ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
八十二話:ラインハット国内事情
ピエールの先導でナンパ兵士を連れて、ラインハット城下町の物陰、人目に付かない場所に移動します。
さて、長く付き合いたくも無い相手であることだし。
さっさと聞くこと聞いて、お別れするか。
「なん」
「ドーラ。話は俺が聞くから。黙っててくれ」
はっきり止められた。
これは、新しい。
「アイツと会話もさせたくない。汚れる。減る」
何が汚れて減るのかわけがわからないが、黙ってても話が進むなら別に文句は無い。
いちいち妙な反応返されるのもめんどいし。
そもそもこの国の話なんだから、元々この件に関しては私よりもヘンリーが主役と言ってもいいよね!
よし、ここは脇役として!
サポート或いは傍観に、徹しよう!
「わかった。よろしく」
「おう」
と、了承したところで体をくるりと反転させられ、それまで辛うじてナンパ兵士のほうを向いていたのが、ヘンリーと向かい合って正面から抱え込まれる形になります。
「……あのー」
「見るな。汚れる」
そこまで汚物扱いですか。
ていうかこの状態で尋問するの?
おかしくね?絵面として。
「……離してもらうわけには」
「嫌だ」
ナンパ兵士はともかく、ピエールの保護者的視線が非常に気になるわけですが。
下手に逆らっても時間取るだけで無駄に終わりそうだし、黙ってさっさと終わらせてもらったほうがいいか。
と、抵抗を諦めた私が大人しくなったのを見て取り、ヘンリーが尋問を開始します。
私を抱きすくめたままで。
「この国はどうなってるんだ?見たところ、何かの役職にあるようでも無いが。役職も無い一介の兵士がそこまで大きな顔を出来るほど、兵士の地位は高いのか?」
へー、ヒラ兵士なのかヤツは。
やはり王子様ともなれば、それくらいは見てわかるのか。
「あ、ああ。王様がデール様になってからというものの、実権はお母上である太后様が握っているから。太后様のご指示で、厳しく細かく税を取り立てるのに不都合が無いように、兵士にはちょっとした特権が与えられている。特に太后様が認めた場合を除き、兵士の立ち入りを拒否できないとか、経費の節減のために店や施設を安く利用できるとか。他にも反抗的な態度を取る者は、それだけで一時的に拘束して取り調べる権限を認められているから、今じゃ平民で兵士に逆らおうとする者はいない。……こ、こんなことだって、本来なら認められないんだからな!……す、すみませんすみません言ってみただけです!!」
思い出したように虚勢を張るナンパ兵士にピエールが瞬時に殺気を放ち、ビクッとしてまた謝るナンパ兵士。
本当に、懲りないなあ。
でもそうか、兵士からすればそんな風に居心地のいい環境だから、コイツもアルカパに逃げ帰らずにしがみついてたわけか。
私からしたら、良かったのか悪かったのかわからんが。
「その割には、関所を守る兵士の態度は悪くなかったようだが。お前にしても、ドーラに変に執着した以外は、おかしいというほどのことも無かったし。その辺りはどうなんだ」
「特権を与えられてるとは言っても、乱用すれば処罰されるから。ある程度は大目に見てもらえるとは言え、やり過ぎたら痛い目を見て職も失うからな。それなりに、節度は弁えてる。ドーラちゃんのことは、別だ!だって彼女は……すみませんすみませんもうしません」
また熱弁を振るい出してヘンリーとピエールからダブルで殺気を浴び、速やかに謝罪するナンパ兵士。
何回やる気なんだ、これ。
「……太后と国王の関係は、どうなんだ?国王を蔑ろにして、実権を握ってるのか?」
「……特に、そんな話は聞かないが。王様がまだお若いから、摂政という形で政務を担われてるとしか。何しろデール様が王位に就かれたのは、今から九年程前だから……七歳の時になるわけだから。ヒラ兵士にわかる範囲でだから、実際のところは知らないが」
へー、デールくん同い年か。
私、ていうかドーラと。
だからどうってことも無いが。
「……城へは、一般の者は立ち入れるのか?国王に、謁見することは」
「無理だな。城に勤める者か、特に許可を得た者以外は立ち入れない」
「城に勤めている者に同伴しても、無理なのか?」
「……少なくとも僕では無理だ。余程高い地位にある者なら、別だろうけど」
