Element Magic Trinity
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最強チーム!
ここはクローバーの街の地方ギルドマスター連盟定例会会場・・・の近く。
建物の中ではまだマスター達が酒を飲んだり食事をしたりしている。
その建物の近くに、カゲヤマはいた。
左手には呪歌を握っている。
(よし・・・定例会はまだ終わってないみたいだな。この距離なら十分呪歌の音色が届く。ふふふ・・・遂にこの時が来たんだ・・・!)
そう思っていた矢先、突然右肩にポンと手が置かれる。
ビクッと体を震わせ反応し、そろぉ・・・っと後ろを振り返る、と。
むぎゅう、と右の頬に人差し指が刺さった。
何とも古典的なイタズラである。
「なっ」
「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
大笑いしているのは妖精の尻尾のマスターマカロフ。
「ゲホッ、ゲホッ・・・」
「・・・」
笑いすぎてむせたようだ。
「いかんいかん、こんな事してる場合じゃなかった。急いであの6人の行先を調べねば!街が消えかねん!」
そう言うとマカロフはピョンとカゲヤマが奪って・・・いや、乗ってきた魔導四輪から飛び降りた。
「お前さんもはよぉ帰れ、病院に」
どうやらマカロフはカゲヤマを病院の患者だと思っているようだ。
まぁ確かに服を着ていない上半身は包帯だらけ、いくらルーの魔法で傷が治っているとはいえ、この状態のカゲヤマを始めて見る人は「あ、病院患者だ」と思うだろう。
だがマスター達の命を狙うカゲヤマとしては好都合。
「あ、あの・・・」
「ん?」
「一曲・・・聴いていきませんか?病院は楽器が禁止されてるもので・・・誰かに聴いてほしいんです」
「気持ち悪い笛じゃのう」
「見た目はともかく、いい音が出るんですよ」
そう言ってカゲヤマが笛を指さすと、マカロフは指を一本立てた。
「急いどるんじゃ、一曲だけじゃぞ」
「えぇ」
この瞬間、カゲヤマは勝利を確信した。
相手はギルドマスターといえ、この笛をただの笛だと思っている。
吹いてしまえばこっちのモノだ。
「よぉく聴いててくださいね」
そう言ってカゲヤマは笛を口元まで持ってきた。
そして頭をよぎるのは、同じギルドの仲間達の声。
『正規ギルドはどこもくだらねェな!』
『能力が低いくせにイキがるんじゃねぇっての!』
『これは俺達を暗い闇へと閉じ込め・・・生活を奪いやがった魔法界への復讐なのだ!手始めにこの辺りのギルドマスターどもを皆殺しにする!』
エリゴールの言葉に歓声を上げるメンバー。
だが、そこに別の声が聴こえてきた。
『もう少し前向いて生きろよ、お前ら全員さ』
『カゲ!しっかりしろ!』
『君の力が必要なんだ!』
『同じギルドの仲間じゃねぇのかよ!』
それは今日、「敵」として出会った魔導士達の声、姿。
真剣そうな顔のグレイ、必死そうな顔のルーとエルザ、怒りを露わにしたナツ・・・。
その姿と声を思い出し、カゲヤマの心は揺れていた。
「いた!」
「じっちゃん!」
「マスター!」
一方こちらはそんな2人から少し離れた所。
そこにたった今到着した一同がいた。
「しっ」
マスターに駆け寄ろうとする一同を、背中から羽を生やした女性(?)が止めた。
「今イイトコなんだから見てなさい♪」
この人は青い天馬のマスターボブ。
男である。
「てか、アンタ達可愛いわね。ウフ♪」
「いや~、それほどでも~」
ナツとグレイ、アルカは熱烈な視線を向けられ、寒気を感じた。
ルーは呑気に褒められたと思っているようだが。
「な、何、この人!?」
「青い天馬のマスター!」
「あぁ・・・あの美女と美男子にしか興味のないボブね」
「ティア、相手はギルドマスターだぞ・・・」
誰であろうと容赦ないティアにアルカがツッコむ。
「あら、エルザちゃん。大きくなったわね」
ボブの目がティアに向けられる。
「ティアちゃん。うちのギルドに来る話はどうかしらぁ?」
「お断りよ。あんな顔しか取り柄がない様な奴等と仕事なんて出来ないわ」
「あらぁ、残念ねぇ~」
その間にもマカロフとカゲヤマは向き合っている。
「どうした?早くせんか」
カゲヤマは震えている。
顔には汗が滲み、身体は全体的に震えていた。
「いけない!」
「黙ってなって。面白れぇトコなんだからよ」
「よし、面白いなら黙っとくか」
「アルカ・・・」
そう言って止めるのは四つ首の番犬のマスターゴールドマインだ。
「さあ」
射抜くようなマカロフの視線にカゲヤマは怖気づく
ナツが飛び出して行こうとするが、ボブやゴールドマインの言いたい事を察知したティアがナツを抑える。
(吹けば・・・吹けばいいだけだ。それで全てが変わる!)
