流星のロックマン STARDUST BEGINS
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星屑の覚醒
13 隠される異変
「どうだ?」
暁シドウはコーヒーカップ片手にWAXAニホン支部の管制室にいた。
いつもとは違いラフな紺色のTシャツ姿で頭を掻きむしっている。
普段は見る気もないPCのモニターの前に座っている少女2人に話し掛けた。
「ハイ、昨晩、WAXAの衛星が怪電波を捕らえました。デンサンシティの廃工場です。凄まじいノイズです。多分、電波体同士の抗争があったんでしょう」
少し長めで赤みのある髪をリボンで結った少女は説明しながらモニターアームで目線よりも高いところに設置されたFlexScanに座標を表示する。
海沿いの場所に赤い点が表示されている。
彼女が使っているのはHP・Pavilion ENVY700をメインに23インチのデュアルモニター、iMacの21.5インチ。
他の職員のPCと違い、独自にカスタマイズしたDebianをインストールしたマシンを手慣れた手つきで動かしている。
だが顔には不安が浮かんでいた。
「じゃあこの場所に調査班を送ろう、リサ」
「でも...この場所は...」
リサと呼ばれた少女はシドウの提案にぎこちない対応をする。
ハッキリとものが言えない面を持っていた。
だが反面、隣に座ってパソコンと向い合っていた少女は違った。
「お前、ニュース見てねぇのかよ?この怪電波が観測された場所で殺人事件が起こってる。これは公安警察の領分だ。公安調査庁サテラポリス第0課が首突っ込める領分じゃねぇってこと」
「マジかよ、マヤ....うっわ、ヒデェ」
シドウはリサと瓜二つで男勝りな口調の少女に言われ、ポケットからトランサーを取り出してニュースを確認した。
最初は殺人事件と聞いて借金なんかで殺されたのかと想像していた。
だが全く違った。
まず殺された人数が違う。
40人以上だ。
それも中学生が首や足をもがれ、もはや人間の形をしていないような状態で発見されたらしい。
昔見たサイコキラーの映画よりもその状態は悲惨だった。
「完全に先越されたよ。今頃デンサンシティの警察があの黄色いテープを張り巡らせて、入ろうとする連中をコテンパンにしてることだろうさ。たとえWAXAの人間だって言っても自分たちの管轄で起きた事件だ。そう簡単に入れてくれんだろうさ」
「ましてあの悪名高いデンサン警察ともなればね」
マヤと呼ばれたリサと瓜二つの少女はリサと目を合わせた。
リサとの違いといえば髪を結うのがリボンではなくカチューシャということくらいだ。
そして向かっているPCはHP・Pavilion Slimlineのデュアルモニター、Thunderbolt Displayに接続されたMac mini。
こちらもリサと同じOSが使われている。
「昨日の夜、いきなりヨイリーのばあちゃんに依頼されて調べたら面倒なことに突き当たっちまったなぁ...」
「依頼?」
「ええ、実は昨日の夜、ヨイリー博士が自分のPCから何処かにデータが転送されたようだと言われて、転送先を調査していたらここに突き当たったんです」
マヤはかったるそうに椅子に背中を預けて大あくびをした。
この双子はまだ11歳という小学生だった。
優れた技術を持っているため、人員不足のWAXAに分析官として採用されたという異例の人間だった。
まだ成長期も抜けていないので睡眠は必須だ。
だがそれも奪うまでにニホンという国は安全に見えて安全ではない。
リサもコーヒーを飲んで必死に眠気に耐えている。
「でもどう思います?偶然に思いますか?ヨイリー博士のPCから転送されたデータの送信先で大量殺人が起こり、おまけに謎の電波体が出現しバトルが起こる、トドメが犯人に繋がる証拠もなく、凶器は全く謎。指紋はおろか髪の毛一本も落ちてないなんて...」
「偶然として片付けるには無理がある気がするな....。ところで観測された電波体は過去に前例があったりするのか?案外、何処かで観測されていたり...」
「ええ....パーフェクトに一致するものは無かったです。でも類似するものはありました」
「一部だけ似てるってことか?一体なんだ?」
