銀色の魔法少女
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第四十四話 闇と銀
side ALL
銀色の閃光が全てを覆う。
しかし、それは闇の書の放つ禍々しい銀ではなく、命あふれる温かい白銀であった。
最初に違和感を感じたのは前衛の二人だった。
おかしい 威力が低すぎると。
手応えが軽すぎた。
これではスターライトブレイカーどころか、ディバインバスター並の威力しかない。
視界が開け、砲撃の余波で凍りつく街が姿を現す。
その中心にいるのは、二人の人影。
一人はもちろん闇の書、もう一人の方がなのはたちにとって問題だった。
「遼ちゃん!?」
「やあ、ギリギリ間に合ったかな」
そう、アースラにいるはずの彼女が、闇の書と対峙していた。
side 遼
その警報を聞いて、私は鼓動が早まるのを感じた。
「!? そんな……」
早すぎる、私がここに来てまだ一日くらいしか経ってないはずなのに、もう暴走!?
私はすぐに画面を開き、それを確認する。
「まずいことになった……」
「遼ちゃん?」
すずかも一緒に、画面を覗き込む。
「え!? ここって!」
そう、闇の書が暴走しているのは、まぎれもないはやての家の上空であった。
すずかがはやてのことを知っていたのは驚きだが、今はそんなことを疑問に思う暇さえ惜しい。
それに、闇の書の暴走が早まった原因については、心当たりがあった。
(守護騎士四人を蒐集すればそれくらいは可能だけれど、はやてがそんなことをするはずないし、一体誰が……)
考えられるとすれば、あの仮面の男。
あいつが闇の書を奪い、無理矢理に守護騎士を蒐集したと考えるのが普通だろう。
その証拠に。
「見つけた……」
画面の端、うっすらとだが人影が見える。
なぜか二人に分裂してはいるが、確かにあの仮面野郎だった。
内一人は、何か銀色の杖型デバイスみたいなものを持っている。
(……もし彼らが私の思っていることをやろうとしているなら、それは全くの無駄足で終わるだろうけど、これはちょっと見過ごせないな)
「すずか」
「なに?」
「ごめんね」
私は、素早くすずかの額を叩いて、脳を揺らす。
「え」と短い声を出した後、すずかは力なくベッドに倒れ落ちる。
すずかをベッドに寝かして、布団を頭でかぶせる。
(これで少しは時間を稼げるといいけど……)
この部屋に監視カメラがないことを願うしかない。
そのまま、出ていこうとして、あることを思い出して引き返す。
「これでよし……」
これで後は大丈夫。
「さあ、最後の戦いといきますか」
幸いにも、私が脱走したことはすぐにはバレなかった。
闇の書の起動で局員が混乱していたのもあっただろうが、少しばかり拍子抜けした。
そんな私は今、はやての家の近くを走っている。
飛んでいかないのはみんなに見つからないようにするためだ。
魔力をできるだけ抑え、隠れて彼女に近づく。
けれど、問題が一つあった。
氷の中で佇む彼女。
その彼女がクロノを無視してさっきからこちらを向いている。
「あれ? もしかしなくてもバレてる?」
彼女には広域探知能力でもあるのだろうか?
そう思っていると、急に闇の書がクロノの方に向き直った。
どうやら、なのはたちが到着したらしい。
そして闇の書は、突如現れた驚異に対して攻撃を開始する。
(!?あれって……)
虚刀流第二の構え『水仙』から繰り出される奥義、『花鳥風月』。
私が習得した技の一つだ。
血のにじむ思いで得た技を、見間違えるはずはなかった。
しかし、私のよりそれは範囲が広い。
(闇の書のアレンジ……、厄介だなぁ)
そんなことを思っていると、彼女がとんでもないことをし始めた。
(!!? やば!!)
銀色の光が彼女の頭上に集まる。
間違いなく、スターライトブレイカーだった。
「セットアップ」
『Jawohl』
甲冑をまとい、続けて相棒に命令する。
「ノートゥング、切り札お願い」
『Kampferform(ケンプファーフォルム)』
機械音が響き、ノートゥングがカートリッジを二発消費し、その姿を変える。
刀身も柄も消え、彼女の甲冑に溶ける。
必要最低限まで削られた装甲が、更に削られ、もはや腕と足以外の装甲はほぼないと言っていいくらいにまで薄くなる。
そして、腕と足に新たな甲冑をまとい、体のあらゆる部分から銀色の翼が出現する。
闘士形態、ケンプファーフォルムと呼ばれたそれは私の最後の切り札。
私の会得したすべての技を引き出せるように編み出した捨て身の形態。
「飛天御剣流……」
私は、腰を落とし、何もない空間にまるで刀を持っているかのように構える。
すると、それに合わせて氷が生まれ、即席の刀が出来上がる。
そして、私は足に力を込め、彼女の真上へと跳んだ。
「スターライトブレイカー!」
彼女がそれを放つその直前、私は一気に刀を振り下ろす。
「龍追閃!」
一閃、私はそれを縦に斬り裂く。
収束された魔力の塊は、突如加わった剣撃により、安定を失い、爆発した。
それは本来の威力の十分の一もなく、ただ周囲を凍らせる程度の被害にとどまる。
そしてその程度の威力など、今の私には何の効果もない。
閃光が消え、私はようやく闇の書を正面から見ることができた。
「遼ちゃん!?」
後ろからなのはの声が聞こえる。
それに私はいつも通りにこう返した。
「やあ、ギリギリ間に合ったかな」
side ALL
遼は振り向かずにそう言う。
「ダメだよ遼! 安静にしてないと」
「にゃはは、そ〜いうわけにもいかないんじゃない、戦力を出し惜しみして勝てる相手じゃないよ、っと!」
闇の書の魔力に変化があらわれたため、遼はそちらに集中する。
「戦場 遼、あなたも主と同じ、夢の中へ」
『Absorption(吸収)』
なのはたちの視界から闇の書と遼が掻き消え、別々の場所に現れる。
「残念だけど、私はまだ寝るわけにはいかないんだよね」
「夢の中ならあなたは幸せになれます、主もそれを望んでいます」
「けどそれは夢、幻なんて私には必要ないよ」
「それでも、私はあなたを連れてゆきます、主もご友人がいれば夢の中でも――」
彼女がその先を話す前に、遼は力いっぱい彼女を殴りつけた。
それには技のキレも速さもなく、当然腕を交差しただけで容易に防がれる。
「さっきから聞いてれば、主主って、あんたは何がしたいの!」
「私はただのプログラム、主はやての望みを叶える道具」
その言葉に嘘はない。
説得は無理、そう感じた遼はゆっくりと構える。
「…………そう、それなら手加減はいらないね」
遼の体を覆う魔力が、急激に高まる。
「まずは、あなたのそのふざけた幻想をぶち殺すところから始めましょうか!」
こうして、闇の書事件並びに、ブリュンヒルデ事件。
数多の歴史において多大なる犠牲者を生み出した二つのロストロギアの、最後の対決の火蓋が、切って落とされた。
後書き
「闘士形態」
遼の最終形態、無刀、一刀、二刀と状況に応じて氷の刀、氷刀を作り上げることができる。
更なる速さを求めた結果、防御方面はさらに薄くなっており、ほとんど素肌の部分が多い。
片腕に一対ずつ、片足に一対ずつ、背中にニ対の羽が生えており、加速装置となっている。
装甲と呼べる部分は腕と足のみで、触れたところから凍らせることができる。
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