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占術師速水丈太郎  ローマの少女

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第四十章


第四十章

「終わりです」
 速水は少女が消えたのを見て静かにこうアンジェレッタに述べた。
「この事件もようやく」
「終わったのですね」
「ええ。これで影がなくなることはないでしょう」
「そうですか。それでは」
「もう結界も何もかも必要ありません」
 教皇と審判のカードを前に掲げると天使と教皇はその中に消えた。黄金色の目も光が消え髪の中に隠れてしまった。力も消えていく。速水の力は完全に姿を消してしまった。
 アンジェレッタも水晶を収める。結界も消え何もかもがなくなり元のサン=タンジェロ城にと戻ったのであった。
「それでは後は」
「報告ですね」
 アンジェレッタは静かに述べた。
「ローマ警視庁に」
「何か警察はこうした事件には弱くて」
「仕方ありませんよ」
 速水はその言葉にうっすらと笑って述べた。
「警察はこの世界の事件を取り扱います。しかし私達は」
「あちら側の世界をですか」
「そうです。占いとは二つの世界の狭間にあるものですから」
 そう言いながらミカエルの像を見上げた。天使は何も言わずそこに立っているが何処か二人を祝福しているようにも見えなくはない。
「ですよね」
「ええ。それは私もわかっているつもりです」
 アンジェレッタも言葉を返した。
「その中に生きるのが私達」
「だからこそこうした異形の者達とも渡り合う」
「ええ。それが生業です」
「それでこれでやっと終わりですが」
「はい」
 話は終幕に達していた。
「これからどうされますか。朝になりますが」
「朝に」
「はい。御聞き下さい」
 牧童の歌声が鐘の音になっていた。バチカンの鐘の音である。
「人の世界がはじまろうとしています」
「夜の世界が終わり」
「人の世界が。その中での話しです」
「そうですね。それでは」
 少し考えてから述べた。
「事件は終わりましたしお祝いといきますか」
「ではワインを」
「はい。何が宜しいですか?」
「あのランブルスコは」
 速水はにこりと笑って述べた。その笑みが実にノーブルで気品があるものであるから不思議である。
「ありますか」
「幾らでもありますよ」
「そうですか。ではそれをお願いできるでしょうか」
「喜んで」
 アンジェレッタも笑みを返してきた。その猫の目がにこやかになる。
「ではパスタでも食べながら」
「ええ」
「ところでそのパスタですが」
「何か?」
「日本ではパスタだけで食事を採るそうですね」
「ええ、そうですが」
 その通りである。日本ではパスタはそういう食べ物だ。
「それが奇妙だと」
「はい。パスタはスープと同じなので」
 これがイタリアの感覚である。日本とはやはり違うのだ。パスタの食べ方もその国それぞれというわけである。
「それだけを召し上がられるとは」
「それが日本の食べ方でして」
 速水はそれを無下に否定したりはしなかった。こう述べてきた。
「イタリアの方から見たらやはり奇妙ですか」
「はい」
 アンジェレッタは正直に述べた。

 
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