「何も変わらんよ」
マカロフが呟いた。
心の中を見透かされたような言葉にカゲヤマはゾッとする。
その言葉は揺れているカゲヤマの心を、更に大きく揺らした。
「弱い人間はいつまでたっても弱いまま。しかし、その弱さの全てが悪ではない。元々人間なんて弱い生き物じゃ」
マカロフが言葉を紡ぐ。
「1人じゃ不安だからギルドがある、仲間がいる」
カゲヤマは目を見開き、微動だにしない。
「強く生きる為に寄り添い合って歩いていく。不器用な者は人より多くの壁にぶつかるし、遠回りをするかもしれん」
そのマカロフの言葉を、ナツ達も聞いていた。
ティアの口が小さく弧を描く。
「しかし、明日を信じて踏み出せば、おのずと力は湧いてくる。強く生きようと笑っていける」
カゲヤマが震える。
マカロフはニッと笑みを浮かべ・・・。
「そんな笛に頼らなくても、な」
一言言い放った。
その言葉にカゲヤマは目を見開く。
(さすがだ・・・全てお見通しだったか・・・)
そして震え。
コト、と呪歌を手放した。
「・・・参りました」
そして、マカロフの前で膝をついたのだった。
「マスター!」
「じっちゃん!」
「おじーちゃん!」
「じーさん!」
それを見た一同は一斉にマスターに向かって駆けて行く。
ティアは1人、ゆっくりと歩いていた。
「ぬぉぉぉっ!?なぜこの6人がここに!?」
「さすがです!今の言葉、目頭が熱くなりました!」
「痛っ」
エルザがマカロフを抱き寄せるが、鎧を着ている為硬い。
「じっちゃんスゲェなァ!」
「うん!さすがおじーちゃん!」
「そう思うならぺチペチせんでくれい」
「一件落着だな」
「良かった良かった」
「ホラ・・・アンタ、医者行くわよ」
「よく解らないけどアンタも可愛いわ~♪」
「まぁ・・・これで解ったでしょ?アンタも」
「?」
カゲヤマが不思議そうにティアを見上げる。
「ギルドは本来、どう在るべきかが」
ルーシィは「おぉっ!」と呟く。
そしてしばらく和やかなムードだったが、突如それを壊す声が響いてきた。
『カカカ・・・どいつもこいつも根性のねェ魔導士どもだ』
ナツとルーとマカロフが目を見開いて、声のする方を向く。
『もう我慢できん。ワシが自ら喰ってやろう』
笛から煙が出てきて、形を成していく。
「笛が喋ったわよっ!ハッピー!」
「あの煙・・・形になってく!」
そしてそこに現れたのは。
『貴様等の、魂をな・・・』
巨大な大木のような怪物だった。
「な!」
「怪物ー!」
「わぁ、びっくりしちゃった!」
「お前、驚いてるように見えねぇぞ」
「あら」
数名を除いて驚く一同。
「な、何だ!?こんなのは知らないぞ!」
「あらら・・・大変」
「こいつァゼレフ書の悪魔だ!」
突然現れた怪物に、封印を解いたカゲヤマもギルドマスターも驚きを隠せない。
それは定例会会場の中にいるギルドマスター達も同様だ。
「こりゃあ、ちとマズイのう」
「助太刀にゆくか」
「腰が痛いんじゃが・・・」
腰が痛いかはとりあえず置いておこう。
『腹が減って堪らん。貴様等の魂を喰わせてもらうぞ』
「何ーっ!」
「そんなー!」
ナツとルーが叫ぶ。
魂が喰われるという事への恐怖からなのか、と思いきや・・・。
「魂って食えるのかー!?」
「美味しいの!?」
「知るか!」
「今はそんな事関係ないでしょ!」
魂が喰えるかどうか、が今の2人には重要なようだ。
その的外れな疑問にグレイとティアがツッコむ。
「一体、どうなってるの?なんで笛から怪物が・・・」
「あの怪物が呪歌そのものなのさ。つまり生きた魔法。それがゼレフの魔法だ」
「生きた魔法・・・」
「ゼレフ!?ゼレフってあの大昔の!?」
「黒魔導士ゼレフ。魔法界の歴史上最も凶悪だった魔導士・・・何百年も前の負の遺産がこんな時代に姿を現すなんてね・・・」
