
「いいですね歓迎しますよ。あ、でも旦那さんは…」
「いえ、いまはちょうど出張中で家に居ないんですよ」
それならば問題なく行えるだろう、私としても詩菜さんという友人ができて一石二鳥だ。
「よしじゃあ決まりですね」
「美琴ちゃん、当麻くんただいま~」
話をまとめた私は家に帰ってきていた。だが家の中が静かだ。てっきり美琴ちゃんが当麻くんと二人でお出迎えしてくれると思っていたのに。
私はいぶかしく思いながらも、リビングの方に入っていった。さっきまでカメラで見ていたので空き巣や強盗という心配はないだろうし。
「美琴ちゃ~ん?」
「ママ、静かに」
リビングのソファの方から美琴ちゃんの声がするのでそちらを見ると、今日の公園の光景が繰り返されていた。
要は当麻くんを膝枕する美琴ちゃんの図である。
「ごめんごめん」
「うん、おかえりなさいママ」
私はいまワクワクしている。さっき決まった話をすると美琴ちゃんがどんな反応をするのかとか、詩菜さんと今日は飲み明かせるぞーとかいろいろだ。
「あ、そうだ美琴ちゃん」
「ん~、なにママ」
「当麻くん今日はうちに泊まることになったから」
「え?」
わたしがそう言うと美琴ちゃんは一瞬だけ固まって――
「えぇぇぇぇーー!!ちょ、それってどういうこと!!」
――好きな子とのお泊りが恥ずかしい思春期の少女みたいな反応を見せたのだった。
「あ、あとこれ決定事項だから」
今日は楽しい夜になりそうだ。
後書き
とりあえず一言だけ、久しぶりの更新なのに短くてすいません
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