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よるむんがんどっっっっ!!!!!

作者:haramaki
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一部
出逢い
  これが世界を牛耳ってる男ですか、、、、!?

「ああ、もしもし。フロイドさん? うん、うん…確かに確保したよ。それで…? フフンフ、確かに面白そうな()だね! 僕が欲しいぐらいなんだけど…ダメか。まあいいや、その店まで届けてあげればいいんだね。…了解、了解。
それじゃ、例のウガンダでのヤツ、…うん、そう、それ。許可してもらえる…? 勿論高く売るからさ…。よし、…じゃあ、また」

僕は衛星電話のスイッチを切った。ふうう、全身から力が抜けて背もたれに沈みこんだ。

「ふわああ、やっぱりあの人(フロイド)と話すのは神経使ってしんどいーー」

「それ、親子のセリフとは思えないわね、キャスパー」

「フフンフ、少々僕ら兄妹と父の関係は一般のものと違ってね。そもそも面と向かって会ったのっていつが最後だったかかも分からないよ」

僕は自嘲気味に笑った。確かに親と子供の会話ではなかったかもしれない。
でも、それが僕らには普通。僕と(ココ)にとっては。
まあ、もう親の愛が欲しいなんて言う歳でもないし、別段それで困った事もない。だから、僕はこのぐらいの距離感が楽で好きなんだけど、ココは違うみたいだ。父を超えるだの、出し抜くだの、そんな事ばっか考えてる。それはそれで楽しいかもしれないが僕はご免だ、あの(フロイド)を出し抜くにはそれ相応の覚悟がいるし、練りに練った作戦をもってしても見抜かれてしまったりする。そもそも、どうすれば勝ちで、どうなったら負けなのかもあやふやだ。
だから、僕はパス。せいぜい、武器商人(ばけもの)同士の化かし合いを見させてもらうとするよ。

「なに、楽しそうに笑ってるのキャスパー。そんな風に笑うの久しぶりね」

チェキータさんの言葉で初めて僕が笑っていたのだと気付いた。僕は静かにすやすやと寝息を立てる眠り姫の顔を見ながらチェキータさんに話しかける。

「そうかい? …確かに楽しみではあるかな。
この(ロロノフ・マリシア)という駒を使ってフロイドさんがどんな手を打つか、ね」

「趣味わっるーー、性格ひん曲がってんね」

「そうかな、あの二人よりはいいつもりなんだけど」

「いーや、似たもの同士だよ。あんた達家族はさ」

確かに、かな。所詮、僕らは武器商人(ウェポン・ディーラー)。同じ穴のムジナってね。










「うう、むにゃむにゃ…、そんなにたべられないよう…、えへ、えへへへ」

「おーい、マリーちゃん、着いたよー」

誰かの声が聞こえた。でも、私はおいしいお肉を堪能している最中なので、無視した。私の前には山の様に積まれたお肉のタワー、一個取ってかじりつくと肉汁が口いっぱいに広がった。ああ、こんなにいっぱい食べきれるかなあ。

「ダメだよ、キャスパー。完全にご飯食べる夢見てる」

「拉致まがいの事されてるのに、ぐっすり眠れるとはね。フフンフ、面白い娘だ」

食べても食べてもなくならないお肉達。まるで夢みたいだよお。

「さて、寝顔を見てるのも飽きないが、あの人が首を長くして待ってるから。チェキータさん、アレ試してみようか?」

「アレ…ね。ウフフ…オッケー」

チェキータはおもむろに腰のベルトから拳銃を取り出して安全装置を解除し、銃口をマリーに向けようとした。あまりに突然で、危険な行為だったが銀狐(キャスパー)は薄い笑みを漫然と浮かべるだけで何もしない。
引き金に指がかかって躊躇なくそれが後ろに引かれた。弾のダンッと低い発射音がヘリの中に響き渡った。
つんと鼻をさす硝煙がたちこめて不自然な程静かになった。前の席に坐っていた操縦士もキャスパーも、撃った張本人であるチェキータさえも口を開かない。