その間にもララバイはナツ達の前に来ていた。
『さあて・・・どいつの魂から頂こうかな』
ララバイはニィ・・・っと口角を上げる。
『決めたぞ・・・全員まとめてだ』
「いかん!呪歌じゃ!」
「ひーーーっ!」
ララバイが口を開き、ギルドマスター達が逃げ、ルーシィが耳を塞ぐ。
そしてララバイが口を開いた瞬間、ナツ、グレイ、エルザ、ルー、アルカ、ティアが一斉に飛び出した。
走りながらエルザが天輪の鎧に換装する。
「鎧の換装!?」
ゴールドマインが驚いている間にエルザは2本の剣でララバイの足を斬り、呪歌を阻止する。
「ぬ!?」
「おりゃああああっ!」
そしてナツがララバイの足をよじ登り、炎を纏った足で蹴りを放った。
それを喰らったララバイは体勢を崩す。
「おおっ!」
「何と!蹴りであの巨体を!」
「てか本当に魔導士か!?アイツ」
その光景にギルドマスター達は驚愕する。
「小癪な!」
「おっと」
そう叫び、ララバイは口から弾丸の様なものを発射する。
ナツはそれを難なく避けるが、その弾丸はギルドマスター達に向かった。
それを見たグレイは左掌に右手を乗せ、そこから冷気が溢れ出る。
一方、それを視界に捉えたルーもグレイと並んで魔法陣を展開させた。
「アイスメイク・・・盾」
だがギルドマスターは慌てたままだ。
「氷の造形魔導士か!?」
「しかし間に合わん!くらうぞっ!」
だがグレイはギルドマスター達の予想を反し、一瞬で花のように八方に広がった盾を造形した。
そしてその盾に弾丸が当たり、当たらず吹き飛ぶ弾丸もあった。
「危ない危ない、間に合った?」
「ルー!」
ルーが風を操り、弾丸を吹き飛ばしたのだ。
「速い!」
「あの一瞬でこれ程の造形魔法を!?」
「造形魔法?」
「魔力に形を与える魔法だよ。そして、形を奪う魔法でもある」
ハッピーの説明に、ルーシィは何故だかゾクっとした。
「さて、援護するよ!ティア、アルカ!」
「おぅ!」
「どうぞ」
そう言うとルーは緑色の光を両手に灯し、魔法陣を展開させた。
「悠久なる空を駆ける天馬の如き疾風の俊足を・・・大空俊足!」
すると、ティアとアルカの身体が緑色に光った。
「あれは大空か!?」
「あんな若造がこんな高難度な魔法を!?」
ギルドマスター達も驚いている。
「サンキューな、ルー!さて、久々にぶっ飛ばしていくぞ!」
「アンタがぶっ飛ばしすぎると更地になるから手加減しなさいよ」
「へいへい」
ティアに忠告され、アルカは一気に上昇する。
その両手には真っ赤な魔法陣。
「紅蓮の炎で灰燼と化せ!大火円盤!」
アルカが炎で構成された鎖を手に持つ。
その鎖の先には刃のついた、鎖同様炎で構成された円盤。
「燃え尽きな!」
「なっ!?」
それをぐるっと振り回し、ララバイに直撃させた。
「こっちは大火じゃと!?」
「ティア!」
「派手にやっちまえ!」
「言われなくてもそうするわよっ!」
ティアは勢い良く地を蹴り、上昇する。
『ぬぅっ!小賢しい小娘だ!』
「アンタに私を捕らえる事が出来るかしら?」
そう言うティアはかなりのスピードで空を飛んでいる。
「凄い速さじゃ!」
「大空俊足だけでこの速さが出せるというのか!?」
「違うよ。僕の魔法が無くたってティアは速いよ・・・だって、海の閃光だからね」
「アイツの別名の『海』は魔法を、『閃光』は動きの素早さを現してるんだ」
その間にもティアは緑色の光を撒き散らしながら飛び、指を鳴らす。
鐘の音と共にティアの背後に蒼い魔法陣が展開した。
綺麗にティアは着地し、吼える。
「荒ぶる神の怒りを受けよ!大海怒号!」
『ゴォアッ!?』
魔法陣から勢いよく水が発射される。
その水はララバイの腹に大きな穴を開けた。
「大海まで!?」