リサはシドウに検索結果を見せた。
「ロックマンと...アシッド・エース、そしてFM星人の周波数と似ている部分がありました」
「ロックマン?しかも...オレと似てる電波体?」
「大体ロックマン6割、アシッド・エース3割、その他1割って感じです」
そう言ってリサは大きく深呼吸した。
もう流れるデータに目が追いつかなくなっていた。
シドウはこの事件に何か大きなものが潜んでいる気配を感じていた。
WAXAという組織に飼われている犬になったかのようにこの手の事件に関しては鼻が効くのだ。
放っておくと面倒なことが起こる。
シドウは数回頷くと2人の頭を撫でた。
「おつかれ、明日まで休んでいい。ここんとこ寝てないだろ?FM星人地球侵略事件の後片付けがだいぶ長引いて」
「いいんですか?」
「ああ」
リサは嬉しそうな顔をしながら隣で軽く目を開いたまま寝ているようなマヤに手を伸ばした。
だがマヤは次の瞬間飛び起きた。
「ああ!!」
「!?どうしたの?マヤちゃん!?」
そしてマヤはもうスピードでキーボードを叩き始める。
「今、侵入者の警告が出たような気がしたんだけど....気のせいか?」
放心状態のマヤが一瞬見たのは画面右下の「W-Eye」と名付けられたウィンドウの「@snif-sys」の欄が一瞬赤くなったところだった。
侵入警告はもちろん攻撃を受けた時に反応するし、何らかの規定外コマンドを実行した場合にも反応する。
おまけに普段接続しないユーザーが接続しても一瞬だが反応するまでに敏感だった。
「眠すぎて夢でも見たのかなぁ....」
「暁さんが今日は休んでいいって。明日までゆっくり眠れるわ」
「マジかよ!!暁!!お前の部下でよかった!!」
一瞬で元気になったマヤはリサとともに自室へと向かった。
マヤは一応、上司のシドウにもまるで友達のように接する悪癖があった。
しかしシドウは一切、悪く思っていない。
それだけ彼女の腕には信頼をおいていた。
自分は全く機械類全般が分からないからだ。
「全く...オレも兄弟とかいたらなぁ」
そう言いながらシドウも一旦、部屋に戻ろうとする。
自分も3日近く寝ていないのだ。
睡魔に襲われ、このまま緊急出動になったら現場について数秒で射殺される程に疲れ果ててている。
だがこの侵入検知は間違ってなかった。
呑気に眠りに落ちようとする3人を嘲笑うかのように、侵入者は間違いなくWAXAのシステムに侵入していた。
しかも自分のIDを使って侵入されていることなど、シドウは全く知る由もなかった。
「なぁ、姉ちゃん?どうしてオレらは出撃しないで施設内で諜報活動なんだ?」
「シンクロナイザーが抜け出さないように見張るため。それにValkyrie相手なら私たちの力は必要ないでしょう?」
「どうかねぇ...だといいけどさ」
ジャックは他の孤児たちが夕食を食べる食堂の片端で携帯ゲーム機で遊びながらクインティアに話し掛けた。
落ち着きがなく動いていなければいけない状態だった。
画面に映るモンスターを狩りながら溜息をつく。
だが対照的にクインティアはコーヒーを飲みながらNexus10であらゆる資料に目を通していた。
「それに....さっきのハートレス....なにか変だった。まるでシンクロナイザーが抜け出すことが分かりきってるみたいにね」
「確かに....なんか変だった。だったら何でオレらに?別にメリーにでも言っときゃいいじゃんか?」
「メリーはきっとシンクロナイザーが言うことに従うわ。デリカシーが無いあなたが気づいているかは知らないけど、メリーはシンクロナイザーの事を好いてるわ」
「え!?アイツらデキてたのかよ?」
「やっぱり言うんじゃなかった」
クインティアはそう言いながら再びコーヒーを啜った。
だがNexus10のブラウザ表示に若干、異常を感じた。
「ん?」
「どうした?」
「読み込みが遅い....」
「故障か?」
「いえ...多分、大量のアクセスが原因よ。でもこの遅さは....DOS攻撃?」
クインティアの頭に1つの可能性が浮かんだ。
「DOS攻撃」。
すなわち大量のアクセスでサーバーをダウンさせる攻撃手法だ。
それを使ってダウン寸前まで追い込み、侵入することもある。
前に彩斗に聞いたことがあった。