だが、ヘリ内は血でまみれた凄惨な殺人現場とはなっていなかった。
さっきまでマリーのいた所には銃痕が座席に残っているだけで影も形もない。
そして、

「そのまま動かないで(・・・・・)ください。動いたら」

マリーは背筋の凍るようなぞっとする声で言った。
座席の下に小さく寝転がんで二丁の銃をチェキータとキャスパーの両方に向けていた。

「…くく。やるじゃない?」

チェキータが愉快そうに笑った。

「しゃべらないで、撃っちゃいますよ」

「そう。でも私ね、」

言葉を切ってチェキータは手の拳銃をマリーに向けた。瞬間、マリーの銃が火を噴いた。聞こえたのは一発分の銃声だけで、チェキータは撃てなかったようだった。
しかし、

「こういうの結構好き(・・)なのよ?」

マリーの上に乗っかってナイフを首筋につけているのはチェキータの方だった。

「あんまり、銃にばかり気を取られてナイフの方には気づかなかったみたいね。でも、私が本当に得意なのはこっち。
白兵戦の方が性に合ってるみたいなのよ、私は」

そう言ってにやあ、と笑うチェキータは確かにナイフを振り回すのが似合っていると思った。

「さて、どうするぅ? 追い詰められちゃったかな?」

「………私を殺しても得ないですよ。きっと」

「そう思う? でもね、私ってさ、銃口むけられて生きて帰すのってなんか嫌なのよね。だから、」

わあ、ダメだ、私、死ぬ。
マリーは素直にそう思った。マフィアなんていう物騒な職についていた以上碌な死に方はしないと思っていたけれど…。こんなとこで化け物女に殺されるなんて。
せめて美味しい焼き肉が食べたかった。ステーキが食べたかった。お腹いっぱいにお肉をほうばりたかったなあ…。
…嫌だっ!!! 死にたくないッ!! 

「ああああああ、ごめんなさい! 助けてくださいっ! 料理洗濯から人殺しだってやれます! あんまし人殺しばっかは嫌だけど、時々美味しいお肉が貰えれば何でもしますから!!! 助けてええええええええ!!!!!」