「元素魔法が1つのギルドに3つも揃っているなど・・・奇跡じゃ」
各元素に1人、と決まっている元素魔法。
それが3つも揃っているなど、確かに奇跡だろう。
「今だ!」
グレイの号令を聞いたエルザが換装し、斬りかかる。
黒い羽の生えた鎧で、動きやすそうだ。
「黒羽の鎧!一撃の破壊力を増加させる魔法の鎧だ!」
ギルドマスターが叫んだ。
「アイスメイク、槍騎兵!」
グレイの手から氷の槍が造形され、ララバイに向かって発射される。
「遥かなる空へ飛べ!大空大鷲!」
ルーの左手の魔法陣から、風の鷲が飛んでいく。
「紅蓮一閃!大火大剣!」
アルカの手の魔法陣から炎の剣が出現し、ララバイに斬りかかる。
「全力全開手加減無用!大海大砲!」
ティアの手に大砲が持たれ、水の球が勢いよく放たれる。
「右手の炎と左手の炎を合わせて・・・火竜の煌炎!」
ナツの両手に炎が纏われ、勢い良くその手をララバイに振り落とした。
『バ、バカな・・・』
そしてその攻撃は一斉に命中し、激しい轟音と共にララバイは倒れた。
「見事」
周りのギルドマスターやルーシィ、カゲヤマが驚く中、マカロフは1人呟く。
ララバイが倒れたのを見て、ルーシィの顔に笑みが広がった。
「ゼレフの悪魔がこうもあっさり・・・」
「こ、こりゃたまげたわい」
「かーかっかっかっかっ!」
「す、すごい・・・こ、これが・・・!」
衝撃の際発生した煙が晴れ、6人の姿が見える。
「これが妖精の尻尾最強チーム!」
エリゴールと戦ったナツやアルカはともかく、グレイやエルザ、ルーとティアは特別大きな怪我もない。まぁオシバナ駅で戦った傷はあるが。
つまり、ほぼ無傷でゼレフの悪魔と戦い、勝ったのだ。
「どうじゃー!凄いじゃろぉぉぉっ!」
「凄ーい!超カッコいい!」
それを見たカゲヤマは、目に涙を溜めて震えていた。
「ホラぁん♪アンタはお医者さん行かなきゃ、ね♪」
・・・が、ボブが抱き着いてきた事により、その涙はすぐに引っ込んだ。
「いやぁ、経緯はよく解らんが妖精の尻尾には借りが出来ちまったなァ」
「うむ」
「何の何のー!ふひゃひゃひゃひゃひゃ!ひゃ・・・ゃ・・・は・・・!」
高笑いをしていたマカロフが何かを見て笑いを止める。
「ん?」
その視線の先を辿って他のギルドマスター達がそちらを見る。
そしてマカロフ同様目を見開いた。
その間にそろーっと逃げようとするマカロフ。
「ぬああああっ!定例会の会場が・・・粉々じゃ!」
そう。
ララバイが倒れた時、丁度ララバイの背中の位置に会場があったのだ。
そしてララバイが倒れた事により、その重みで会場が粉々になってしまった・・・という訳だ。
「ははっ!見事にぶっ壊れちまったなァ」
「笑い事じゃないと思うけど」
まるで他人事のように言うナツに、こんな状況でも無表情のティアが言い放つ。
「捕まえろーーーーーっ!」
「おし、任せとけ!」
「お前は捕まる側だーーーっ!」
何か勘違いしているナツにツッコむギルドマスター。
「てへっ、やりすぎちゃった☆」
「てへっで済む規模じゃねぇけど、まぁ日常茶飯事か。これくらいは」
「マスター・・・申し訳ありません・・・顔を潰してしまって・・・」
「いーのいーの、どうせもう呼ばれないでしょ?」
口々にそう言いながら、妖精の尻尾はその場から逃げていったのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
次回はエルザVSナツ、キャラ説はその後です。
あ、そういえばティアにも勝負を挑んでいたような・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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