「そうか。まあお前に同行する気は無いから、それはいいんだが」
なら、なぜ聞いたし。
とたぶん一瞬だけ、私とナンパ兵士の気持ちがシンクロした。と思う。
……嫌がらせだ。きっとそうだ。
「城と兵士のことはわかった。国民は、どうなんだ?国王や太后のことを、どう思ってる?」
「……良くは、思って無いだろうな。僕は子供だったから実際に知ってるわけじゃ無いが、税の取り立ては随分厳しくなったっていうし、兵士の特権だって国民からしたら余計な負担を背負わされてるだけだ。安くした分を、国が補填するという話でも無いし。兵士の僕が言うのも、なんだけど」
「……そうか。言いにくいことまで聞いて、悪かったな。助かった。ありがとう」
「礼なんて言うくらいならドーラちゃんとすみませんすみません本当にもう言いませんやめてください死んでしまいます」
とうとう殺気だけでなく、手が出たらしい。
見えないだけに怖いです、ピエールさん。
「よし、ドーラ。帰るぞ。お前が絡むとコイツはやっぱダメだ。用は済んだしな」
「では、拙者は暫し此奴を見張っておりますゆえ。十分に離れてから追いかけますゆえ、ドーラ様を」
「ああ。任せろ」
保護者としてヘンリーを見張るよりも、護衛としてナンパ兵士を見張ることが優先されたらしい、ピエールの中で。
私もお礼のひとつくらい言ったほうがいいのかなあ、と思いつつヘンリーの顔をチラ見すると。
「いいから、喋るな。黙ってろ」
ですよねー。
うん、私もそんな気はしたんだ。
お礼の一言も無いとか、人としてちょっとどうかなと思っただけで。
そんなわけで、そのままナンパ兵士のほうには全く顔を向けない形で抱き変えられて、ヘンリーに引っ張られて宿に向かって歩き出します。
後ろでまたナンパ兵士が何事か叫んでピエールに制裁を受けた気配がありますが、もう怖いので気にしない。
ナンパ兵士の声が聞こえない程度に十分離れたところで、口を開きます。
「……ゲームと、結構違った気がするけど。どういうことかな?」
「……これだけじゃ、まだわからない。けど、何も無いわけでは無さそうだ。とにかく、行ってみないと」
「うん。そうだね」
国の状況は、ゲームよりはマシみたいだけど。
それでも十年前と比べておかしくなってるのには変わり無いし、何が原因で違いが出てるのかわからない。
ここまでの情報では、魔物が入り込んでいるのかいないのかさえも。
ヘンリーが、私を抱く手に力が入ります。
「……ヘンリー。……大丈夫?」
「……ああ。大丈夫だ」
太后様のことも、悪い人では無いとか言ってたしなあ。
太后様もデールくんも、ヘンリーにとっては今生の家族なんだから。
魔物に手を出されてるにしろ、そうではなくて単に道を誤ったにしろ。
平気でいられるわけ、無いよなあ。
「……お前が、いてくれれば。俺は、大丈夫だ」
なにか変化があるとすれば、それは私たちが。
たぶんヘンリーがしたことと、きっと関係がある。
良い変化だけなら、いいけど。
良かれと思ってしたことが、悪い結果に繋がって無いとは限らない。
私が、ずっと恐れていたように。
「大丈夫。私は、一緒にいるよ」
少なくとも、この件が終わるまでは。
私は、ヘンリーの側にいる。
これまで、ヘンリーがそうしてくれたみたいに。
ヘンリーに抱きかかえられて自由にならない腕をなんとか脱け出させようともがくと、見上げたヘンリーの瞳が不安に揺れて。
また捕まえようとしてくるのを、される前に私から抱き返します。
驚くヘンリーに、微笑みかけます。
「怖かったら、添い寝してあげようか?」
驚いた顔が、少しだけ赤くなり。
すぐに、顔を顰めます。
「……ピエールが、いなけりゃな……」
「そうだね、無理だね。ピエールがいるからね」
まあ、基本的には冗談なんですけど。
でもピエールがいなかったら、本当にしてたかもしれないね。
無い可能性を、考えても仕方ないが。
「……やっぱり、二人部屋に」
「それは無い」
またあの不毛な言い合いを、繰り返すつもりなのか!
キッパリ断ったらヘンリーがなんだかガックリというかグッタリしてしまったので、ヘンリーに抱き付いた状態で引っ張って宿に帰ります。
少々重いが、大岩ほどでは無いし。
いつも引っ張られる側だから、たまにはこういうのも、悪くないね。
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