マリーが懸命に叫ぶと、ぱんぱんぱん、と適当な拍手がした。
呆気にとられて視線を別に向けると、銀狐がお腹を抱えて笑いだしていた。

「アハハハハハハ!」

「ちょっとキャスパー、それはないんじゃない? 失礼よ…ププ」

チェキータに目を向けると彼女も必死に笑いをこらえていた。いつの間にか首のナイフも仕舞われている。
キャスパーはそれからもひとしきり笑うと、ようやく私の顔を見た。

「…ああ、ごめん、ごめん。だって、お肉って…。
僕も大概いろんな人の命乞いを見てきたけど、君が初めてだよ、こんなに笑わされたのは。
…うん、そうだね。合格!」

「…ご、う、かく?」

「ごめんね、マリーちゃん。この馬鹿が実力を試してやろうって言いだしたのよ」

「フフンフ、チェキータさんだって乗り気だったじゃない」

化狐と女豹が笑い合った。それにつられて、操縦席からも笑い声が聞こえる。状況をだんだんと把握してくると、マリーは顔を真っ赤にした。

「ひどいっ! サイテ―だ、みんな! いたいけな乙女の純情をもてあそんで笑うなんて! 大人なんて全部汚いんだっ!」

「まあまあ、怒らないでよ、マリーちゃん。君の実力が知りたかったんだ」

「ふつー、お試し感覚で寝てる人に銃ぶっぱなちますかっ!?」

「それはMrガンボッチに聞いたんだ。君は寝ている時でも銃口を向けられたらちゃんと気づくってね」

「あの口の軽いもうろくジジイのせいか…。私の個人的情報を漏らしたな…。絶対恨んでやる」

ボスの禿げ頭にタバコを押し付けるのを妄想していると、いつの間にかチェキータ氏の顔がマリーの目の前にあった。あまりの近さにのけぞった。

「うわあっ! なんですか…もう」

「それにしてもスゴイわね。あんな至近距離からの(タマ)、どうやって避けれたの。そもそも寝てたんでしょ?」

「っお、意外! チェキータさんでもスゴイと思う事あるんだね」

「失礼ね、キャスパー。そりゃ私だって弾ぐらい避けられるけど…。どうやって撃ったのに気付いたのかは気になるじゃない」

そう言ってマリーの瞳をじっと見つめるチェキータ氏。マリーは、あんただって避けられるんかい! という突っ込みをしたいのを我慢して答えた。

「なんとなーく、嫌な気配が分かるんです。寝てる時も起きてる時も。だから、その気配がしたらとりあえずそこから逃げる事にしてて…。無意識に体が動いたんです」

マリーの言葉にチェキータは顔を難しくして、キャスパーは小さく言った。

「無意識に、ね。…フフンフ、それは便利そうだ」

「…」

チェキータ氏は何も言わなかった。
そして、ちょっと気まずい時間が流れた後に、

「…さて、あんまりダラダラしすぎたね。マリーちゃん、君をあの人の所へ届けないと僕は怒られてしまう。
だから、そうだね。僕が君を試した事は内緒にしといてもらえるかい」

「嫌ですっ!」

「どうして? それは困ったな」

「違います! 試すとか以前に私は今の状況に納得していませんっ。よってどこにも行かないのですっ!」

マリーは固い覚悟を決めた。絶対にこのまま場に流されてたまるか。あの禿ボスに騙されたのもそうだし、武器商人の大親分みたいな人に会って無事で済むわけがない。とにかく嫌な予感しかしないのだ。

「…絶対だめかい?」

「徹底抗戦の構えですよ、私は!」

キャスパー氏は困った表情をしているが構うものか。命より大事なものはないのだから。

「…それじゃあ、君の為に用意した食事の席はキャンセルしないと。肉中心の料理だったんだけど…」

「行きますっ、、、、、」

マリーにとっては残念ながら目先の肉より優先すべき事はないようだった。










「わあああーーーー! お肉がいっぱいだあああーーー!」

どんないかがわしい店に連れて来られたかと思ったが、マリーが連れてきてもらったのは正真正銘の高級料理店だった。しかも、完全に隔離された個室に案内された。
そこには、豪勢なフルコ―スが細長いテーブルの上に用意されていた。

「うん? まだあの人は来てないみたいだね。…まあ、その方が都合がいい」

「ふわあぁぁぁ♪♪♪」

見ているだけでマリーはお腹が減ってきた。思えば、任務の晩から何にも食べていなかった。あれだけ欲しいと願った風景が目の前に広がっているのだ。
周りの目もはばからず、マリーの口元からよだれが噴き出す。じゅるり、と舌舐めずりをする姿は花の乙女よりは大金を目の前にした盗人に近かった。

「ねえ、マリーちゃん、聞いてるかい?」

「え? あ、はい。ご飯に夢中で聞いてませんでした」

「フフンフ、全く君は面白いね。…なんだか本当に興味が湧いてきたよ。なんなら今からこの娘、もってちゃおうか?」

「ちょっと、キャスパー!?」

チェキータが慌てて言った。

「私はあの人らと事をかまえたくなんてないよ。厄介すぎる」

「フフンフ、冗談、冗談。僕だってそれぐらい分かってるさ」

「キャスパーが言ったら冗談に聞こえないから」

チェキータの言葉を無視してキャスパーはマリーの方をじっと見た。

「マリーちゃん、ちょっと僕らあの人探してくるから。ここで待ってて」

「探しに行くう…? 怪しいですね。まさかそのままトンズラなんてパターンじゃないですよね?」

マリーに図星を突かれてキャスパーは口ごもった。

「う…」

「ああ、やっぱり! 逃げちゃ」

「そこにあるもの、先に食べてていいですから」

「キャッホーーーーーー!!!!! どうぞいってらっしゃーーーいッ!!」

「君はホントに単純明快でいいね。っじゃ」

キャスパーは一言残すと、鼻歌をたらしながら右手をふって出ていった。それに伴ってチェキータも部屋を出ていく、とその前にドアの前で足を止めた。そこでチェキータは振り返らずにマリーに話しかけた。