少しだけ自分のPCに触らせたら、セキュリティが甘いと散々言われ、ネチネチと注意を受けた。
聞き流していたものの、意外に頭に入る説明だったのだ。
「一体何のサイト見てんだよ?」
ジャックはクインティアのタブレットのブラウザを覗いた。
そこには『セントラルタウンの歴史』というタイトルのページが表示されていた。
彩斗はメリーと数時間の眠りに落ちていた。
本をめくるという動作で少し落ち着き、怒りの反面、安心感で込み上げてきた眠気でベッドに再び潜り込む。
そしてメリーも同じベッドに入り、眠りに落ちたのだった。
2人揃ってついさっきまで寝ていたというのに、緊張状態から解放された人間の体は理屈では説明しにくいことも多いのだ。
彩斗はある意味、怒りに囚われ、身体の体力以外の何かをすり減らして精神的な疲れを呼び起こしていた。
だがPCから発せられた通知音で目を覚ます。
既に窓の外の景色は暗くなっていた。
枕元の時計には「22:12」と表示されている。
夕飯の時間も過ぎている。
だが2人共、遅めの昼食だったためあまり空腹感はなかった。
「何の音ですか?」
「この音はキーワード探知に引っ掛かった音だ。さっき追加したキーワードのうち、2つ以上のキーワードを含むものがあった時に通知するようにしておいたんだ」
彩斗はTouchSmartのタッチスクリーンで検索結果を表示する。
するとそれはネット上の掲示板らしいサイトだった。
さっき、セントラルエリアでValkyrieのナビが商談をしてるの見たぜ
とうとう自宅警備員にまで武器売る気かよww
Valkyrieっていやぁ有名なPMCだろ?
噂によるとデンサンシティで武器をバラ撒いてるらしい
ヤバイヤバイヤバイヤバイ
ネトゲ厨とかも侵略されてたりw
うはww
オケww
ニホン紛争ワロス
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
皆、ハンドル名は『名無しさんお腹いっぱい』。
定番の2ちゃんねる掲示板だ。
タイトルは『ニホンを転覆させるには?』というお遊び半分のページだ。
だがこの数時間で書き込みが増えている。
「見つけた。手がかりだ。奴らの手下のナビがセントラルエリアにいる。身柄を抑えて、連中の事を吐かせる」
彩斗はそう言って自分の手をPCのアクセスランプに触れた。
シンクロして自分がインターネット上にプラグインしようとしているのだ。
だがメリーが止める。
「待ってください!プラグインなら私が....私はあなたのネットナビなんですよ?」
「でも僕の妹だ。僕の勝手な行動でこれ以上、君を巻き込みたくない」
彩斗はメリーの制止も聞かずに意識を集中し始めた。
『ダイレクトリンク』
意識を電脳空間に転送する。
それによって彩斗の体は生ける屍同然になり、椅子にぐったりと倒れ込んだ。
「.....無事に帰ってきてくださいよ....兄さん」
メリーはそう呟いてその掲示板を見ていた。
どれもこれも面白半分の書き込みだが、時折、真剣にニホンを転覆させる方法を考えている者もいる。
悪意を感じた。
真剣なものほど、ニホンを恨むだけの激しい憎しみと怒り、もしくは妬みがあるのだ。
人の悪意を増幅するというのはある種、インターネットの魔力だとメリーは知っていた。
ネットナビになってみて分かる経験だ。
ナビもオペレーターの性格によって感情を増幅させる場合がある。
子供の教育と似ているのだ。
親が喧嘩ばかりしていれば子供が不良になるように、オペレーターが悪意を持った人間で悪意のある書き込みをすれば、ナビもその手の知識を端末越しに得ていく。
そしてオペレーターが犯罪に走れば止めることもなく賛同するようになる。
オペレーターに正確が似てくるのだ。
そんなナビたちをメリーは何人も見てきた。
だがメリーは彩斗がメリーを全くに近いほどネットナビとして扱っていないために、この現象から免れている。
彩斗からすればメリーはネットナビではなく妹なのだ。
だから危険な場合ならば、自分が率先して入っていく。
だが反面、メリーはそれが不安だった。
まるで自分が死ぬことを恐れていないかのように。
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