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戦国異伝

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第百三十九話 千草越その五

「宗滴殿も正面から戦をされる方ですし」
「こうした刺客は流儀ではないと」
「そう思います」
 こう言うのである。
「あの方は」
「だから浅井殿ですか」
「しかも長政殿ではありますまい」
 浅井家でも彼であることも否定された。
「やはり」
「では久政殿でありますか」
「あの御仁もそうしたことをされる方とは」
「今一つですか」
「つながりませんが」
 久政と刺客が、というのだ。
「どうにも、ですが」
「それでもですな」
「あの方しかおられませぬ故」
 どうしても長政がしたと思えないというのだ、確かに長政はそうしたことをする者ではない。
「ですから」
「そうですな、ではやはり」
「久政殿でしょう」
 高山は考える顔で蒲生に答えた。
「あの方が送られたのでしょう」
「ですか。しかしまさかここで刺客が仕掛けて来るとは」
「まさかとは思いましたが」
「相当な手練ですな」
 鉄砲を使うにしてもだというのだ。
「一体誰なのか」
「忍の者でありましょうな」
 高山は蒲生に己の考えを述べた。
「それもかなり特別な鉄砲を使ったかと」
「かなりの間合いでも当ててくる様な」
「腕も鉄砲もかなりの者です」
 そうした者に違いないというのだ。
「間違いなく」
「では天下に何人もおりませぬな」
 蒲生は目を光らせて述べた。
「それだけの御仁となると」
「確かに。忍といいましても」
「当家ではおりませぬな」
 蒲生は飛騨者達も考えた、だがだった。
「一人も」
「はい、飛騨者はそれぞれかなりの癖の持ち主ですが」
 それぞれ際立った術を使う、だがそれでもなの。
「鉄砲となりますと」
「あそこまでの者はおりませぬ」
「そして他の家でも」
 次は他の家の者を考えてみた。
「おりませぬな」
「そうですな、二人と」
「ではです」
 蒲生はこうも言った。
「それがしも知らぬ筈がないですが」
「しかしですな」
「思い当たりませぬ」
 今ここで信長を狙う様な者がだというのだ。
「浅井殿でも朝倉殿でもないとすると」
「ですな、これは」
「公方様ではありますまい」
 蒲生はあえてこの仮定も述べた。
「流石に」
「公方様ですか」
「はい、幾ら何でも」
「ですな、確かに近頃殿に思うところがあられますが」
 だがそれでもだというのだ。
「そこまで自ら動かれる方ではありませぬ」
「そう思います、あの方は文は好まれますが」
 だがそれでもだというのだ。
「幾ら何でも。刺客なぞは」
「ありませぬな」
「そう思いまする」
 こうした話をしてだった、彼等も岐阜に戻る。信長は危ういところもあったがそれでも無事に岐阜に着いた、するとだった。 
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