「ねえ? マリーちゃん」

「むしゃむしゃ…ん? なんでしょうか?」

マリーは口の中に肉をほおばっていた。食の手を休めずに答えた。

「貴方嫌な雰囲気が分かるって言ってたわよね」

「確かに言いましたけど…。それがどうかしましたか?」

「ううん。何てことのない話なの。聞き逃してくれてかまわないわ。
でもね、それって―――すごく残酷な話よね」

その言葉で次の肉にのびていたマリーのフォークが止まった。ごくり、と口内の物を呑みこんだ。

「今の…もしかしなくても同情、ですか」

マリーの言葉尻が急に冷気を帯びたものになる。
それに対してチェキータは平坦な調子で言った。

「別に。私は博愛主義者でもとちくるった聖職者でもない。真っ赤なヴァージンロードを歩く汚い女だからね。同情なんてしないよ。
ただ、さ。貴方みたいな女はごまんといるって話。全くもって酷い世界さね、ここは」

「言葉を濁しますね。何なんですか一体!」

ついに苛立ちの限界を迎えたマリーが立ちあがって叫んだ。そこで漸くチェキータは振り返った。

「クールダウン。落ちついていきましょ」

「あなたの方が焚きつけたんじゃないですか!」

「そう、だったかしら。ああ、ごめんなさいね。私って直接的な言い方しかできないの。もうマリーちゃんの過去を詮索するような事は言わない。
きっと私の過去と、そう大した違いはないでしょう。だけど、たった一つだけ」

「……なんですか」

「自分の意思をもって生きなさい。この世界は何にもない奴から先に死んでいくわよ」

その時、廊下からキャスパーの声がした。急かすようにチェキータの声を呼んでいる。

「ああ、はいはい。今行くわ、キャスパー! 
…それじゃあね。マリーちゃん」

チェキータはにっこり笑ってキャスパーの元へ去って行った。ガチャン、とドアが閉まる音がした。マリーはすとんと椅子に坐り直して自嘲するように言った。

「そんな事…言われなくても知ってるよ。チェキータさん」






チェキータはキャスパーと共に店を出て、フロイドを探す素振りもなくヘリ目がけてまっしぐらだった。ふと、隣のキャスパーが笑った。

「何、キャスパー」

「フフンフ、いやね、チェキータさんにしては珍しいなって。えらくご関心じゃないですか」

「べっつに。キャスパーだってすごい気に入ってたじゃない」

「まあね。面白い娘じゃないか。色々裏がありそうだが」

「裏なんてどこにでもありふれてるよ、キャスパー。嫌になるぐらいね」

「ハハハ! 間違いない。それを撒き散らして金を貰うのが僕たちの仕事さ。嫌になったかい?」

「冗談。私たちにはお誂え向きの仕事じゃない」

「それなら結構。それじゃ、次の仕事に行こうか」

先にヘリの中に昇ったキャスパーが私に向かって手を差し伸べてくる。楽しそうに微笑んでヘリのライトを背景にしたキャスパーはまるで悪魔だった。人を惑わす悪魔。

「銀狐…まちがいないわね」

私はそう言って笑うとこれから待ち受けるあの子の運命を祈って彼の腕をとった。








「ああ、おいしい。おいしい。生きてて良かった…」

さっきまでの雰囲気はどこへやら、マリーはひたすらに料理をむさぼっていた。彼女の矜持は“嫌な事はさっさと忘れる”でもあるのだ。目の前の食事が不味くなるような出来事はすぐに頭の中から排除し、めいいっぱい食べる。マリーはとってもたくましい乙女だった。
かちゃかちゃとテーブルマナーお構いなしに運ばれてくる料理を胃袋の中に納めていると、不意に後ろの扉が開いた。

「あ、おかえりなさい、キャスパーさん」

「悪いが、その男は既に逃げた様だ。せっかく“家族集合”となる所だったのだが」

しわがれているのにエネルギーに満ちた声だった。
次にステッキをつく音がして、ゆったりと男は私の前に坐った。老人、どこにでもいる老人に見えた。しかし、マリーは百戦錬磨の軍人を目の前にしたような妙な気分になっていた。なるほど、矛盾している。だけど、そのちぐはぐな感じは確かに彼に似ていた。

「やあ、ロロノフ・マリシア君。私がHCLI社のフロイド・ヘクマティアル。今日はビジネスの話をしようじゃないか」

そう言って剣呑な笑みを浮かべる。確かにあの銀狐(キャスパー)の父親に相応しい物騒な男だった。


 
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